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“1日300分”生む最強配達ツール「配達アプリ」

2019年6月10日 (月)

話題何も飾らない簡潔なネーミングながら、特化した目的のために最大3倍も業務効率を高めたという物流会社向けのスマートフォンアプリがある。現場の配達スタッフが「もはやこのアプリなしの業務は考えられない」というそのツールの名は「配達アプリ」。

開発元はゼンリンデータコム(東京都港区)で、簡単に説明すれば、配達指定時間、宅配ボックスの有無、メモの管理が可能な地図アプリだ。正直なところ、何がそれほど業務効率を高めてくれるのか最初はわからなかったが、ひとことで結論をいうなら「使えばわかる」ということになろうか。

実際、使わなければその良さはわからないというのが感想だが、ニュースサイトとしてはあまりに乱暴な結論なので、ここでは開発者や利用者への取材を通じ、「配達アプリ」でどんなことができるのか、その具体的な効果はいかほどか、ということにポイントを絞って紹介したい。(LogisticsToday編集部)

<この記事の目次>
  「3分の遅れが命取りになる」-ラストワンマイル協同組合理事長・志村直純氏
  「配達アプリ」ができること
  「ニーズを捉えることができたと実感」-ゼンリンデータコム大石尚徳氏
  「これだけで効率がまったく違う」-デリバリーサービスのドライバー・志村佳祐氏
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「3分の遅れが命取り」-ラストワンマイル協同組合理事長・志村直純氏

「これがないと商売にならない」とまで言い切るのは、5月初旬から配達アプリをテスト的に導入しているというラストワンマイル協同組合(東京都府中市)の志村直純理事長。

同協同組合は、EC市場の拡大とともに到来した「宅配危機」にあって、志村氏が旗振り役となり中小運送会社25社が結集、昨年4月に立ち上がったばかりの組織だ。首都圏を中心に3000台以上の支配下車両を駆使し、割安な料金と安定した配送品質を武器に宅配業界を席巻している。

協同組合の事務所には、大手宅配事業者から「増車できないか」、荷主(EC事業者)からも「安く運べないか」という引き合いが日々、寄せられていて、最近は長尺物や大型荷物に特化した配送メニューを用意。ECフルフィルメント向け拠点を運営する3PL会社や大手アパレルメーカーとの取引もスタートさせた。

配達現場では、3分の遅れが命取りになる。プロの世界では1件に1分かけられない。素人とプロでは3分違ってくる。3分違うと100件で300分(5時間)変わってくる。ラストワンマイル協同組合の志村直純理事長

1日に5時間の時間差が生まれると考えれば「1件の配達時間をいかに短縮できるか」というのは致命的な差となって現れてくる。

「1件の配達で3分を短縮するにはどうすればいいのか」。そう考えた志村氏が選んだのは、すでに複数の配達ドライバーが自発的に使用していたという配達アプリだった。なぜか。

より詳細な地図を使用したいというのが一番の理由。もともとゼンリンの紙ベースの地図を使用していたが、ほかと比べ、詳細さがまったく異なり、誤配防止に欠かせない。ゼンリンの地図では名字だけでなく名前の一文字までしっかり明記してある。昔から配達のプロが使用するのはゼンリンだった。志村直純氏

個人名まで表示されるゼンリンの住宅地図(編集部註=表示されている建物名・個人名は架空です)

確かに、多くの運送会社の事務所にはゼンリンの住宅地図が備わっている。ならば、紙ベースのゼンリン住宅地図でもいいような気がするが「紙ベースだと、住宅地図の一つのエリアを買うのに1万円から2万円程度の費用がかかり、更新の都度購入が必要になる。

ゼンリンが提供している紙ベースの住宅地図

配達アプリができること
配達アプリは月額1600円。「配達スケジュールと行き先が一目でわかる」機能を搭載しながら、ゼンリン住宅地図の「細かさ」を併せ持つ。

必要な操作は配達先を検索して荷物情報を登録するだけで、容易に配達先の住所を検索できる。荷物の配達時間帯、宅配ボックスの有無など、配達効率を高めるために欠かせない情報を詳細に登録できるほか、配達先ごとの”特記事項”を入力できるメモ機能も搭載している。

さらに、配達先が多い場合は地図上にアイコン表示された荷物を配達時間帯別に絞り込むことが可能で、不在時の配達スケジュールを瞬時に更新できる点も特徴だ。

紙地図の弱点だった「地図の更新」を克服しつつ、配達効率を高めるための機能を数多く搭載したオンリーワンツールが配達アプリだといえる。初月無料で展開しており、すべての機能を1ヶ月間無料で使うことができ、アプリの実力を知るには十分なメニューが用意されている。

開発を担当したゼンリンデータコムの大石尚徳氏は「『配達効率が上がって安心感もある』という声が寄せられており、それは狙い通り。ニーズは汲み取れている」と、配達アプリのコンセプトが利用者に受け入れられていることに、手応えを感じている。

「ニーズを捉えることができたと実感」-ゼンリンデータコム 大石尚徳氏(モバイルサービス本部コンシューマ事業部ディレクター)

同社が配達アプリの開発に至った動機は何か。

大石氏「すでに提供している地図・ナビゲーションアプリ『いつもNAVI』の中で、住宅地図の表示機能を提供し始めたのが出発点。ただ、その時は有料機能で表示できる回数・範囲を制限していた。リリースしてから利用状況を見るとかなり利用者数が増えていて、『需要はあるな』という感覚を得ることができたことから、住宅地図を活用したサービスを提供できないかと検討を開始した」

「アプリ化」に向けて、まずはウェブブラウザ版のゼンリン住宅地図の利用状況を調べたところ、「実際に利用しているのは運輸業が30%、そのうち個人で料金を負担している利用者が90%にものぼることが分かった。なかでも宅配ドライバーが多かった」という。

そこで、現役の宅配ドライバーにインタビューを行うと、紙ベースの住宅地図を利用しているケースが多く、「住宅地図をアプリベースで使いやすく提供すれば、ニーズを捉えられるだろうと考えた」(大石氏)

2017年度の宅配便個数は年間42億個を超えてさらに増加傾向にあり、統計上はドライバー一人あたりの配達個数が一日150個前後に達している。ここで1件につき1分短縮できれば1日150分、2分なら300分を生み出すことになる。人手不足に悩む宅配現場から見れば欠くべからざる機能であり、まさに「1分でも配達時間を短縮したい宅配ドライバー」のニーズを狙った、ゼンリングループにしか実現できないツールだろう。

「これだけで効率がまったく違う」-加入運送会社のドライバー・志村佳祐氏

現場はどう感じているのか。前述のラストワンマイル協同組合に加入する運送会社で、ドライバーとして配達アプリを利用している志村佳祐氏はこう話す。

何軒か表札が出ていない住宅が並んでいて、電話も出ない、でも不在票を入れなければならないということがある。不在票を入れるのに一軒、家がずれただけで大問題になるが、例えばマップで4軒中3軒名前があって、あと1軒がないことがわかると、目星がつくこともある。これができるだけで、効率はまったく違ってくる。志村佳祐氏

開発中の地域で、新しいマンションが地図に表示されないなどの理由から、熟練したドライバーであっても1日30件しか配達できないケースがあったものの、アプリを使い始めてからは、同じエリアで1日100件と3倍以上の配達件数をこなせているという。志村氏は、「効率はもちろん、ドライバーの安心感につながることをかなり実感できている。安心できることが一番重要だと思う」と、配達アプリがもたらすもう一つの効果として「安心して業務に従事できること」を挙げる。

住宅地図を資産に持つゼンリングループが満を持して打ち出した配達アプリに死角はないのか。

ゼンリンデータコムの大石氏は「課題はいくつかある。荷物登録に時間がかかるところが一番の課題と捉えている。まずはアプリ内で素早く登録できるようにするほか、PC上から荷物情報を一括登録できるようにするなど、効率的な方法を検討している」と話し、今後も2か月に1回程度と継続的に機能を向上させていく方針で、2019年秋には大型アップデートも控えているという。

まずは無料で試し、機能を実感できれば毎月の定額で利用できる手軽さも嬉しい。プロドライバーが配達時間を短縮する必携ツールとしてだけでなく、人手不足の物流業界にあって、初めて担当するエリアを効率的に配達するには最適の手段ではないだろうか。

「配達アプリ」のホームページ
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