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銅管・樹脂部材、家庭・事業所・倉庫に波及懸念

空調施工部材、夏前に供給不安

2026年5月18日 (月)

ロジスティクス夏場の冷房需要が本格化する前に、エアコンや業務用空調の施工部材で供給不安が表面化している。空調工事部材を手がける因幡電機産業(空調関連部材ブランド「因幡電工」)は5月1日、中東情勢の緊迫化に伴う原油・ナフサの調達不安を理由に、樹脂原材料や各種部材の生産・確保が難しくなっていると公表した。6月1日出荷分から被覆銅管とその他カタログ掲載製品の定価を20%以上引き上げ、今後の情勢次第では出荷数量制限や納期回答遅延が発生する可能性も示した。価格改定だけでなく、供給量と納期の不確実性まで示された点で、施工副資材の調達環境は一段厳しさを増した。

家庭用エアコンの出荷は高水準で推移している。日本冷凍空調工業会(JRAIA)によれば、2026年3月の家庭用エアコン国内出荷は116万8014台で、前年同月比115.3%となった。25年度累計も1002万8993台と、前年比106.5%に伸びた。一方、本体が届いても、冷媒管、断熱材、パテ、配管化粧カバー、ドレン部材がそろわなければ設置工事は完了しない。冷房インフラの制約点は、本体の供給ではなく、据え付けを完了させる施工副資材に移り始めた。

影響は家庭用エアコンにとどまらない。職場の熱中症対策では、作業者の異常を早期に把握し、重篤化を防ぐ体制整備が罰則付きで求められるようになった。物流倉庫や工場、事業所では、WBGT(暑さ指数)を下げる実務上の手段として、空調・換気・遮熱の設備対応が重要性を増している。銅管と樹脂部材の供給不安が長引けば、猛暑前に予定していた暑熱対策工事の工程にも影響が及ぶ可能性がある。本稿では、空調施工サプライチェーンの末端で起きている供給不安を、銅系と樹脂系の2つの制約に分けて整理する。

本体ではなく施工部材が制約点に

家庭用エアコンの本体出荷は、現時点で高水準を維持している。JRAIAの26年3月統計は前年同月比115.3%、25年度累計でも前年比106.5%となった。前年夏の猛暑経験や、本格的な冷房シーズンを前にした点検・買い替え需要が、本体出荷を下支えしているとみられる。26年夏も高温が見込まれており、冷房需要は引き続き強含みで推移する可能性がある。

冷房環境は本体だけで成立しない。室内機と室外機をつなぐ冷媒管、結露を防ぐ断熱材、貫通部を塞ぐパテ、屋外配管を保護する化粧カバー、結露水を排出するドレン部材が同時にそろって、はじめて据付工事が完了する。これらの部材は、規格、口径、長さ、耐候仕様、施工条件が合わなければ代替しにくい。本体が届いていても、冷媒管やドレン部材、パテ、化粧カバーがそろわなければ、据付は完了しない。

この施工副資材で、価格上昇と供給不安が同時に表面化した。因幡電機産業の5月1日公表は、その代表的な事例と言える。同社は空調工事部材の大手で、被覆銅管や化粧カバー、ドレン部材を幅広く扱う。価格面では20%以上の引き上げが示された。一方、供給面では、今後の情勢次第で出荷数量制限や納期回答遅延が生じる可能性があるとした。被覆銅管では、26年2月出荷分に続く短期間での再改定となる。少なくとも同社の公表資料上、被覆銅管では短期間に複数回の価格改定が示され、樹脂系部材でも数量・納期リスクが公表文書上で明らかになった。

本誌が確認した施工事業者の公開情報でも、資材価格の上昇や納期長期化への注意を顧客向けに発信する例が出ている。施工現場では、メーカー側の価格・供給リスクを見積もりや工期説明に織り込む動きが出始めた。

銅系と樹脂系、二つの調達リスク

施工副資材の供給不安には、性質の異なる2つの圧力が同時にかかっている。一つは銅系、もう一つは樹脂系。両者を分けて見ると、今回の供給不安の輪郭が見えやすくなる。

銅系の中心は被覆銅管。冷媒用銅管に発泡ポリエチレンなどの断熱材を被覆した複合製品で、室内機と室外機を結ぶ中核部材として、家庭用から業務用まで広く使われている。銅系の圧力は、中東情勢以前から進んできた。因幡電機産業の25年12月吉日付文書は、LME銅相場の上昇、円安、コデルコの26年アジア地区プレミアム大幅アップ、PPCのプレミアム引き上げを理由に、26年2月1日出荷分から空調用被覆銅管の標準単価を20%以上引き上げるとした。被覆銅管は、すでに銅市況の高騰を価格に織り込む段階に入っていた。26年4月以降、LME銅価格は1万ドル/トンを超える水準で推移している。

樹脂系では、別系統の圧力が重なる。配管化粧カバー、ドレン部材、断熱被覆、パテに使われる材料は、多くがナフサを起点とする石油化学製品、または石油化学系原料を含む部材だ。中東情勢の緊迫化は、原油・ナフサの調達不安を通じて、これらの部材の生産・確保を不安定にする方向に働く。経済産業省資料では、国内のナフサ供給について、輸入ナフサと国内製油所由来のナフサを組み合わせて確保する構図が示されている。

政府・業界団体はいずれも、主要な石油化学製品について直ちに供給が枯渇する状況ではないとの見方を示している。ただし、在庫月数の表現は資料により異なる。石油化学工業協会(JPCA)のコメントでは主要石油化学製品について3か月以上の在庫水準とされる一方、経済産業省資料では、ポリエチレンやポリプロピレンなど中間段階の化学製品について国内需要の1.8か月程度と整理されている。総量としての在庫と、川下の個別部材の納期・配分は同じではない。上流の生産面でも減産要因が出ており、樹脂系部材の調達環境を不安定にする背景となっている。

樹脂系の供給不安は、住設・建材分野でも納期や価格の不確実性として現れており、空調施工部材も同じ石油化学系の供給ストレスの影響圏内にある。

主な空調施工副資材と圧力系統の関係を整理すると、次のとおりとなる。

因幡電機産業を巡る価格改定および供給関連の公表は、25年12月以降、短期間で連続している。

被覆銅管は銅市況と樹脂原料の双方に影響を受け、化粧カバーやドレン部材、パテは樹脂原料の調達不安を受けやすい。空調工事の現場では、こうした副資材の価格と納期が、据付工程を左右する要因になり始めている。

暑熱対策、家庭・事業所・倉庫に波及

施工副資材の供給不安は、設置工事を経由して、家庭、事業所、倉庫の暑熱対策の工程に波及する可能性がある。

家庭向けでは、故障時の交換、賃貸住宅の入退去に伴う設置、子育て・高齢者世帯の買い替えで、工事日程の遅れが生活環境に直結する。部材不足が広がれば、本体を確保できても設置日が後ろ倒しになり、猛暑期に冷房環境を整えにくい世帯が出る可能性がある。総務省消防庁の統計によると、25年の熱中症による救急搬送人員の発生場所別では、住居が最多で、工場や作業所などを含む仕事場でも搬送が発生した。家庭の冷房環境整備は、夏季の救急需要にも関わる領域と言える。

事業所では、25年6月施行の改正労働安全衛生規則により、熱中症のおそれがある作業者を早期に把握し、作業離脱や身体冷却、医療機関搬送につなげる体制整備と手順周知が義務付けられた。冷房設備の新設・更新そのものが罰則付きで義務化されたわけではないが、WBGTを下げる現実的手段として、空調・換気・遮熱の設備対応は重要性を増している。屋外作業を抱える現場や、屋内でも高温になりやすい工程を持つ事業所では、シーズン前の設備点検や更新が重要になる。

物流現場への波及も論点となる。荷役エリアのスポット空調、休憩エリアのエアコン更新、事務所棟の空調更新などは、シーズン前に実施するケースが多い。空調のない倉庫や、屋根輻射の影響を受けやすい荷役エリアでは、外気温以上に作業環境が悪化する場合がある。被覆銅管や樹脂系部材の納期・価格の不確実性は、こうした夏前工事の工程にも影響しうる。

行政側の運用も動いている。環境省は26年度の熱中症警戒アラート・熱中症特別警戒アラートを、4月22日から10月21日まで運用すると発表した。アラート発令時の冷房使用の呼びかけと、施工副資材の供給不安は、本来は別レイヤーの話だが、設置工事が間に合わなければ、アラート発令時に冷房を使えない空間が残ることになる。

冷房インフラは、本体・施工部材・施工工程の連鎖で初めて成立する。今夏の暑熱対策では、冷媒管や樹脂部材を含む施工サプライチェーンを確保できるかが、現場の実行力を左右する。

本誌は18日から、本特集を配信する。

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