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ロボット倉庫を国内初導入、1か月で効率3.75倍

物流積極投資、ニトリ「倉庫係」出身社長の覚悟

2016年3月11日 (金)

荷主「ジャングルジム」のように組み上げられたグリッドの1マスごとに、ビンと呼ばれるケースを隙間なく積み重ね、その屋根面を60台のロボットが縦横無尽に動きまわる様子は、これまでの倉庫作業と大きくかけ離れた未来のイメージを投げかける――。

ニトリホールディングスと物流子会社のホームロジスティクスは、川崎市川崎区の通販向け物流拠点に国内初のロボットストレージシステム「オートストア」と、商品サイズを自動計測して商品の形状に適した梱包用段ボールを作り出す機器を導入し、報道陣に公開した。

オートストア

年間コンテナ輸入量15万本、曜日変動2.5倍、物流拡大とともに課題深刻化
同社がこの仕組みを導入し、稼働を開始したのは2月。同社が取り扱う商品は大半が海外からの輸入で、その量はコンテナ本数にして年間15万本(TEU)にのぼる。国内でこれらの商品をさばくのに必要な物流スペースは、東京ドーム(1万3000平方メートル)13個分。これらを全国の店舗に幹線輸送を利用して配送しているほか、78の営業所から個人宅への組み立て配送を行っている。

配送件数は最近5年で2倍に膨れ上がり、年間610万件。22年には1100万件程度を想定しているが、取扱量の増大とともに配送料の曜日変動などの物流上の課題への対応が重要性を増している。同社の曜日変動は、最も受注量が少ない曜日と最も多い曜日の差が最大2.5倍となっており、こうした受注量の大きな変動が生産性を低くしている。

都心型店舗とEC拡大に「物流への対応重要」(ニトリHD白井社長)
ニトリホールディングスの白井俊之社長ニトリHDの白井俊之社長は、「売上は比較的順調に推移している。特にホームファッションが好調で、昨年は都心型のプランタン銀座店、押上、亀有と人口密集地に店を出した」と述べ、同社のビジネスが郊外型だけでなく、車で商品を持ち帰りにくい都心型店舗へ広がってきていることを説明した。

ECも好調だ。ECの伸びについては「想定していた以上に物流の需要があり、コストを抑え、リードタイムを短くしていくことが重要だと感じた」と、通常の店舗以上に物流が事業の成否に影響するとの思いを強くしたと話した。ただ、物流の位置付けを引き上げた背景には、こうした同社のビジネスの「変容」へに対するものだけではない。

物流畑で育った白井氏、効率だけではない「思想」必要
「私が1954年にニトリに入社した後、最初の名刺は『倉庫係』だった。バブル時代には、物流マネージャーを経験し、肌で感じたことが多くある。(オートストアは)そこで感じたことを前提に導入したシステムだ」(白井氏)と述べ、「そこで感じたこと」をこう表現した。

「どんな環境で、どういう人に、どういう風に働いてもらうのかという、会社としての思想が必要だ。少子高齢化を見据え、スタッフが楽に働けるようにするのが導入を決めた大きな理由。今後30年の物流をどうするのかを考えながら活用していく」

事業効率を高める狙いに加えて、いかに倉庫で働くスタッフに「楽に働いてもらいたいのか」を体現するために必要なシステムというわけだ。

稼働1か月の効率3.75倍、投資回収前倒し見込む
ホームロジスティクスの松浦学社長1同社は、「数字の一人歩き」を嫌ってオートストアと梱包マシンの導入費用を明らかにしていないが、相当な経営判断が必要な投資だったことは間違いない。白石が説明する導入の意図は、うがった見方をすれば「元が取れない」リスクに対する釈明に聞こえなくもないが、こうした見方に対しては、白井氏の後を引き取ったホームロジスティクスの松浦学社長の説明が明快だ。

「5年以内の償却を見込んで投資している。しかし、稼働開始後1か月の効率は3.75倍と、想定以上のポテンシャルを示している。この計算で行くと、投資回収まで想定してた5年を待たず、3年から4年で回収できると確信している」(ホームロジスティクス・松浦社長)

懸念はないのか。

真の生産性アップ、前後工程の改善カギ
松浦氏は、オートストアの導入が想定以上の生産性向上につながっているという説明に「前後の工程を改善できれば、さらに短期間化する可能性もあると考えている」と付け加えた。

オートストアを導入した工程では、通路スペースが大きく減った分、少ないスペース(ホームロジスティクスの場合は400坪)でのオペレーションが可能になったほか、入荷・ピッキング作業に投入する人材も激減し、作業員の負担も軽減したが、松浦氏の説明は「前後の工程に問題がある」ともとれる。

実際、現場責任者の説明では、オートストアでピッキングするスピードは格段に上がったが、その次の工程で溜まりが生じているという。つまり、前後工程を改善できない限り、出荷効率の面ではオートストアの導入効果を得ることができないということになる。

同社もこうした課題を織り込んでいるからこそ、今後は前後工程の改善に注力する必要を強調しているとみられ、これによって22年に想定する「1100万件」の配送需要に対応していく考えだ。直ちに出荷・配送効率の改善につながらなかったとしても、改善点を絞り込むことでリソースをその部分に集中させる余力が生まれてくる。

「大物宅配サービス」視野に新技術導入積極化
11日のお披露目の際には踏み込まなかったが、松浦氏は「ラストワンマイルへの対応を重視している。これまではニトリグループ向けにのみ物流機能を提供していたが、グループ外の同業種・異業種からよく『相乗り』の相談を受けている」ことを明かした。

同社のオムニチャネルへの取り組みはこれまで、小さな荷物のみが対象となっていたが、将来的には同社が得意とする家具などの「大物」を強みとした、ニトリグループにとどまらない宅配サービスの提供を考えているようだ。

今回のオートストアの導入は「生産性向上へ思い切って積極投資し、コスト下げ、働きたくなるような環境を提供していく」(松浦氏)ことに対する、同社の意思の示したものといえる。同氏は説明の最後に「届ける能力が欠ければ売上にならない」と締め括っており、高効率なセンター運営を出発点として「大物宅配サービス」へ投資を拡大していく方針を打ち出したものといえそうだ。

■オートストアの詳細
岡村製作所、ホームロジに国内初のロボット倉庫納入
https://www.logi-today.com/220758

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