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「罰ゲーム化」の警告と現実

CLO、選任準備はどこまで進んだか

2026年4月1日 (水)
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行政・団体4月1日、改正物流効率化法(2024年公布)の特定事業者制度が始まった。特定荷主と特定連鎖化事業者には物流統括管理者(CLO)の選任が義務づけられ、5月末までに届出を行わなければならない。だが準備の進み具合には大きな差がある。先行企業は経営課題として体制整備に踏み出している一方、対象であること自体の認識が曖昧な企業もなお少なくない。選任だけで済ませれば名ばかりCLOになり、責任を一人に集中させれば機能は止まる。問われているのはCLOを置いたかどうかではない。5月末に向けて、機能する体制を作れているかどうかだ。(編集長・赤澤裕介)

5月末届出を前に準備格差が開く

まず時間軸を確認する。

▲物流効率化法に基づく対応スケジュール(クリックで拡大)

▲物流効率化法における主な違反類型と罰則(クリックで拡大)

CLO選任義務の対象は特定荷主と特定連鎖化事業者に限られる。特定運送事業者や特定倉庫事業者は対象外だ。CLOは「事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある者」から選任し、役員などの経営幹部が望ましいとされている。注意すべきは、CLO未選任が直接罰則の対象として位置づけられている点だ。一方、届出怠慢や努力義務不履行はそれぞれ別の行政フローで扱われる。4月1日に始まったのは選任義務そのものというより、5月末・10月末に向けた準備工程だ。

では、準備はどこまで進んでいるのか。

物流コンサルティングの船井総研ロジ(現・船井総研サプライチェーンコンサルティング)が25年8月から9月にかけてCLOセミナー参加者を対象に実施したアンケート調査では、特定荷主のうちCLOが「すでに任命されている」と回答した企業は15%にとどまった。「任命されることはない」との回答が42%に上った。この調査はCLOに関心のある層を母集団としている。関心のない層を含めれば、実態はさらに低い可能性がある。

▲北條英氏

日本ロジスティクスシステム協会(JILS)の北條英総合研究所所長は、対象企業数について政府見込みの3200社に対し、IR資料や統合報告書からの独自推計で3600社に上る可能性があると指摘する。一方、JILS会員のうち物流改革に取り組み意識のある企業は220社程度と推計しており、「準備にムラがある」「これまでロジスティクスに向き合ってきた企業と、自社が特定荷主だと思っていない層の間で、明確な差が出ている」と分析する。着荷主側に目を向けると、発荷主としての出荷量は把握していても、調達物流における着荷主としての物量を定量的に捉える文化が乏しいとの指摘もある。対象企業の半数が自社の該当を認識していないとの調査結果も示されている。

いま準備格差は3つに分かれている。

先行型の企業は、自社の該当を認識し、CLO候補を決め、横断組織や支援体制に着手し、10月末の中長期計画まで逆算して動いている。見分けのポイントは、候補者だけでなく10月末の計画論点まで洗い出しているかどうかだ。

名ばかり予備軍は、該当認識はあるが、物流部長の横滑りで済ませようとしている。権限も支援組織も未整備のまま、届出だけ先に通そうとしている。人だけ決まっていて権限付与と事務局設置が決まっていなければ、ここに該当する。

未着手型は、自社が対象かどうか自体が曖昧だ。特に着荷主側の物量を把握していない。5月末届出の工程が逆算できていないなら、この類型に入る。

いま開いているのは制度理解の差ではない。準備を経営課題として扱っているかどうかの差だ。

名ばかりCLOはなぜ生まれるのか。

1つ目の理由は、物流部門がコストセンターとして扱われてきた歴史にある。物流部門のKPIは長年「いかに安く運ぶか」に限定されてきた。全社的な投資判断のテーブルに着く権限を持たない部門のトップに「統括管理者」の肩書きを置いても、営業や生産を動かす力にはならない。

▲深井雅裕氏

2つ目は縦割り組織だ。調達、生産、販売がそれぞれ独立したサイロを形成し、営業が翌日納品を武器に受注したツケを物流部門が被る構造がある。CLOが物流部門のトップにとどまる限り、営業本部長に納品条件の変更を要求する横串は通せない。日清食品常務取締役の深井雅裕氏は本誌が報じた発表会で「資材部・生産部・営業部がそれぞれ独自の目標とシステムで動いてきた。横串を通すのが一番の難所だった」と語った。6年かけてサプライチェーンの見える化に取り組んできた先行企業ですら、部門間の壁が最大の障壁になっている。

3つ目は、制度対応を「人選」の問題として処理してしまうことだ。CLOの本質は組織設計の問題だが、企業はまず「誰を置くか」から考え始める。人選が先に来ると、権限付与と支援組織の設計が後回しになる。

典型的なパターンを描くと、こうなる。物流部長をそのまま統括管理者に選任した。だが営業にも生産にも指示権限はなく、荷待ち削減も積載率改善も「関係部門にお願いする」しかない。届出書の役職名欄には名前が入る。だが変える力がない。

名ばかりCLOが生まれるのは人選を誤るからではない。CLOを支える権限と構造を置かないまま、看板だけを先に掲げるからだ。

では、CLOが機能するためには何が必要か。

CLOは1人で全部門を引っ張る「強いリーダー」である必要はない。各部門の責任者がサプライチェーン上の自領域でリーダーシップを発揮し、CLOはそれを束ねる「指揮者」として機能する設計が要る。

最低限整えるべきものは3つある。第1に、経営会議への接続だ。物流制約を理由に営業・生産計画を見直せる権限をCLOに持たせる。第2に、支援組織の設置だ。データ収集、計画書作成、関係部門調整を実務的に回す事務局がなければ、CLO1人に負荷が集中して機能不全に陥る。第3に、荷待ち時間、荷役時間、積載率といったデータの所在の棚卸しだ。これらのデータは物流部門の中に閉じていない。営業の納品条件、生産の出荷ロット、調達のリードタイムにひもづいて各部門に散っている。どの部門が何のデータを持っているかの棚卸しが、中長期計画策定の出発点になる。

役員を置き、計画を作り、定期報告を回すという制度設計には前例がある。省エネ法のエネルギー管理統括者がほぼ同じ構造だ。省エネ法では、現場が書類を作り統括者は提出義務を果たすためにハンコを押すだけという形骸化が指摘されてきた。CLOが同じ轍を踏まないための分水嶺は、物流改善が経営判断として実際に動くかどうかにある。

ヤマト運輸副社長の恵谷洋氏は、本誌が報じた発表会で「物流統括管理者が経営層に置かれる以上、物流企業も経営目線でのロジスティクスを提案できなければならない」と語った。CLOが機能する組織を荷主側が整えれば、運送側も対話の質を変える必要がある。

問われているのはCLOを1人置くことではない。CLOが機能する組織を置けるかどうかだ。

5月末までに何をやるべきか。優先順位を整理する。

最初に、自社が特定荷主に該当するかを確定する。発荷主としてだけでなく、着荷主としての物量も確認する。前年度の取扱貨物重量9万トン以上が基準だ。

次に、CLO候補を決める。役職名ではなく、経営判断への参画権限で見る。届出書には役職名と氏名を記載する。

3番目に、権限と支援組織を決める。誰を巻き込むか、どの会議体で扱うか、事務局を設けるかどうか。1人に背負わせない設計を先に決める。

最後に、中長期計画に必要なデータ把握に着手する。荷待ち時間、荷役時間、積載率。国は業種別の中長期計画記載事例集を3月に公開しており、自社の計画に何を書くべきかの参照になる。

自社が対象か確定していない、候補者が決まっていない、権限付与が決まっていない、データ所在が分かっていない。1つでも当てはまるなら、5月末対応はまだ入口に立てていない。5月末までに必要なのは名前を決めることではない。動ける体制を決めることだ。

4月1日以降に広がるのは、CLOを置いた企業と置いていない企業の差ではない。CLOが機能する前提を整えた企業と、名前だけで済ませた企業の差だ。5月末の届出は通過点にすぎない。ここで人選と組織設計を誤れば、10月末の中長期計画も、27年7月の定期報告も形だけになる。5月末までに候補者、権限、支援体制を固められるかどうかが、その後を決める。

届出の記載事項と手続きの詳細は別稿で整理した。

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