
記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は「セイノー、ファミマ無人決済店で物流一括運用を受託」(10月16日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)
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ロジスティクス無人店舗といえば、最新AI(人工知能)技術や自動決済システムを連想する人が大半だろう。ところが、セイノーホールディングス(HD)の無人店舗ビジネスの肝は、そこじゃない。「物流会社が店舗内作業を丸ごと引き受ける」という大胆な発想だ。10月15日、セイノーHDはファミリーマートと協業し、JR横浜線成瀬駅に無人店舗をオープンした。そこには物流業界の常識を覆す仕組みが隠されていた。
「納品と陳列を完全に切り分けた」──こう明かすのはセイノーHD事業推進部ラストワンマイル推進チーム主査の河口剛氏だ。「従来、無人のコンビニエンスストアでは配送ドライバーが商品を運び、陳列までするのが当たり前だった。だが、これではドライバーの負担が重すぎる。そこで、配送はロッコ(西濃運輸の配送サービス)に任せ、陳列や清掃などの店舗内作業は別のスタッフに振り分ける体制を作り上げた」

▲JR横浜線成瀬駅の無人店での陳列(左)と運搬(右)の様子(出所:セイノーHD)
フリーペーパー配布員が無人店舗を支える
この「別のスタッフ」の正体こそ、このビジネスモデルの肝だ。店舗内作業を担うのはセイノーHDのグループ内にある「リビングプロシード」という会社の人材。リビングプロシードは、もともとリビング新聞というフリーペーパーを各家庭に配っていた会社だ。ところが、時代の流れは容赦ない。スマホ全盛のご時世、紙の広告需要は減少傾向。このままでは会社が立ち行かなくなる危機感を抱いていた。加えて、配布員たちの雇用をどう守るかという切実な問題も横たわっていた。「配布員の大半は地元在住の40代後半から50代の主婦層。地域の裏も表も知り尽くし、長年、決まったルートでフリーペーパーを配り続けてきた。その“地域密着力”を別に転用できないものかと考えた」
そこで、着目したのは配布員たちの「空き時間」だった。フリーペーパーの配布作業は通常1日30分から1時間程度で完結する。つまり、彼女たちには日中、まだ働ける時間が残されていた。
「地域に住み、地域を知っている、短時間で効率的に動ける。この3つの強みを生かせる仕事は何か。そう考えた時、店舗の清掃、空き地・空き家の調査、不動産物件の撮影代行など、さまざまな地域密着型の短時間業務が見えてきた」
隙間時間を埋める地域労働プラットフォームへの進化
実際、リビングプロシードは不動産業界との協業も進めている。「不動産屋の営業マンが物件の写真を撮りに行くのは、大きな負担」としたうえで、河口氏は「でも、スマホで撮れる程度の画質で良ければ、地域を回っている配布員に任せられる。営業マンは本来の営業活動に集中でき、配布員は新しい収入源を得る。Win-Winの関係が築ける」と説明する。
こうした地道な積み重ねが実を結び、リビングプロシードは地域の隙間時間を埋める利便性の高い集団へと変貌を遂げた。フリーペーパー配布で培った地の利を生かし、今度は無人店舗の裏方として表舞台に躍り出たのだ。
「無人店舗の陳列作業は、リビングプロシードの底力の強みが生きる仕事だった」と河口氏は軽くうなずく。「比較的短時間で終わる、地域密着型の作業。それでいて、丁寧さが命。主婦層の皆さんは家事で鍛えた整理整頓の腕前を持っている。商品を見やすく、手に取りやすく並べる。レシートロールを補充し、店内を清掃する。こうしたきめ細やかな心配りこそが、店舗の品質を下支えしている」
「隙間時間で稼ぎたい主婦」と「誰かに頼みたい店舗作業」──この絶妙なマッチングこそ、西濃運輸が打ち出した無人店舗ビジネスの核心部分だ。
グループ内の「眠れる資産」を掘り起こす
このビジネスモデルの裏には、グループ内の言わば眠れる資産を掘り起こした慧眼がある。「リビングプロシードがグループ内にいたのは、本当にラッキーだった」と河口氏は笑みを浮かべる。
「無人店舗の陳列を誰に任せるか。外部の人材派遣会社に丸投げする手もあったが、それではコストがかさむばかり。そこでグループ内に目を凝らすと、地域に太いパイプを持つ人材の宝庫があった。しかも、隙間時間を巧みに使う短時間労働のツボを心得ている。これは活用しない手はないと膝を打った」
多くの企業は、新規事業となると外の力を借りたがる。だが、セイノーHDは「足元を見つめ直す」という地道な作業で、懐に優しく切れ味鋭いビジネスの型を編み出した。ここまで柔軟に動ける秘密には、同社が掲げる「OPP」(オープンパブリックプラットフォーム)という理念が一因にある。要は「社内外や業種の違いを問わず連携し、誰もが使える物流プラットフォームを構築する」という考え方だ。
OPP理念が支える「物流の枠を超えた提案」
「物流会社が物流だけをやる、という時代ではない」という河口氏の言葉には物流業界の枠を超えようとする強い意志がにじむ。「お客さんが困っている。じゃあ、うちに何ができる?そう考えたら、物流の看板に縛られている場合じゃない。今回の無人店舗だって、その答えの一つに過ぎない」
河口氏が語る「物流の枠を超えた提案」は、机上の空論ではない。同社は実際に、さまざまな業界の課題解決に取り組んできた実績がある。
「山口県下関市での取り組みがある」と河口氏が実例を挙げる。「過疎地域の高齢者が買い物に困っている。スーパーマーケットは次々と閉店し、移動手段もない。そこで私たちは自治体と手を組み、買い物支援サービスを始めた。物流会社の本業から少し外れるが、地域の困りごとに対して配送網と人材を生かせないかと考えた末の答えだ」
物流は「血液」──地域に必要な機能を届ける
物流を血液に例えることが多い。血流が止まれば体は死ぬ。同様に、物流が止まれば地域は枯渇する。血液が運ぶのは酸素だけではない。栄養も、免疫も、生きるために必要なあらゆるものを体の隅々まで届ける。「物流だって同じだ。荷物を右から左へ動かすだけが仕事ではない。地域が必要とするあらゆる機能を、血管のように張り巡らせた配送網で届ける。それが、これからの物流の姿のはずだ」と明言する河口氏の言葉には矜持と、地域を支えるインフラとしての覚悟がにじむ。
「今回の無人店舗は、TOUCH TO GO(TTG、東京都港区)という無人決済システムの会社、ファミリーマート、そしてセイノーHDの三つ巴が手を組んで実現した」と河口氏は経緯を説明する。「TTGが技術を、ファミリーマートが小売のノウハウを、うちは配送網と人材を。三者三様の武器を持ち寄って、どこも一社じゃ成し遂げられなかったサービスが形になった」

(出所:セイノーHD)
残された課題と、場所ごとに最適解を探る柔軟性
河口氏は、この姿勢が新しいビジネスチャンスを生むと確信している。「お客様の困りごとに『それは私たちの専門外です』と答えたら、そこでビジネスは終わる。だが『どうすれば実現できるか』を考えれば、新しい可能性が見えてくる。今回の無人店舗も、そうやって生まれた」
もちろん、課題もある。最大の課題は「配送ルートの最適化」だ。河口氏は指摘する。「今は1店舗ずつ、近隣の店舗から商品をピックして配達している。だが、無人店舗が増えれば、効率的なルート設計が必要になる」
今後の展開について、河口氏は「ファミリーマート以外の小売店とも協業を進めたい」と語る。「無人店舗の設置場所によって、求められる商品は変わる。駅ならコンビニ商品、オフィスビルならお弁当、病院ならお見舞い品。それぞれのニーズに合わせた展開が可能だ」
1つの型にはまらず、場所ごとに最適解を探る。この柔軟さこそ、無人店舗の真骨頂かもしれない。
必要なのはリソースの見直しと連携
この無人店舗ビジネスモデルが注目を集める理由は、高い再現性にある。特別な技術も巨額の投資も不要だ。必要なのは「自社グループ内のリソースを見直す視点」と「業界の枠を超えた連携」──この2つだけだ。
「まずは、自社グループ内を見渡すことが大事」と河口氏は言う。「意外なところに、活用できるリソースが眠っているかもしれない。そして、お客様の困りごとに対して、自社だけで解決しようとせず、他社と連携する。それが、新しいビジネスを生む鍵」と見解を述べる。
人手不足、高齢化、地域経済の衰退。日本中の企業が頭を抱えるこの三重苦に、セイノーHDが意外な切り札を繰り出した。物流会社の本領と、地域に根を下ろした人材の底力。この2つを組み合わせると、「これならウチにもできそうだ」と思わせる商売の型が完成する。
「物流は、荷物を右から左へ動かすだけの商売じゃなくなった。地域と人、社会全体を支える存在になる。そのために自分たちに何ができるのか。それを問い続けることが、これからの物流会社には欠かせない」と言う河口氏の言葉が印象に残った。
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