ロジスティクス物流業界は今、経営上の課題が蓄積している。人件費は上昇し続け、慢性的な人手不足にも解消の兆しが見えない。「人を集めて対応する」という従来モデルは、もはや限界を迎えつつある。「2024年問題」によるドライバー不足や運賃上昇も追い打ちをかける。大規模なロボット投資が難しい中小・中堅企業にとっては、打つ手がないように見える状況だ。
そんな閉塞感漂う業界の中で、大阪府東大阪市今米に本社を構える三協(東大阪市)は、まったく異なるアプローチで課題を突破してきた。100社のクライアントに対して誤出荷ゼロを継続。週1回・1日1時間という超短時間勤務のスタッフでも即戦力として機能するオペレーションを構築している。その中心にいるのが、専務取締役の山田健太郎氏だ。投資銀行出身という異色の経歴を持ち、数理モデルや統計分析の知見を物流現場に持ち込んだ山田氏に、その取り組みの核心を聞いた。
コンビニ方式で働き手と現場のミスマッチ解消

▲三協 専務取締役の山田健太郎氏
通常、物流業界では就業日数について「最低でも週4日、6-7時間は来てもらわないと困る」という声が多い。その理由は、イレギュラー業務の多さにある。「昨日の情報を把握していないと今日の仕事ができない、というのが物流の現実です。急にお客さんから仕様変更が入ったり、詰め方が変わったり。だから週1、2回しか来られないスタッフには、仕事を任せづらいという声が多い」と山田氏は語る。一方、子育て中のママさんを中心に「働きたいが、保育園のお迎えがあるから長時間は無理」という層も存在する。こうした、需要と供給のミスマッチが、人手不足をさらに深刻にしているのは否めない。そこで同社はこのミスマッチを根本から解消する「コンビニ方式」を採用した。「コンビニのレジの場合、初めてのアルバイトでもすぐできますよね。なぜなら、システムが全部教えてくれるからです。公共料金の支払いでも、バーコードを読んだら画面に『この金額でよいですか』と出る。お弁当をスキャンすれば『温めますか』とポップが出る。店員が判断せず、システムが指示しているのです」
WMSとハンディスキャナーで全員が新人でも回る現場
同社はこの仕組みを物流に応用した。WMS(倉庫管理システム)とハンディスキャナーを組み合わせ、検品・ピッキング・梱包・積み下ろしといったあらゆる業務を「誰でもできる」状態にシステム化した。その日入社したスタッフでも、5つ程度の基本操作を覚えれば即日稼働できる環境を整えている。「極端なことを言えば、全員が今日初出社の新人でも業務が回るように構築しています。そうなれば週1回、1日1時間からでもいいですよ、という働き方が実現できる。その結果、人に困らないのです」

▲倉庫内のあらゆる業務を「誰でもできる」状態にシステム化した
自社エンジニアが支える、現場直結の開発体制
この仕組みを支えるのが、同社独自のWMS開発体制だ。正社員60人のうち8人以上がエンジニアという、社員の構成は実に異色だ。また、多くの物流会社が外注のシステム会社にWMSを構築してもらっているのに対し、同社は自社内にエンジニアを抱えているため、現場のニーズに応じて数日単位でシステムを改修できる体制を整えている。
「外注だと、ここの文字をもう少し大きくしてほしいとか、この2ページにまたがる情報を1ページにまとめてもらいたいなど、そういう細かい改善がなかなか伝わらないんです。担当者が半年ごとに変わり、物流を全く知らない人が対応することも珍しくありません。『そこじゃないんだよな』という思いがずっとありました」
そんな歯がゆい経験から「自分たちでやるしかない」と決断し、物流専門のエンジニアを育成した。現場の声をリアルタイムでシステムに反映できる体制が、今の三協を支えている。この体制が生む最大のメリットは、100社のクライアントそれぞれに異なるシステムを提供できる点だ。「A社もB社もC社も、各社の仕事を誰もができるようになっています。A社の仕事がない時間帯はB社に応援に行けるし、待ち時間もなくなる。俗人化も解消されるし、生産性も上がる。これが誤出荷ゼロを継続できている理由の1つです」
投資銀行出身の専務が現場に学んだ、データと経験の融合
山田氏が物流業界に入ったのは10年以上前。投資銀行でアカデミックな数理モデルや統計分析を学んだ後、家業である三協に参画した。「最初は現場から敬語も使ってもらえませんでした。頭でっかちで現場を知らないと思われていたんでしょう。でも、100社以上の現場を見て、ヒアリングを重ねて、フィードバックをもらい続けた。その積み重ねが今につながっています」

▲東大阪市今米にある三協の本社
山田氏が大切にするのは、「一般的な理論」「季節変動などの統計的知見」「その会社固有の特殊条件」という3種類のデータを組み合わせてモデルを構築することだ。「例えばAという商品を買った人がBも買いやすいという相関関係は、なんとなく誰でも分かる。でも、それが季節によって変わるのか、その会社特有の事情があるのかは、現場をヒアリングしないと分からない。アカデミックな知見だけでも、現場の感覚だけでも、60点止まりになってしまう」
この姿勢が「倉庫を見れば経営課題がわかる」という山田氏の信念に地続きとなっっている。同じ化粧品メーカーでも、売り方やブランディングが違えば物流のやり方は変わり、それが倉庫の状況に現れる。倉庫の実態から最適な解決策を設計するアプローチが、三協の強みの根幹にある。
欧米型の標準化では届かない、日本の物流の特殊性
三協の取り組みが特に注目を集める理由は、大規模な設備投資なしに実現できる点だ。「今、物流ロボットや自動化が流行っていますが、物流によってそれが合わないものもあります。イレギュラーな注文が多い特殊な物流には、なかなかロボットは向かない。そういうところに無理やり欧米型のパッケージシステムを当てはめても、現場はそれを使わずにExcel管理になるのがおち。誰も得しません」
日本の物流の特殊性は、欧米と比べてイレギュラー業務が圧倒的に多い点にある。締め時間を超えた注文への対応、午前と午後の注文の同梱処理、こうした「当たり前のサービス」に、標準化されたシステムは対応しきれない。「日本は90%以上が中小企業です。であれば、ますます欧米式の標準化は難しい。でも、中小企業が今のやり方を諦めなくていい。超短時間で働ける人たちをうまく活用すれば、コストを抑えながらサービスを維持できる。それを証明したいのです」
ママさんが現場もシステムも支える、ウィンウィンの好循環
ムダを徹底的に削ぎ落とした運営により、人件費上昇の影響を受けにくい体質へと転換する。浮いたコストを原資に、無理のない賃上げの仕組みも整えている。同社の物流センターでは、パートスタッフの4割強が午前中で帰宅することも珍しくない。子育て中のママさんが多く、保育園から呼ばれればすぐに帰っても構わない。それでも誤出荷ゼロを継続できるのは、システムが人に依存しない設計になっているからだ。
▲同社の物流センターでは、パートスタッフの4割強が午前中で帰宅することも珍しくない
「1時間来て『すいません呼ばれました』って言われても、『全然いいよ、来てくれてありがとう』って言える。そうするその方のと友達も連れてきてくれる。お子さんが大きくなったらうちを卒業して、もっと条件のいいところに行くかもしれない。でも、それでいい。お互いがウィンウィンだったということで、役割を終えたということですから」
さらに興味深いのは、このシステムを開発しているのも、ママさんエンジニアたちという点だ。短時間勤務で働く現場スタッフの視点が、使いやすいシステム設計に直結している。
日本の物流を世界最高品質へ
山田氏が描く未来は、日本の物流の特性を強みに変えることだ。「欧米では標準化が確立していますが、日本はイレギュラーに対応する物流が必要です。それは裏を返せば、世界で一番品質が高い物流を意味します。そのイレギュラーに耐えうるオーダーメイド型の物流システムを、コストパフォーマンスを守りながら実現する。そのポジションを三協が占めたい」
賃上げ時代に「人を増やさず回る」物流を実現した三協のモデルは、大手だけが生き残れると思われがちな物流業界において、中小企業にとっての現実的な処方箋となりうる。週1回・1時間から働けるスタッフが支え、ママさんエンジニアが開発し、現場とシステムが一体となって動く。その好循環の中に、日本の物流が抱える課題への答えが詰まっている。(星裕一朗)
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