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物流AI、期待先行の現場に実装の正しい道筋示す

2026年6月29日 (月)

イベントLOGISTICS TODAYは29日、オンラインイベント「LOGISTICS AI AWAKENING 2026 AIドリブン実践サミット【第一幕】基礎・実装編」を開催した。5月28日に配信したプレイベントに続き、物流業界におけるAI(人工知能)活用の現状と、実装に向けた基礎論点を整理した。

登壇したのは、物流データインフラ「MOVO」シリーズを展開するHacobuの執行役員Hacobu Solution Studio本部本部長の木地谷健介氏、倉庫内作業の可視化プラットフォーム「ロジメーター」を提供するKURANDO社長の岡澤一弘氏、物流AIアーキテクトとしてサプライチェーン領域のAI活用を研究するNexgen JapanのCEOである大野有生氏。前半ではLOGISTICS TODAYとHacobuが実施した「物流×AI導入実態調査2026」の結果をもとに、現場の実態を読み解いた。

(左から)木地谷健介氏、岡澤一弘氏、大野有生氏

調査は有効回答233件で、荷主企業や物流事業者を中心に、中小企業から大手企業まで幅広い層が回答した。回答者も経営層、管理職、現場担当者まで広がり、物流AIへの関心が一部の情報システム部門やDX担当者に限られていないことがうかがえた。

一方で、物流現場のデジタル化は業務領域によって濃淡が大きい。倉庫内の入出庫や在庫管理ではWMS(倉庫管理システム)などの専用システム導入が進む一方、伝票・送り状、日報・点呼・勤怠、配車・配送計画などでは、紙やExcel(エクセル)、メール、手入力に依存する業務がなお残る。特に対外接点を伴う業務では、荷主、運送事業者、取引先の間で書式や運用がそろわず、自社だけではデジタル化を進めにくい構造がある。

データ活用についても、十分に活用できている企業は少数にとどまった。「ある程度活用しているが、もっと生かせるはず」とする回答が最多で、「データは集めているが、ほとんど活用できていない」とする回答も目立った。データそのものがないというより、目的に合わせて加工・分析し、意思決定に結び付ける段階で壁にぶつかっている実態が浮かび上がった。

物流業務で最も解決したい課題としては、「業務の属人化」が突出した。次いで、人手不足、燃料費や人件費などのコスト上昇、拠点・在庫・配送網の見直し、配送品質の維持・向上が続いた。配車、輸送手配、積付け、現場判断など、ベテランの経験や暗黙知に依存する業務が、AI活用の主要テーマとして意識されていることが分かった。

ただし、属人化した業務ほどAI化の難易度は高い。過去の判断結果だけが残っていても、その背景にある制約条件、現場の例外処理、取引先との個別ルール、担当者の経験則がデータ化されていなければ、AIは判断の根拠を学習できない。前半の議論では、完全自動化よりも、制約条件を整理したうえでAIが候補を提示し、人が最終判断する形が現実的な導入ステップとして位置付けられた。

倉庫領域では、在庫や出荷データは比較的蓄積されている一方、人員配置や作業進捗、作業者ごとの実績など「人」に関するデータの整備が課題となる。輸配送領域では、配車・運行管理、積付け、待機時間、納品先ごとのローカルルールなど、実務上の制約が複雑に絡む。AI活用の前提として、こうした現場情報をどの粒度で集め、どの業務判断につなげるのかを設計する必要がある。

AI導入・活用のハードルとしては、効果が分かりにくいこと、AIを使いこなせる人材がいないこと、どのツールやサービスを選べばよいか分からないことが上位に挙がった。予算面でも、「検討はしているが、予算化には至っていない」とする回答が多く、関心の高さがそのまま投資判断に結び付いているわけではないことが明らかになった。

後半では、前半で示した「データはあるが使い切れていない」「属人化した判断ほどAI化が難しい」という実態を受け、物流AIをどの順序で実装するかに議論を移した。LOGISTICS TODAYはAI活用を、情報処理・データ化のL1、気づきや意思決定補佐のL2、自律的意思決定のL3、ロボットなどと結び付くフィジカルAIのL4に整理。そのうえで、現時点で実装の主戦場となり、取り組みの第一歩となるのはL1、L2だと位置付けて議論を深めた。

Hacobuは、輸送領域での実装例として、生成AIを活用したAI-OCRを紹介した。物流現場では、輸送依頼書や入出荷依頼書などに手書き、欄外メモ、取引先ごとに異なるフォーマットが残る。従来型OCRでは、読み取り位置や書式を事前に定義する必要があり、非定型書類への対応が難しかった。これに対し生成AIは、書類の内容を読み取り、住所、品名、数量などの意味を解釈して所定のデータ形式に変換できるなど、まさにAIによる業務効率化の入り口となる。

3者に共通したのは、AI導入を一気に完全自動化へ進めない考え方であり、AIに最初から100点の自動判断を求めると失敗しやすいことが指摘された。現場には例外条件や責任分界、判断の前提が多く、情報の漏れや境界条件の誤認が起こり得るためだ。実装では、AIが60-80点の候補やレコメンドを示し、人が最終判断する設計が現実的となる。配車、人員配置、請求突合、法令チェックなども、AIが一次処理や異常候補の抽出を担い、人がレビューする形で成果を積み上げる考え方だ。

このため、AI活用は「データ化、活用、自動化」を一直線に進めるのではなく、小さなサイクルを多数回すことが重要になる。紙のデータ化、請求差異の検出、荷待ち時間の分析、庫内進捗の把握など、60点から80点で始められる領域を見つけ、現場がAIに触れる機会を増やすことが、次の活用アイデアや横展開につながる。

一方で、大野氏はAI利用に伴うリスクにも言及した。生成AIでは、誤った内容をもっともらしく出力するハルシネーション、機密情報の漏えい、著作権侵害などのリスクがあり、物流領域では特に前二者の管理が重要となる。対策として、AI利用ルールとAI管理ルールを分けて整備し、入力してよい情報、利用環境、精度劣化時の対応、責任部署、再学習やデータ保管の手順を明確にする必要がある。AIを現場実装するには、技術導入だけでなく、説明可能性、人のレビュー、ガバナンスを組み込んだ運用設計が不可欠となることも示された。

紙やExcelに残る業務、部門や企業をまたぐデータ分断、ベテランに依存した判断、目的が曖昧なデータ蓄積。これらを整理しないまま高度なAIを導入しても、現場の課題解決にはつながりにくい。物流AIの第一歩は、配車AIや需要予測AIといった完成形から考えるのではなく、現場の業務をどこまでデータ化し、どの判断に使うのかを見極めることにある。

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