ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

サステナブル物流の「次」を見据え、回収から再資源化までをつなぎ直す

紙コップ循環を常識へ、東洋製缶Gが挑む静脈物流

2026年1月19日 (月)

記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は「ヨーグルト紙容器の回収・再生へ神戸で実証実験」(2025年12月25日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)

ロジスティクス改正物流効率化法で明示されたのは、サステナブルな物流を守るための荷主企業の責任。まずは荷待ち・荷役時間の削減や積載効率の向上を目指すことから。しかし、それはあくまでもはじめの一歩に過ぎない。環境対策や資源の有効利用など、持続可能な社会の構築に向けては、さらにその先を目指す姿勢が求められる。サーキュラーエコノミーの構築も、その先を見据えた取り組みの1つ。

紙コップ市場のリーディングカンパニーである東洋製缶グループホールディングス(GHD)と、そのグループ会社である東缶興業(東京都品川区)は、紙コップのリサイクルに関する検証を続け、まさに「その先」を歩き続けている企業だ。使用済み紙コップを回収し、再資源化につなげる実証を全国各地で積み重ねてきたが、2025年12月からは神戸市の資源回収拠点「エコノバ」を活用し、アイスクリームやヨーグルトで使用される紙製食品容器を市民が“洗って持ち込む”回収モデルの実証も開始した。

東洋製缶GHDサステナビリティ推進部サステナビリティ戦略グループリーダーの吉川雅之氏は、「脱炭素(カーボンニュートラル)、自然共生(ネイチャーポジティブ)、と並ぶグループ環境方針3本柱の1つが循環型社会(サーキュラーエコノミー)」と語り、50年度には紙コップ循環スキームが社会に定着することを目指すグループ方針を示す。

「元々、ワンウェイでの使い勝手を突き詰めたものが紙コップ」と、東缶興業執行役員営業本部、阪井雅之氏はいう。オフィスのコーヒーベンダーで、野外やホールイベントの会場で、我々も消費者の立場でその便利さと手軽さを享受している。ちょっとした仲間同志の集まりでは、大きなペットボトルと紙コップでいいかとなる。それは飲料容器としての品質の高さと同時に、「捨てやすさ」が支持されていることにほかならない。

ワンウェイ容器としての完成形、象徴ともいえる紙コップを、循環型の資源として再定義しようという取り組みで、同社はどんな社会の実現を目指すのか。狙いは単なるリサイクルではない。消費者行動、自治体の制度運用、回収・選別・再生の物流網(静脈物流)をつなぎ直し、サーキュラーエコノミーを“社会実装”することにある。

▲神戸市「エコノバ」における紙容器回収実証実験(クリックで拡大、出所:東洋製罐グループHD)

ワンウェイで終わらせない、リーディングカンパニーの使命

筆者も紙コップはごみ箱に放り込んだことしかないと白状すると、阪井氏は紙コップ市場でトップシェアを誇る東缶興業としての使命感をこう語る。「ワンウェイのものをワンウェイで終わらせてはいけない。コア事業を守るためにもサーキュラーエコノミーを実現しなければならず、私たちにはそれを先導すべき役割がある」

例えば牛乳パック。牛乳パックのリサイクルはすでに社会的に認知されて一定程度の回収ルートを確立、今では3割程度の回収率だという。東缶興業の紙コップもPEフィルムをラミネート加工するなど組成面では牛乳パックに近いことを考えると、紙コップの“燃やして終わり”という常識も変革が可能ではないかと訴える。

▲アルバルク東京のアリーナでの紙コップ洗浄の様子(出所:東洋製罐グループHD)

東缶興業環境部ジェネラルマネージャーの久保英治氏は、「まずは消費者自身も紙コップの再資源化、静脈物流におけるサプライチェーンの一角であるという意識と行動の変容を促すこと。より強力な呼びかけとなるよう、自治体との連携、スポーツイベントなどで周知に取り組んでいる」と語る。まずは回収設計をしやすいクローズドな現場に専用洗浄機と回収ボックスを設置した回収ステーションを整えて、来場者の協力を求めることから取り組みを本格化した。

特にスポーツを通じた発信力や、リサイクル意識の高い子どもたち世代の影響力には期待を寄せる。東洋製缶グループはサッカーJリーグ・鹿島アントラーズとの取り組みに加え、バスケットボール・Bリーグのアルバルク東京とはサステナブルパッケージパートナー契約を締結し、アリーナで使用された飲料用紙コップの回収率向上につなげている。

また、「仙台うみの杜水族館」では、洗浄・回収ステーションにスタッフを常駐させず、掲示のみで運用しながら初年度から4割超の回収率を達成した。子どもたちが環境問題を身近に感じられる場所では、大人の行動変容も自然と促される。

循環構築の起点・消費者に求めるワンアクション

一方、神戸市での取り組みは、こうしたクローズドな現場回収とは異なり、消費者が家庭から紙容器を“洗って持ってくる”行動を求めるものだ。市民がどれくらいエコノバに持ち込んでくれるのか、回収物は適切に洗浄されているのかといった点を検証する。

循環物流の構築には莫大な投資も必要である。東缶興業が指摘するコストの焦点は、「回収」と「原料を再生する工程」の2点に集約される。回収量が少ないうちは、回収車両の積載効率も、再生工程の稼働効率も上がらない。逆に言えば、量が集まり始めれば回収・再生の双方で効率が上がり、コスト削減の余地が出る。課題は、その“最初の量”をどう生むかにある。

量を生むために必要なのが、消費者の認知と行動変容だ。紙コップは「便利さ」が価値の中心で、捨てるところまで含めてワンウェイが常識となっている。そこに「条件を満たせば資源になる」という新しい常識をどう浸透させるか。東缶興業は、回収を単なる分別にせず、あえて「洗う」「持っていく」といった“ワンアクション”を求める設計を採る。行動を伴うことで、循環の意味を体験として刻み込む狙いだ。

「使い終わった紙容器を洗って持ってくるのは、消費者にとって決して低いハードルではない」と久保氏は率直に語る。現状は市内2拠点からのスタートだが、実証を3月で終わらせず、4月以降の実装や拠点拡大、費用負担と運用体制の設計が次の焦点となる。

目指す理想形は、紙コップが紙コップへ戻る「カップtoカップ」の仕組みだ。JALグループ、日本製紙グループと連携した機内回収・水平リサイクルの実証をはじめ、現在は東洋製缶グループ本社や品川区避暑シェルターでの実証実験にも取り組む。一方で久保氏は、「100点満点の紙コップリサイクルにこだわらず、段ボールや衛生紙など多様な出口を認め、まず“回る状態”をつくる検証も必要」と語る。

「もちろん道のりは長い。ただ、牛乳パックのリサイクルも山梨県の主婦たちの呼びかけから始まった。紙コップも、意識変革に向けたスタートラインに立つことが重要」(阪井氏)なのである。

▲品川区との紙コップのリサイクル実証実験フロー図(クリックで拡大、出所:東洋製缶GHD)

“地産地消の循環”などきめ細やかな連携の必要性

紙コップの循環は、全国一律の仕組みにしにくいという現状もある。再資源化の可否は、地域の製紙メーカーや古紙事業者の設備・技術条件に左右されるためだ。

神戸市での検証における回収については、そもそも物流課題になるような回収量とスキームを想定する段階にはない。ただ、今後各地へ広げていくためには、その地域ごとの実情に応じた回収物流のスキームを組み立てていくことも必要になり、その実情に応じた課題にもぶつかる。

再資源化の受け皿がない地域では、紙コップをエリア単位で集めても、遠距離輸送で他の地域に持ち込むことになる。これでは温室効果ガス排出増を招きかねず、東日本で成立するスキームが必ずしも西日本で上手くいくとは限らない。地域内で完結する循環“地産地消”の設計など、静脈物流では、動脈物流以上に丁寧な企業間連携、“物流は競争ではなく共創”の姿勢で臨まなくては成立しない。

ペーパーレスの進展による古紙量の減少も顕在化している。古紙が集まりにくくなるなかで、従来“見られていなかった”紙コップが、新しい原料候補として視野に入ってきた。古紙問屋の設備投資(粉砕・洗浄)や、製紙メーカー側の受け入れ条件整備が進めば、静脈物流は太くできる。ただし、それを地域ごとに成立させるには、拠点設計と物流設計が不可欠となる。

静脈物流のボトルネックとなる制度・衛生・前例

静脈物流を組む上で、制度面の論点も重い。紙コップは使用後の状態によって廃棄物と見なされやすく、自治体境界をまたぐ移動や、誰が運ぶかといった運用で制約が出る。近年、計画とトレーサビリティーを前提に運搬主体の柔軟性を広げる枠組み(いわゆる大臣認定の考え方)により、静脈物流を効率化する動きも具体化しつつあるが、前例形成にはいまだ慎重な様子も見受けられる。取り組みの意義、認識は広まりつつあるも、アクションを許容する前提がまだ整っていない。

衛生面も同様だ。物流効率化の観点では「納品便の帰りで使用済みカップを回収する」発想も検証されたが、現状では衛生・規制・現場運用の壁が厚い。だからこそ、“廃棄物ではなく資源として扱う前提を社会として整え、回収設計と制度運用を近づける必要がある”という問題提起につながる。PETボトルでは飲料メーカーや業界が連携した推進力で水平リサイクルを実装してきたように、紙コップでも段階を踏みながら実績を積み上げる過程が必要だ。

問われる「共創」—紙コップメーカーだけでは社会実装できない

東缶興業は循環物流に加え、ことし4月の制度施行によるCLO(物流統括管理者)体制も見据え、物流の足腰を変える取り組みも進める。直積み中心だった出荷形態をパレット輸送へ転換するなど、輸送の標準化と荷役負荷の低減を進めている。モーダルシフトも含め、持続可能性の観点から“動脈側”の改善も並行して進める。

また、油汚れやソース汚れなど洗浄が困難な食品用紙コップにおいては、中のフィルムを剥がしやすい製品も開発。回収物流をただ物流の問題だけに矮小化せず、製品開発段階からサーキュラーエコノミー構築を目指す構えだ。

とはいえ、その社会実装には個社単独では限界がある。紙コップだけではなく缶、PETボトルなど多様な領域で業界をリードし、日常生活で東洋製缶グループの製品に触れない日はない。それでも、紙コップの循環物流においては多様な領域との連携、共創なくしては前進できない。自治体の回収設計、古紙事業者の回収・選別、製紙メーカーの受け入れ、そして何より市民の行動が絡んだサプライチェーン構築には、地道に一つ一つのドアをノックして呼びかけていく覚悟と根気も必要だ。スポーツ、イベントなど影響力のある場で事例をつくり、横展開を促すとともに、「容器メーカーとしてはあくまでも黒子的立場であり、社会に伝える“旗振り役”としては、ブランドオーナーの発信力にも期待したい」(阪井氏)との実情も語る。

既成概念の打破から始まる静脈物流の社会実装

▲東洋製罐グループ本社に設置されている紙コップ洗浄・回収ステーション

東洋製缶グループのオフィスでは、カップの洗浄機と回収ステーションが整備され、再利用のためのひと手間が、社員の日常に落とし込まれている。同社訪問を経て、改めて自社オフィス環境を見直すと、紙コップ自販機の横にはごみ箱が並び、循環利用実現までの道のりの長さを感じる。

阪井氏は、「循環を“どこかの問題”にせず、既成概念を少しずつ崩すこと」の重要性を強調した。「法律がこうだから」「汚れがあるから」と止めるのではなく、個々の論点を一つずつクリアすれば、ハードルは必ず下がると呼びかける。「各々の領域のできることから自分たちのフィールドの定義を少しずつ崩していければ、サーキュラーエコノミー実現のハードルは高くない」(阪井氏)。

競合を越えた共配・共同回収による“共創”も含め、静脈物流を社会インフラとして育てられるか。紙コップの挑戦は、サーキュラーエコノミーの実装が「物流設計」そのものであることを、改めて浮かび上がらせている。

▲(左)東罐興業 阪井氏(中央)東洋製缶GHD・吉川氏 (右)東缶興業・久保氏

■「より詳しい情報を知りたい」あるいは「続報を知りたい」場合、下の「もっと知りたい」ボタンを押してください。編集部にてボタンが押された数のみをカウントし、件数の多いものについてはさらに深掘り取材を実施したうえで、詳細記事の掲載を積極的に検討します。

※本記事の関連情報などをお持ちの場合、編集部直通の下記メールアドレスまでご一報いただければ幸いです。弊社では取材源の秘匿を徹底しています。

LOGISTICS TODAY編集部
メール:support@logi-today.com

LOGISTICS TODAYでは、メール会員向けに、朝刊(平日7時)・夕刊(16時)のニュースメールを配信しています。業界の最新動向に加え、物流に関わる方に役立つイベントや注目のサービス情報もお届けします。

ご登録は無料です。確かな情報を、日々の業務にぜひお役立てください。