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約款改正と附帯業務有償化の現場

倉庫の「無料作業」は終わるか

2026年4月1日 (水)

ロジスティクス2026年4月1日、標準倉庫寄託約款が施行される。1959年の制定以来、60年超ぶりの全面改正だ。仕分け・検品・ラベル貼りといった附帯業務が有償であることが初めて明文化され、緊急の入出庫オーダーにも追加料金の請求が認められた。倉庫業者は「請求する根拠」を手にしたことになる。だが、根拠があることと、実際に請求が通ることは別の問題だ。(編集長・赤澤裕介)

約款は変わった、契約はこれからだ

改正の柱は3つある。第1に、保管・入庫・出庫といった通常業務に附帯する作業を明確に定義したこと。手荷役、仕分け、検品、ラベル貼り、開梱検品がいずれも「附帯業務」として位置づけられ、荷主から指示を受けて行う場合は別途料金を請求できると定められた。第2に、十分な時間的余裕のない入出庫指図や、直前の指図取消しが生じた場合にも追加費用を請求できる条項が設けられた。荷役・荷待ち時間の増大につながる緊急オーダーを牽制する趣旨だ。第3に、約款の法的位置づけが通達から告示に格上げされた。倉庫業者が料金を請求する際に「国の告示に基づく標準的な取引ルールだ」と説明できるようになった意味は小さくない。標準冷蔵倉庫寄託約款も同時に改正されている。倉庫業法上、標準約款と同一の約款を採用すれば国への届出が不要となるため、多くの倉庫業者がこの標準約款を自社の約款として採用している。今回の改正は、その全社に影響する。主な改正点を整理する。

▲標準倉庫寄託約款の主な改正点(クリックで拡大)

では、なぜこれほど長い間、これらの作業は「無料」だったのか。

旧約款には附帯業務の定義そのものがなかった。保管・入出庫の基本業務以外に倉庫が行う作業について、約款は何も語っていなかった。結果として仕分けや検品は「保管料に含まれるサービス」として常態化し、倉庫業者は請求の根拠を持たず、荷主も無償を前提として取引を組み立てた。この商慣行は制定から60年以上にわたり固定された。20年施行の民法改正で寄託契約が要物契約から諾成契約に変更されたことも、約款と実態の乖離を広げた。倉庫業界では引き続き貨物の引渡しをもって契約成立とする運用が一般的だったが、約款上の手当がなく、法律と実務の整合が取れていなかった。改正に至った直接の契機は業界団体の動きだ。日本冷蔵倉庫協会が23年に協会案を取りまとめて国交省に改正を要望し、翌24年には日本倉庫協会も同様に要望した。国交省は25年8月にパブリックコメントを実施し(意見総数10件)、同年10月に公布した。業界団体がここまで動いた背景には、附帯業務が人手に依存する作業であるにもかかわらず、その人件費を保管料の中で吸収し続ける収益構造への限界がある。

ただし、約款が変わったことと、現場の契約が変わることは同義ではない。

国交省はパブリックコメントへの回答で明確にこう述べている。すでに締結された寄託契約については、契約時に当事者間で合意した内容がそのまま適用される。新たな約款に基づく契約変更を希望する場合は、当事者間での話し合いが必要だ、と。つまり4月1日に約款が施行されても、既存の取引関係は自動的には変わらない。多くの倉庫にとって、従来の契約のもとでは附帯業務は依然として「保管料込み」のままだ。パブリックコメントでは倉庫業者から「この条項に賛同する」との意見が寄せられた。荷主側の依頼管理が不十分なまま緊急入出庫が繰り返される現場の実態に触れ、約款改正が商流側からの改善に寄与するとの指摘だった。国交省はこの意見を「今後の倉庫施策の参考とする」として受け止めている。だが、制度への賛同と現場での実行は別だ。請求できることと、実際に取れることの間には距離がある。約款が変わっても、荷主がこれまで通りの条件で発注し続ける限り、請求書に新しい行を立てることは容易ではない。

それでも、従来の運用を続けることが難しくなる。変化を迫るのは約款改正そのものではなく、3つの外圧だ。

最も強いのは取引適正化法(改正下請法)だ。附帯業務の無償提供を実質的に強要する行為は「不当な経済上の利益提供要請」に該当しうる。契約にない仕分けや検品を対価なしに続けさせれば、荷主側に法的リスクが生じる。約款は「請求してよい」と倉庫業者に言っているにすぎないが、取適法は「無償を強いてはならない」と荷主の側に言っている。ベクトルが違う。次に、改正貨物自動車運送事業法の書面交付義務だ。運送契約の締結時に附帯業務が含まれる場合、その内容と対価を書面に明記しなければならない。荷役作業が運送契約の側でも附帯業務として書面化される以上、倉庫側の附帯業務だけ曖昧なまま残すことの不整合は際立つ。そして、改正物流効率化法の構造圧力だ。大手荷主は定期報告で荷待ち・荷役時間のデータを国に提出する義務を負う。その過程で倉庫側の作業実態も数値として浮かび上がる。本シリーズ第2弾で報じた波及構造と同じメカニズムだ。大手の制度対応は取引条件の見直しという形で倉庫業者と荷主の関係にも及ぶ。

一方、荷主側の対応も一様ではない。附帯業務の有償化に対し、保管料の総額を据え置いたまま附帯業務料を内包させることを求めるケースは構造上避けられない。倉庫の切替えを検討する荷主も出てくる。附帯業務を「基本業務」と読み替えて名目上の有償化を回避しようとする動きも想定される。約款改正は倉庫と荷主の力関係を一夜で逆転させるものではない。だが、従来は存在しなかった「請求の根拠」と「無償強要の違法リスク」が同時に生まれたことで、交渉の前提は変わった。これまで議題にすら上らなかった附帯業務の対価が、契約更新の場で初めてテーブルに載る。

倉庫業者が今やるべきことは、まず自社の料金表を開き、附帯業務の項目があるかどうかを確認することだ。旧約款のもとで料金表を整備してきた倉庫は、附帯業務をそもそも料金項目として設定していないことが多い。なければ新設する。改正約款が例示する附帯業務は、手荷役、仕分け、検品、ラベル貼り、開梱検品だ。自社の現場でこれらのうちどの作業が発生しているか、それぞれに何人・何時間かかっているかを把握することが料金設定の出発点になる。次に、既存契約の中で「保管料に含む」としている附帯作業を洗い出す。契約更新や条件見直しの場面で、約款改正と取適法を根拠に有償化を協議に載せる。最初の一歩は、請求書に「附帯業務料」という行を立てることだ。そこで初めて、これまで曖昧だった作業と対価が交渉の対象になる。

荷主側もまた、倉庫から料金改定の打診を受ける前に、自社が倉庫に依頼している作業の範囲と、それが従来の契約でどう位置づけられてきたかを確認しておく必要がある。取適法の施行後は、附帯業務を無償で続けさせることのリスクは荷主側が負う。パブリックコメントで国交省が「附帯作業に対する対価発生を明確化することは取引適正化に資する」と回答した事実は、行政がこの方向を支持していることを意味する。

26年3月19日、日本倉庫協会は会員向けに約款改正に伴う対応手順と国土交通省資料を案内した。施行まで2週間を切ったこの動きが示すように、業界は今ようやく、新しい取引ルールへの移行に踏み出した。60年間変わらなかった商慣行が、制度と法の両面から変化を迫られている。約款は変わった。次は契約だ。

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