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トレードワルツ、貿易DXを経済安全保障領域へ

2026年5月18日 (月)

ロジスティクス中東情勢でサプライチェーン断絶リスクが高まるなか、貿易書類の電子化に取り組むトレードワルツ(東京都港区)は、事務効率化の枠を超えてサプライチェーン情報を支えるデータ連携の役割を広げている。同社広報・IR部長の菊地貴裕氏が4月21日、本誌取材に応じ、貿易DX(デジタルトランスフォーメーション)を3段階で進化させるステップ論と、データを「資産」に変える設計思想を語った。

▲トレードワルツの菊地貴裕部長

トレードワルツは、NTTデータが17年から事務局を務めた「貿易コンソーシアム」での実証を母体に、2020年4月にNTTデータが準備会社として設立し、同年10月の7社共同出資を経て、11月に事業を開始した。現在は商社、銀行、保険、物流、IT、東京大学協創プラットフォーム開発を含む18社が出資し、佐藤高廣社長CEOが率いる。22年4月に貿易プラットフォーム「TradeWaltz」の商用提供を開始した。

同社の特徴は、商流、物流、金流、保険が分断されやすい貿易手続きで、商社、銀行、保険、物流、ITなど業界横断の事業者が同じ出資・検討体制に入っている点だ。紙書類、二重入力、属人化を電子化で解消する一方、蓄積データを原産地証明書発行や保険申込などへ二次利用する設計を採る。

技術的な強みは、各社で異なるフォーマットを共通化する構造化データの処理にある。輸出入者ごとに表記の異なる項目名を、システム内で同一カラムのデータとして扱える。これで通関申告、原産地証明書発行、保険付保などで再入力負荷を下げる余地が広がる。

ブロックチェーン技術で改ざん耐性と証跡管理を高め、国連CEFACT準拠の国際標準項目で相互運用性を高める。荷主、物流会社、銀行、保険会社などを結び、行政手続きとの接続にも広げるハブとしての位置付けは、このデータ照合と証跡技術によって支えられている。

個社の事務から業界の資産へ、3つの段階

菊地氏が示した同社の中期戦略は3段階で構成される。

▲貿易実務DXロードマップ

フェーズ1は「社内貿易手続の効率化・一元管理」。長年保管してきた貿易関係書類をクラウドに格納し、関税法に基づく事後調査への対応負荷をデジタルで軽減する。紛失リスクとヒューマンエラーの削減が、22-25年度の普及活動を通じて実用化された。

フェーズ2は「企業間連携」。荷主のデータをフォワーダー、銀行、保険会社、通関業者などへ広げる段階で、25年度から本格化した。

事例として、26年1月、穀物・油糧種子の輸入取引向けサービス「TradeWaltz for Grain Importers」(TGI)を商用化した。双日、豊田通商、丸紅、三井物産、三菱商事を含む商社7社のワーキンググループを母体に、サイロ業者との間で本船情報、荷役計画、港湾の混雑状況、関税書類情報などをリアルタイムで共有する。食料安全保障に直結する事例で、商用ローンチセミナーには農林水産省担当者も登壇した。

3メガバンクとの金融ワーキンググループから生まれた「TradeWaltz for Export Documentary Trade」(TED)では、信用状(LC)の通知機能はすでにリリースされており、26年秋にはL/C買取機能の実装を見据える。日本の輸出者と銀行が取り扱う買取書類の電子化を段階的に進める設計だ。ただし、船荷証券のように紙原本性の強い書類は、電子船荷証券(eB/L)の制度整備と実務定着が完全電子化の前提となる。

フェーズ3は「データ蓄積・連携による新規ビジネスの創出」。現状のAI貿易書類照合機能は、P/OとInvoiceの2つのPDFをAI-OCRで読み取り、ヘッダー17項目・明細6項目の計23項目で差分を検出する。読み取った構造化データを原産地証明、保険付保、通関関連業務などへ再利用する余地が広がる。

菊地氏は「業界の変革であり、1社で完結するものではない」と述べ、石油や重要鉱物の調達動向を把握する補助情報として、同社プラットフォーム上の取引データを活用する可能性を示した。調達リスクが変動するなか、原産地・輸送経路・決済条件などの貿易データを集約することで、企業が代替ルートを判断する材料が整う。ただし、こうした活用には、参加企業の同意、匿名化・集計処理、利用目的の明確化、競争法上の配慮が前提となる。

100社超の実績、普及の前提と海外展開段階

同社によると、25年6月時点で有償利用企業は100社を超えた。荷主では住友商事、丸紅、TOTO、日本製鉄、神戸製鋼所など、物流分野では日本通運、上組、近鉄エクスプレス、阪急阪神エクスプレスなどが名を連ねる。経済産業省は「貿易手続デジタル化に向けたアクションプラン」で28年度までに貿易プラットフォーム経由の貿易取引割合を10%へ引き上げる目標を掲げており、同社はその達成を担う主要な民間プラットフォームの一つに位置付けられる。

同社によると、26年秋に国際物流総合展への出展と大型ユーザーカンファレンスで海外展開のマーケティングを加速させる。海外では、インドネシア税関への電子申告を可能にするプラットフォーム「HAKOVO」との商用連携、米Trade TechとのMoUに基づき日米AEO事業者の手続き電子化を目指すGRACEプロジェクト、経産省グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金に採択されたインド向け輸出ドキュメンタリー取引電子化のFSなど、国・地域ごとに段階の異なる連携を並走させる。

貿易プラットフォームは、一定数の関係者が参加して初めて効用が高まるネットワーク型のしくみで、利用企業の拡大、行政システムや海外PFとの相互接続、既存システムとの連携、データガバナンスの整備、導入コストの軽減が普及の前提となる。菊地氏は、貿易という国家の根幹をデータで支える架け橋として、日本とグローバルサプライチェーンの地位向上をリードする姿勢を示した。

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