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運べない農産物、物流2024年問題と標準化の壁

2026年4月3日 (金)
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話題物流の「2024年問題」やトラック新法の施行を背景に、農産物や花卉(かき)の物流効率化・標準化が急務とされている。「標準サイズの箱を作り、パレットに載せれば解決する」言葉にすれば簡単だが、これは机上の空論に過ぎない。

流通経済研究所の吉間めぐみ氏へのインタビューからは、産地の意識、長年の商習慣、柔軟なステークホルダー間の利害対立といった「泥臭い現実の壁」が浮き彫りになった。本稿では、物流が極めて困難とされる花卉を一つの極端な例として引き合いに出しながら、新潟のチューリップや宮崎のキュウリなどの具体例を通して、農産物・食品物流の標準化がなぜ進まないのか、その深層に迫る。

花卉に凝縮される、農産物物流の「運べない」構造的課題

具体的な事例に入る前に、農産物の中でも特に標準化が難しいとされる「花卉」の物流構造を知ることで、業界全体が抱える根深い課題が見えてくる。吉間氏は「農産物も特殊ですが、花はさらに難しい」と語り、その理由をいくつか挙げる。

まず、極端な「少量多品種」であるという点だ。スーパーの物流センターに同じ野菜を満載したトラックが何台も到着することはあっても、花の場合は市場の特性上そうはいかない。吉間氏によると「バラだけをいっぱい詰めて運んでいるトラックはほぼない。少量多品種を満載にしていくのが基本」であり、複雑な集荷や積み合わせが求められる。

▲流通経済研究所農業・地域振興部門長兼沖縄営業所長、吉間めぐみ上席研究員

さらに厄介なのが、荷姿の多様性と混載の難しさだ。花は段ボール箱だけでなく、水を入れた「バケツ」で運ばれることも多い。「物流効率化のために野菜と一緒に積もうとしても、バケツの水が倒れたらどうするのかと嫌がられる」と吉間氏は指摘する。加えて、花によっては野菜に悪影響を及ぼすガスを発するものもあり、単純な混載便を組むことが非常に難しい。農林水産省が推奨する11型パレットに対しても、「生け花用に本当にそんな長さがいるのか、というぐらい長い花もある」と、規格外の長さがパレット化を阻んでいる。

そして、こうした「混載しにくく、パレットに載らない」特性が、さらなる非効率を生んでいる。地方から地方へ送る荷物さえも、一度東京の大田市場などを経由する「一極集中」の輸送が常態化しているのだ。拠点間の直接輸送ルートを築きにくいため、無駄な長距離輸送や二酸化炭素の排出を招いている。少量多品種、規格外の荷姿、そ​​して一極集中という花卉物流の特異性は、程度の差こそあれ、全国のあらゆる農産物・食品物流が抱える「非効率の縮図」と言えるだろう。

事例に見る「標準化」を阻む3つの壁

こうした複雑な背景を持つ農産物において、「標準化」という大義名分の前に立ちはだかるのは、現場が長年かけて築き上げてきた「局所的な最適化」である。

壁1:産地の「最適化」という名の抵抗(新潟・チューリップの事例)
新潟県では、中継拠点化の実証実験と並行して、チューリップの「基準箱(統一規格ダンボール)」導入の試みが行われた。パレットへの積載効率を想定し、6列×6列で並べ、2-3段に積み重ねる試作だったが、現場からはさまざまな課題が噴出した。

最大の障壁は、産地ごとの「こだわり」である。吉間氏はこの点について、「各産地はすでに自らの花を守るために独自の箱やサイズを最適化しており、なぜ他人に合わせなければならないのかという抵抗感が現場には強くあるのです」と指摘する。

パレットサイズを優先した結果、箱の強度や防水性、内蓋の構造など、花を守るための細かな機能が損なわれるという声が上がった。さらに、箱を広げるだけで底面が完成し、すぐに花を詰めることができる「ワンタッチ組み立て」の機能が損なわれたことも大きな不満に繋がった。農家にとって、出荷のピーク時に箱を組み立てる手間が増えることは、作業効率を大きく下げる死活問題なのだ。

さらに吉間氏は、「品種による茎の長さの違い、たとえば50センチ-70センチといった差から箱の高さが不揃いになり、パレット上でうまく上に積めず、結果的に積載率が低下するという物理的な壁にも直面しています」と語る。物流効率化のロジックだけでは産地は動かない。現状で「運べている」という成功体験が、新たな標準化への足かせとなっているのだ。

壁2:積載効率と運賃のジレンマ(宮崎・キュウリの事例)
箱を統一しパレットに載せることは、一見するとドライバーの負担軽減に直結するように思えるが、吉間氏によると、運送会社や産地にとっては死活問題に発展するケースがあるという。宮崎県のキュウリ物流がその典型だ。

宮崎のキュウリ物流では、現在も隙間なくトラックに詰め込む「手積み」が主流である。同じ50本入りでもJAや地域によって箱のサイズが異なり、統一化が進んでいない。吉間氏はその理由を次のように解説する。「なぜパレット化しないのか。それは、パレット化すると手積みに比べて積載量が約3割も減少してしまうからです」。

積載量の減少は、物流会社にとって1運行あたりの運賃収入減に直結する。さらに吉間氏は産地の事情をこう代弁する。「宮崎は関東市場において千葉や茨城といった近郊産地と競合しています。距離による物流コストのハンデを、手積みによる圧倒的な積載量でカバーしてきた歴史があるため、おいそれと積載量の減るパレット化へ移行できないというジレンマを抱えているのです」。
しかし、パレットを使わずに箱を一つひとつトラックの荷台へ「ベタ積み(手積み)」していく作業は、現場のドライバーに多大な負担を強いている。「手積みによる荷役は非常に時間がかかります」と吉間氏が指摘するように、ドライバー単独で数時間を要するケースも珍しくなく、労働環境の改善が急務となる中で、現場の疲弊は限界に達しつつある。

壁3:「荷役は誰がやるのか?」という根深い商習慣(佐渡・柿の事例)
キュウリの事例のように、ベタ積みによる荷役は膨大な時間と労力を要する過酷な作業だ。では、そもそもこの負担の大きい「荷役」は誰がやるべきなのか。運送費と荷役費の分離が強く求められている昨今だが、現場の運用は依然として不透明であり、関係者間で作業の押し付け合いが起きている。
佐渡の「おけさ柿」の事例では、これまで佐渡汽船側が行っていた荷下ろし作業を突如「やらない」と通告したことで、現場が大混乱に陥った。結果的に市場側が人員を手配して荷下ろしを継続したが、追加で発生した人件費を誰が負担するのかについて、関係者間で協議が続いている状態だ。

吉間氏はこの状況について、「物流事業者のコンプライアンス意識が高まる中、単に『運ぶだけ』と『荷役』の境界線や、その費用負担のルールが未整備であることが、サプライチェーン全体に新たなトラブルの火種を生んでいます」と警鐘を鳴らす。

その他の見過ごせない課題

標準化の課題は箱のサイズや積載方法にとどまらない。パレット回収の難しさもその一つだ。沖縄の離島では、飼料運搬用のレンタルパレットが回収されずに大量に滞留し、撤去や破砕に約2000万円を要した事例がある。

この背景には、「誰がパレットに責任を持つのか」という所在が極めて曖昧になっている問題がある。パレットが「天下の回りもの」とみなされ、管理が行き届いていないためだ。そして、この責任の曖昧さを突いて、パレットを横流しする「闇業者(ブローカー)」の存在も業界に影を落としている。回収されないパレットが闇ルートで売買され、本来あるべき場所に戻らないという悪循環が起きているのだ。

また、ファーストマイルの危機も深刻である。産地の集荷場や選果機の老朽化、JA職員による集荷補助など、非効率な運用が常態化している。幹線輸送の前に、産地から集荷場までの「最初の1マイル」をどう維持するかが死活問題となっているのだ。

大産地だから成し得た成功事例(熊本ミカン)と今後の突破口

課題ばかりが目立つが、成功事例も確実に存在する。JA熊本市のミカンの事例では、箱の規格を4キロと8キロに統一し、11型パレット化とロボット(パレタイザー)導入を成功させた。これにより、手積み作業がなくなり、荷役時間の大幅な短縮とドライバーの待機時間削減を実現している。

しかし、この成功の背景には「大産地の力」があると吉間氏は指摘する。「熊本のミカンのように、あれだけ出荷量のある大産地が自ら主導して箱の規格を統一できたからこそ、一貫パレット化やロボット導入という大規模な変革が実現したのです。小さな産地が単独でこれを成し遂げるのは非常に困難です」。

標準化は、誰か一人の音頭取りだけで進むものではない。「運べているから」という現状維持バイアスを捨て、産地、物流事業者、市場が痛みを分かち合い、利害を調整する泥臭いプロセスを避けては通れない。

▲いち早く段ボール箱の標準化、パレタイズを始めた熊本産ミカン(出所:国土交通省)

吉間氏は、こうした各産地の取り組みについて「こうしてうまく効率化を進めている産地があることを知ってもらうことで、追随する産地が現れることを期待したい」と語る。

新潟のチューリップ産地が、困難に直面しながらも段ボールメーカーに改良を依頼し、再挑戦しようとしている姿勢にこそ、これからの物流改革のヒントがある。「自社の最適化」から「サプライチェーン全体の最適化」へ。その意識の転換こそが、日本の農産物・食品物流を救う唯一の道である。