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先進点呼とAIで変わる安全管理の最前線と課題像

2025年12月10日 (水)

話題LOGISTICS TODAYは9日、オンラインイベント「運行管理は本当に変われるか、点呼業務から見える安全管理の課題と行方」を開催した。当初は国土交通省安全政策課からの登壇も予定されていたが、前日に発生した青森東方沖地震への対応のため急きょ欠席となり、当日は本誌記者の鶴岡昇平が制度解説を担った。ゲストには、テレニシ(大阪市中央区)の法人事業本部ソリューション営業二部長の吉田寛之氏、Nauto Japan(ナウトジャパン、東京都千代田区)セールスマネージャーの堀尾真允氏が登壇し、遠隔点呼・自動点呼を軸に、運行管理の高度化と安全管理の今後について議論が交わされた。

遠隔点呼・自動点呼は「解禁」から「実装フェーズ」へ

冒頭、鶴岡が「ICT活用による運行管理業務の高度化のシナリオ」を基に、制度改正の進ちょくを整理した。同一事業者内における遠隔点呼はすでに本格運用段階に入り、事業者をまたぐ遠隔点呼についてもことしから本格運用が始まっている。自動点呼については、業務後自動点呼が先行して解禁され、業務前自動点呼もことし5月から解禁となった。

▲テレニシ法人事業本部ソリューション営業二部部長の吉田寛之氏

テレニシの吉田氏は「自動点呼」という言葉が先行し、現場では「何でも自動でできる」と誤解されがちだと指摘する。実際には、業務前自動点呼では体温計・血圧計と連動したバイタルチェック、点呼予定の事前入力、アルコールチェックで異常が出た際の管理者対応体制など、複雑な要件が求められる。「制度上は解禁されているが、認定機器が市場に本格的に出始めたのはこの夏以降。導入はまだ“徐々に”というのが実態だ」と話す。

事業者間遠隔点呼、緊張感と業務負担軽減の両面

事業者間遠隔点呼については、「第三者が点呼を行うことでドライバーの緊張感が高まる」という現場の声が紹介された。吉田氏は「同一営業所内では関係性が固定化し、点呼が形骸化するリスクがある。事業者間遠隔点呼は、その意味で一定の抑止効果がある」と評価する。

一方で、別の会社の運行管理者が点呼を担当することで、ドライバーの運転特性や過去の指導履歴が把握しにくくなるという課題も浮かび上がる。この点について吉田氏は「だからこそ、点呼や運行の履歴をデータとして蓄積し、担当者が変わっても状態がわかる仕組みが今後ますます重要になる」と指摘した。

運行管理業務の「一元化」、人手不足への現実的対応策

制度解説の後半では、運行管理業務の一元化についても解説された。運行管理者の不足や業務過多を背景に、同一事業者内で複数営業所の運行管理業務を集約する仕組みが2024年度から本格運用されている。ただ現行制度では、一元化を進めても運行管理者の選任人数が逆に増える矛盾があり、これを解消するために制度改革の議論が進められている。

▲ICTの活用による運行管理業務の高度化のシナリオ(出所:国土交通省)

国土交通省がことし実施したニーズ調査では、健康管理、適性診断の受診指導、指導監督といった分野で委託ニーズが比較的高いことも示された。吉田氏は「こうした業務を専任で担える人材がいない事業者は多く、外部に委託したいというニーズは現場感覚とも合致する」と分析する。

テレニシ導入の実務メリット──標準化と監査対応を同時に

あわせて吉田氏は、クラウド型の点呼システムを導入するメリットについても言及した。最大の効果として挙げたのが、「点呼業務の標準化」と「記録の一元管理」だ。対面、電話、遠隔、自動といった複数の点呼方式を一つのシステム上で管理することで、営業所ごとの運用のばらつきを抑え、誰が対応しても同じ品質で点呼を実施できる体制が構築できるという。吉田氏は「誰でも同じ業務ができる状態になれば、業務は属人化しない。人手不足が進む中で、限られたヒューマンリソースをどう活用するかという観点からも、標準化は必須になる」と語った。

こうした背景を鑑み、同社の「IT点呼キーパー」は、これらの課題に対応する機能を盛り込んでいるという。点呼記録、アルコールチェック結果、例外対応の履歴などを一元的に管理できる仕組みによって、日常業務の安定運用と監査・行政対応の双方を支える基盤としての役割を担う。紙や属人的な運用に依存していた従来型の点呼と比べ、「記録の検索性」「証跡の明確化」「是正指導の可視化」といった面で実務負担が軽減される点は、導入企業が評価するポイントの一つとなっている。

AIドラレコで「事後対応」から「予防型安全管理」へ

▲Nauto Japan セールスマネージャーの堀尾真允氏

堀尾氏は、同社のAI(人工知能)ドラレコを活用した安全管理の取り組みを紹介した。ナウトのAIドラレコは、脇見運転や眠気、スマートフォン操作などの危険行為をリアルタイムで検知し、ドライバーと管理者の双方にアラートを送る。累計52億キロの走行データと7億9500万回の危険運転検知データを基に、安全度を数値化する「ベラスコア」によって、事故リスクを科学的に評価できるのも特徴だ。

堀尾氏は「数値やグラフを一方的に示しても、ドライバーには響かない」とした上で、映像を一緒に見ながら対話する重要性を強調する。「実際の映像を基に『このとき何を考えていたのか』と対話を重ねることで、安全が初めて自分ごとになる」。点呼と走行データの連携は、安全管理を“管理”から“支援”へと転換する鍵になる。

安全管理は「コスト」から「投資」へ

終盤では、ことし公布されたトラック適正化二法(主に許可更新制)にも話題が及んだ。堀尾氏は「安全管理はコストではなく投資であり、企業のブランド価値を高める」と指摘。鶴岡氏も「安全管理が不十分な事業者は、制度上も市場から淘汰されていく可能性がある」と警鐘を鳴らした。

先進点呼とAIドラレコ、運行管理業務の一元化──。オンラインセミナーを通じて浮かび上がったのは、制度とテクノロジーはすでに“使える段階”に入りつつある一方、現場への実装と運用設計こそが今後の成否を分けるという現実だった。運行管理は本当に変われるのか。その問いに対し、「変われる条件」はすでに揃いつつあることが示されたと言えそうだ。

>>特集トップ「『運行管理・点呼』改革の波に乗り遅れるな」へ

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