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Safety Driving Award 2025、運送4社の”安全解”共有

西部運輸が最優秀賞、事故5割減「防衛運転」徹底

2025年11月25日 (火)

環境・CSR企業の交通事故削減に向けた優れた取り組みを表彰する「Safety Driving Award(セーフティドライビングアワード)2025」の授賞式イベントが21日都内で開催された。同アワードは、昨年創設されたもので、今回で2回目の授賞式。警察庁の統計で交通事故死者数が下げ止まり傾向にあるなか、社用車を有する企業の事故防止対策に光を当て、実効性の高いノウハウを社会全体で共有することを目的に開催された。

審査は「運送事業部門」と「営業車部門」の2部門で行われ、運送事業部門の最優秀賞には、独自の運転ルール順守を徹底し事故総数を5割削減した西部運輸(広島県福山市)が選出された。

▲西部運輸安全指導部の占部恵司取締役部長(右)

運送事業部門で最優秀賞を受賞した西部運輸は、グループ全体で1600台の車両を保有する大手。重大事故・構内事故の削減を重点目標に掲げ、独自の運転ルール「SEIBU RULE」(西部ルール)を策定。コロナ禍以降はYouTubeを活用した「Web安全講習会」を導入し、全ドライバーへの教育を徹底した。

授賞式に登壇した同社安全指導部の占部恵司取締役部長は、取り組みの背景に「6年前にグループ会社で行政処分による事業許可取り消しを受けた」という苦い経験があったことを吐露。「法律を守らないと会社がなくなるという危機感を全従業員が体感した。それが会社全体の考え方を変えた」と語り、安全と法令順守が経営の最優先事項であることを強調した。

具体的な施策として、長距離輸送における「ドッキング便」(中継輸送)の導入や、デジタルタコグラフの活用を紹介。また、ウェブ講習会については「好きな時に何度でも視聴でき、休日出勤も不要」とドライバーから好評を得た。特に課題である構内バック事故に対しては、「防衛運転」を合言葉に、雨天時や視界不良時には「恥ずかしがらずに降りて確認する」という基本動作を徹底させているという。

優秀賞には名阪急配(愛知県春日井市)と日本交通(東京都千代田区)の2社が選ばれた。名阪急配は、本社主導の安全教育に加え、現場の指導力を強化する「添乗マイスター制度」を導入。認定試験に合格したドライバーを「マイスター」に任命し、手当を支給した上で、各拠点での初任者指導を一任した。同社人事総務部の森弘樹チーム長は「安全最優先はトップダウンが重要」としつつ、「マイスターが本社と現場の橋渡し役を担っている」と説明。事故削減によって下がった保険料分を原資に、AIドラレコなどの安全機器へ再投資する好循環を生み出している。

▲名阪急配人事総務部安全衛生推進チームの森弘樹チーム長

日本交通は、新卒入社社員のみで構成する「葛西営業所」の取り組みが評価された。同営業所の森晃太郎主任は、「運転経験の少なさが最大の課題」と指摘。AI(人工知能)ドラレコを活用してリスク運転を可視化し、「なぜその運転が危険なのか」を丁寧にフィードバックすることで、若手ドライバーの納得感を醸成している。また、ドライバー自身が「セルフチェックシート」で振り返る習慣を定着させ、自信を喪失させずに育成する仕組みを確立。これにより、事故による早期離職の防止にもつなげている。

特別賞を受賞したアトランシード(大阪府東大阪市)のアプローチは、労働環境の改善そのものを事故対策と位置づけた点が特徴だ。荷主との直接交渉により、契約単価を維持したまま労働時間の短縮や完全週休2日制を実現。「スポット便や多重下請けの仕事は受けない」という方針を貫き、ドライバーの疲労や焦りを排除することで、事故削減と離職率の低下を同時に達成した。同社の伊藤学明社長は、「80人規模の小さな会社だが、社長自らが従業員と面談し、LINEで季節ごとの注意喚起を行っている」と、泥臭いコミュニケーションの重要性を強調。事故削減で浮いた保険料を活用し、従業員向けの疾病保険(がん・脳卒中など)に加入するなど、「安心して働ける環境」への還元を徹底している。

▲アトランシードの伊藤学明社長

営業車部門では、独自の「交通安全選手権」で社員を巻き込み、加害事故を6割削減したヤマハ発動機が最優秀賞を受賞した。優秀賞には、AIドラレコのスコア管理を徹底した日立グローバルライフソリューションズ(東京都港区)と、「ながら運転」撲滅を掲げた丸尾興商、特別賞にはシミュレーターによる体験学習を導入したヤマダインフラテクノス(愛知県東海市)がそれぞれ選ばれた。

授賞式後のパネルディスカッションでは、受賞企業の担当者が登壇し、「安全管理のメリット」について議論を交わした。西部運輸の占部氏は「コストはかかるが、それ以上に社内の分析力や管理能力が向上した」と指摘。名阪急配の森氏は「安全への取り組みが顧客からの信頼獲得につながっている」と述べた。

共通していたのは、安全対策が単なる「守り」ではなく、採用力強化や離職防止、ひいては企業価値の向上につながる「攻め」の経営課題であるという認識だ。実行委員会は「テクノロジーの活用や独自の工夫で成果を上げている企業の知見を広めることで、社会全体の交通事故減少に寄与したい」としている。(鶴岡昇平)

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