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高速道路・空港・鉄道・港湾が26年に動き出す

ベトナム、物流インフラ一斉始動

2026年3月10日 (火)

国際ベトナムの物流インフラが歴史的な転換点を迎えている。南北高速道路3000キロ超の全線開通、ロンタン国際空港の26年6月商業運航開始、中国国境への鉄道建設着手、南部水路回廊の整備——これらが26年に同時進行する。物流コストがGDP比16%と域内で高止まりしてきたベトナムにとって、この「インフラ一斉始動」は構造的なコスト圧縮の起点になる。(編集長・赤澤裕介)

26年に「点」が「線」になる

ベトナムのインフラ投資が従来と異なるのは、個別プロジェクトの規模ではなく、複数のモードが同じ時期に結節点で接続し始める点だ。高速道路が港湾に到達し、空港が高速道路と連結し、鉄道が国境を越える。この「マルチモーダル同期」が26年に一気に立ち上がる。主要プロジェクトの現在地を整理する。

最大のプロジェクトから見ていく。東線南北高速道路は、26年3月時点で3000キロ超が完成した。21-25年に整備された23の区間プロジェクトから構成され、交通インフラ整備史上で前例のないスピードだと評価されている。

26年3月の首相現地視察では、中部のクアンガイ-ホアイニョン(88キロ)とホアイニョン-クイニョン(70.1キロ)の2区間が3月中の供用開始を目指す段階にある。クイニョン-チータン区間は工事進捗96%で3月完了予定、チータン-ヴァンフォン区間は93%に達した。全線のカオバン-カマウ軸を完成させる最後の2区間であるフウギ-チーラン、ドンダン-チャリンの両高速道路は、26年5月19日までの完成を目標に85日間の「特別司令部」が設置された。

さらに建設省は、既存の4車線区間18路線を6車線に拡幅する提案を政府に提出した。総投資額は152兆ドン(60億ドル)規模で、官民連携(PPP)方式を想定している。一部区間は26年第2四半期に着工し、28年末までに供用開始する見通しだ。

物流への影響は直接的だ。首相は高速道路沿線の自治体に対し、産業団地・物流センター・商業サービスの立地を明確化し、新たなインフラの優位性を最大限活用するよう指示している。

空の玄関口も動いている。ホーチミン市の東40キロに位置するロンタン国際空港は、第1期(投資額54億ドル)の商業運航を26年6月に開始する。25年12月19日にベトナム航空のボーイング787が初の公式フライトを実施し、技術的な開港を果たした。

第1期の設計処理能力は年間旅客2500万人、貨物120万トンだ。全面完成時には旅客1億人、貨物500万トンの処理能力を持ち、東南アジア最大級の空港となる。開業当初はヨーロッパ、インド、中東、北米路線を受け入れ、既存のタンソンニャット空港はASEAN域内路線に集中する。フェデックスやUPSなど貨物オペレーターも強い関心を示している。

(イメージ)

物流視点で重要なのはアクセスインフラだ。空港直結のT1・T2ルートは供用準備が完了しているが、主要アクセス路であるホーチミン-ロンタン-ザウザイ高速道路の拡幅(8-10車線化、投資額6億1000万ドル)は26年12月完成予定で、開業直後はアクセス集中によるボトルネックの懸念がある。ビエンホア-ブンタウ高速道路(区間1)は26年5月完成を目指しており、港湾システムとの接続が実現すれば、ロンタンは航空物流ハブとしての機能を本格化させる。

鉄道も動き出した。中国国境とハノイを結ぶ77億ドル規模の鉄道プロジェクトが初期工事段階に入った。複数の駅で工事が始まり、追加駅の設計が26年中にフェーズ分けで進む。本線の軌道工事は準備段階の完了と事業性調査の承認を経て着手される。

ベトナム政府はこの鉄道を長期的な輸送・産業戦略の柱と位置づけ、高速道路への圧力緩和、輸出物流の改善、クロスボーダー接続の強化を目指している。完成後はベトナム鉄道公社がインフラ管理と運営を担う。

ホルムズ海峡情勢を踏まえた海上輸送リスクの文脈では、この鉄道は中国経由の陸路代替ルートとしても注目されるが、現時点では建設初期段階であり、実際の運賃・リードタイム比較が可能になるのは数年先だ。この点は別稿で詳しく検証する。

水路にも大型投資が入る。南部の水路・物流回廊整備プロジェクトが26年末に着工する。世界銀行の融資を受けた総額1億6880万ドルの事業で、メコンデルタと南東部の物流ハブを結ぶ東西・南北の2つの内陸水運回廊を改修する。カイメップ・チーバイ深海港群への接続も強化され、貨物輸送量の増加、輸送時間の短縮、温室効果ガスの削減が見込まれる。

ベトナム南部は河川と運河のネットワークが発達しており、内陸水運は伝統的に物流の柱だった。しかし水路の維持管理不足による浅瀬や事故リスクが課題となっており、このプロジェクトで航行安全性と製造拠点から主要港間の接続性を同時に改善する。30年の完成を目指す。

港湾も拡張フェーズに入っている。首相は主要港湾の拡張・改修プロジェクトについて、用地取得の加速を自治体に指示した。対象はカイメップ・チーバイ(南部)、ラックフエン(北部・ハイフォン)、リエンチウ(中部・ダナン)の3港群だ。

南東部重点経済圏はベトナム全体の貨物量のほぼ半分を取り扱っており、カイメップ・チーバイ深海港を核としたロジスティクス拠点が集積している。ロンタン空港の開業、環状3号・4号線の順次開通、新たな高速道路群の接続により、この地域のマルチモーダル効率は26年から段階的に大きく向上する見通しだ。

これらのインフラが同時に立ち上がることで、物流コストの構造的な圧縮が視野に入る。ベトナムの物流コストはGDP比16%前後で、シンガポール(8%)、マレーシア(12%)、世界平均(11%前後)と比べて高い。この高コスト構造は、港湾から内陸工業団地への接続の弱さ、陸路輸送への過度な依存、通関手続きの非効率に起因してきた。

26年に始まるインフラの同時接続は、この構造にメスを入れる。高速道路が港湾と空港を直結し、内陸水運が貨物を分散させ、鉄道が将来的にクロスボーダー輸送の選択肢を広げる。政府は物流コストを30年までに段階的に引き下げる開発戦略を25年10月に承認しており、持続可能かつテクノロジー主導のエコシステム構築を掲げている。

ただし、インフラのハード面が整備されても、通関の透明性向上、熟練ドライバーの確保、デジタル化に対応できる物流人材の育成といったソフト面の課題が残る。自動化設備を導入しても、それを運用する人材が不足していればコスト削減効果は限定的だ。

ハード面にも死角はある。ハノイやホーチミンの環状道路の整備が幹線高速道路に追いつかなければ、「港湾までは速いが倉庫から出られない」というラストマイルのボトルネックがむしろ悪化しかねない。ホーチミン-ロンタン高速道路の拡幅が空港開業に1年遅れる見通しであることは、この構造的リスクの象徴だ。北部では電力供給の不安定さも懸念材料で、自動倉庫やEVトラックの普及を目指すなら、物流インフラと並行してエネルギー基盤の強化が欠かせない。

中国+1の文脈でベトナムに拠点を構える日系企業にとって、インフラ整備の進捗は拠点配置や輸送モード選択に直結する。商船三井が出資参画する「ロジクロスハイフォン」(25年11月稼働)に加え、NXグループがレムチャバン近郊で物流拠点を強化するなど、日系物流企業もASEAN域内でのポジショニングを加速させている。26年はベトナム物流にとって、「計画の時代」から「接続の時代」への移行年になる。

▲ベトナム物流インフラ主要プロジェクトの進捗(クリックで拡大)

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