国際マレーシア・ペナン州に半導体関連の物流投資が集中している。23年のペナンへの外国直接投資は128億ドルと過去7年間の合計を1年で超えた。2024年の実現投資額は427億6000万リンギットに達し、インテル、インフィニオン、ASE、チップボンドテクノロジーなどが後工程(テスト・パッケージング)の拠点を拡張中だ。半導体工場が増えれば物流も増える。ただし半導体が求める物流は、一般貨物とはまるで違う。(編集長・赤澤裕介)
半導体は「壊れやすい精密品」を毎日大量に動かす産業だ
半導体の物流が特殊なのは、扱う製品の性質による。ウエハーやパッケージ済みのチップは静電気に極めて弱く、輸送中にESD(静電気放電)が起きれば製品が壊れる。温度が変動すれば結露で回路がショートし、振動が加われば微細な配線が断線する。つまり「運んでいる間に不良品になる」リスクが常にある。物流の品質がそのまま製品の歩留まりに直結するため、半導体メーカーは物流企業を選ぶ基準が厳しい。
具体的に何が求められるかというと、まずESD対策を施した専用の包装材と保管環境が必要だ。倉庫や輸送車両の中でも静電気が発生しない素材・接地処理が求められる。次にクリーンルーム環境での検品・梱包。半導体工場と同じISO14644規格の清浄度を物流拠点にも求めるケースがある。温度・湿度の連続モニタリングも必須で、データが途切れれば出荷先が受け取りを拒否することもある。さらにウエハーを運ぶ専用容器(FOUP)の取り扱いには特殊な訓練が要る。
こうした要件を満たせるフォワーダーは限られる。設備投資が大きく、認証取得にも時間がかかるため、参入障壁が高い。逆に言えば、対応できる物流企業は価格競争に巻き込まれにくく、長期契約を取りやすい。NXグループ(日本通運)がインテルの25年EPICサプライヤー賞を物流企業として唯一受賞したのは、こうした特殊要件への対応力が評価された結果だ。
もう一つ、半導体物流の大きな特徴は航空貨物への依存度が高いことだ。チップは軽量・高単価で、納期が日単位で管理される。コンテナ船で数週間かけて運ぶ一般貨物とは物流モードが異なる。ペナン国際空港からアジア主要ハブへ48時間以内に届けられるかどうかが、物流企業にとっての勝負どころになっている。ペナン州政府が24-28年に空港近接地域とバトゥカワン地区に3000エーカーの物流・配送パーク用地を確保する計画を打ち出したのは、この航空貨物需要を取り込むためだ。

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ペナンに半導体物流が集まる背景には、50年以上の産業集積がある。1970年代にインテルやヒューレット・パッカードが組立工場を置いて以来、OSAT(後工程受託製造)の世界的拠点に成長した。OSATの特徴は、世界中のファブ(前工程工場)からウエハーを受け取り、テスト・パッケージングして出荷する点にある。つまりペナンには毎日、台湾、韓国、日本、米国からウエハーが飛んでくる。この受け入れ・出荷の双方向の流れが航空貨物インフラを発達させ、それがさらに半導体関連企業を引き寄せるという循環が生まれている。
26年2月には台湾のチップボンドテクノロジーがバトゥカワンに2億ドル規模の先端パッケージング工場を開所し、ウエハーバンピングやウエハーレベルCSPの量産を26年第1四半期から始めている。ASEはペナンの製造フロア面積を3倍に拡張し、AI(人工知能)・車載向けに対応する。隣接するケダ州のクリムハイテクパークにはインフィニオンのパワー半導体ファブが立地し、AT&Sが東南アジア初の高級基板ラインを稼働させた。
スウェーデンのネファブが24年7月にバトゥカワンに開設した施設は、半導体物流の方向性を示している。クリーンルーム、ISTA認証の試験設備、設計センターを一つの拠点に集約し、半導体製造装置向けのESD保護包装を製造する。リサイクルプラスチックや釘なし合板の梱包材で輸出にも対応している。こうした「包装から輸送まで一貫して半導体を守る」専門拠点がペナンに増えつつある。
ポートクランも引き続き重要だ。世界10位のコンテナ港で130か国以上350港と接続しているが、船舶の平均待機時間が1.3-1.46日とスケジュール信頼性に課題がある。ウエストポーツが年間取扱能力を1400万TEUから2800万TEUへ倍増させる拡張計画(投資額396億リンギット)を進め、マレーシア海事シングルウィンドウで通関処理を迅速化している。ただし半導体物流に限れば、港湾より空港の方が戦略的に重要な位置を占めている。
マレーシア政府の26年度予算は半導体産業の強化を明確に打ち出した。カザナ・ナショナル(政府系ファンド)とKWAP(公務員年金基金)を通じた5億5000万リンギットの半導体パートナーシップ投資、BPMB(マレーシア開発銀行)の5億リンギットR&D融資、スタートアップ向け「セミコンスタート」の創設、2億リンギットのイノベーション商業化基金、「メイド・バイ・マレーシア」認証プログラムだ。マレーシア半導体工業会(MSIA)は「重要なのは実行。配分を行動に変え、ローカル企業がバリューチェーンを上がれるようにする必要がある」と指摘している。
マレーシアの物流市場全体は25年の297億ドルから31年に401億ドルへ成長する見通し(年平均成長率5.14%)で、24年の承認投資額は3785億リンギット(823億ドル)に達した。ただしこの成長の中身が変わりつつある。一般貨物の運賃はASEAN域内で下落圧力が続くなか、半導体のように特殊な管理を求める貨物は物流単価が高く、契約も長期になりやすい。日系物流企業がASEANで存在感を維持するうえで、こうした高付加価値領域に食い込めるかどうかが問われている。ペナンはその最前線だ。
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