
記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は「日通とJR東海、新幹線活用の即日貨物輸送を開始」(1月15日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)
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話題2024年問題への対応として、トラック輸送から他モードへの転換が急務となるなか、新幹線を活用した貨物輸送が新たなフェーズに突入した。日本通運(NXグループ)が展開する「NXスーパーエクスプレスカーゴ」は、1月よりJR東海エリアへ拡大し、東名阪という日本の大動脈をつなぐ当日配送網を構築した。しかし、このサービスは単なる「速い輸送」ではない。鉄道各社との複雑な調整や許認可、そして「緊急需要」に特化した独自のビジネスモデルによって成立している。日本通運事業統括本部の宮田光揮専任部長への取材から、その深層を探る。
航空便とも競合し得る、緊急輸送の新たな選択肢
新幹線貨物の普及において焦点となる運賃設定について、宮田氏は「本サービスは通常の宅配便や鉄道コンテナとは一線を画す『緊急輸送』に特化している」と説明する。料金構成は、集荷から駅まで、および着駅から最終配送先までの「両端のチャーター料」に数万円、そして新幹線の輸送費に数千円を要する。

▲日本通運事業統括本部ネットワーク商品企画部専任部長の宮田光揮氏
一見すると高額だが、これまで名古屋発着の当日配送が「直送チャーター便」など極めて限られた手段しかなかったことを踏まえれば、十分に競争力がある。さらに、時間帯によって運賃が変動する航空便と比較しても、新幹線は価格面や利便性で優位性を発揮するケースがあるという。「名古屋から東京、あるいは大阪へ当日中に届ける手段として、渋滞リスクを回避しつつ、航空便とも渡り合えるスピードとコストのバランスを安定して提供できる」と、宮田氏はその自信をのぞかせる。
特に空港から市街地が離れているエリア、例えば名古屋駅周辺などでは、空港到着後のリードタイムや横持ち運賃を考慮すると、新幹線の競争力は極めて高い。航空便に比べると利用・積み込みに関わる手続きが簡便であるため、緊急性の高い荷物を都市部に運ぶような際には、利用価値の高い輸送手段と言える。
「停車時間」の制約をクリアするエリア別戦略と規格統一
サービス実現までには、利用する新幹線の駅を「貨物取扱駅」として登録しなければならなかった。宮田氏は、これまで新幹線の駅を登録した前例がなかったため、許認可の取得が最も苦労した点だと明かす。「一番最初に苦労したのは許認可だ。国交省と協議し、一からスキームを作り上げた。特に第二種鉄道利用運送事業の認可については、各駅ごとに一つずつ積み上げていく必要があった」と振り返る。
また、新幹線の短い停車時間への対応も重要な鍵だ。東海道新幹線の法人向け即日荷物輸送サービス「東海道超(ウルトラ)マッハ便」などの運用では、停車時間がわずか1分程度の途中駅では積み下ろしが困難なため、基本的には東京、名古屋、新大阪といった終着駅・拠点駅での運用に特化している。一方で、JR九州エリアでは、一定の条件のもとではあるが、全駅で取り扱いを可能としているなど、路線の特性に合わせた展開を行っている。「新幹線は1分止まるか止まらないかの世界。その間に台車でホームまで運び、決められた号車に積み込む安全性を担保するため、JR各社とは非常に密な調整を行った」と宮田氏は語る。

▲荷物は日本通運が集荷し、台車でホームに運ばれる(出所:NIPPON EXPRESSホールディングス)
こうした全国展開を支えるのが、あえて絞り込んだ「荷物サイズ」の規格統一だ。「JR各社で荷物の制限サイズはまちまちだが、弊社のサービスとしては上限を120サイズに統一している。これにより、全国どのエリアを跨いでも一貫したサービス品質を担保できる」と、運用上のこだわりを明かす。
医療パーツから検体まで、悪天候時の「最後の砦」
実際に新幹線を選ぶ荷主の動向からは、日本の物流が抱える切実な課題が透けて見える。主要な利用分野の一つは、病院向けの医療機器保守パーツだ。「例えば、高度な医療機器が故障した際、その日のうちにパーツが届くかどうかは命に関わる。パーツセンターから全国の病院へ、確実に即日届ける手段として新幹線が指名されている」と宮田氏は語る。

▲荷物は最大120サイズを想定(出所:NIPPON EXPRESSホールディングス)
また、悪天候で航空機が飛ばない、幹線道路が通行止めとなりトラック輸送が難しい場合においても、新幹線の定時性は威力を発揮する。「台風や降雪などで航空便が欠航する際も、新幹線なら動いているケースが多い。遅延が許されない検体輸送や、印刷後すぐに配送が必要な業界紙・新聞系といった需要において、新幹線は信頼の置ける選択肢となっている」という。現在はトラックでの集荷・配送が中心だが、今後は機動力を高めるため、軽貨物車両などの活用も視野に入れている。
加えて、荷主企業の脱炭素経営を支援するエビデンス提供も強みだ。「新幹線輸送におけるCO2排出量を算出するツールを整えており、第三者検証を受けた基礎数値を適用できる。外資系企業を中心に、環境負荷低減の具体的なエビデンスを求める声に応える体制がある」と、モーダルシフトの「成果」を可視化する重要性を説く。
「全国網」へのラストピース、山陽新幹線との接続
今後の焦点は、現在協議が進んでいる山陽新幹線(JR西日本エリア)への延伸だ。「すでにお客様からは『九州から大阪まで運べないか』といった問い合わせを数多くいただいている。今後は東海道新幹線と東北新幹線をつなぐような『トランジット』(接続)の仕組みをどう作るかが課題だ」と宮田氏は展望を語る。各社間での連携スキームが構築されれば、真の意味での「全国新幹線物流網」が完成する。
ただし、普及には地道な積み上げが欠かせない。「どの商品も同じだが、リリースして急に荷物が増えるわけではない。お客様の出荷体制や利用したい時間帯など、条件面のすり合わせを地道に積み重ね、一社ずつ契約を結んでいくプロセスを大切にしている」と、現場のリアリティを語る。
物流インフラとしての新幹線を再定義する
新幹線輸送は、決して既存の鉄道コンテナの代わりになるものではない。積載スペースが限られるなか、少量・高付加価値な貨物をいかに効率よく運ぶかという、極めて戦略的な「モーダルコンビネーション」の一環である。宮田氏は「例えば北海道から九州まで荷物を運ぶのであれば、スピードでは航空便にはかなわない。東京から大阪、名古屋といった中長距離での素早い輸送という強みを生かし、サービスを伸ばしていきたい」
「我々が目指しているのは、お客様の困りごとに対して『新幹線という選択肢がありますよ』と即座に提案できる体制を整えることだ」と宮田氏は締めくくった。2024年問題を契機に、新幹線という既存の旅客インフラを「貨物の幹線」として再定義する日本通運の取り組みは、サプライチェーンの強靭化に向けた一つの解答を示している。(土屋悟)
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