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ヤマト運輸など主要子会社統合し体制刷新

ヤマトグループ、純粋持株会社制からの転換表明

2020年1月23日 (木)

▲記者会見するヤマトホールディングスの長尾裕社長

ロジスティクスヤマトホールディングスの長尾裕社長は23日、ヤマトホールディングスを頂点としてヤマト運輸などの事業会社が持株会社にぶら下がる純粋持株会社制からグループ経営体制を抜本的に再編し、ヤマトホールディングスがヤマト運輸、ヤマトロジスティクス、ヤマトグローバルロジスティクスジャパンなど主要子会社7社を吸収合併して事業会社に転換すると発表した。

併せて宅急便のデジタルトランスフォーメーションや「産業のEC化」に特化した物流サービスの創出、法人向け物流事業の強化を3本柱とする経営構造改革プランの策定を表明。

▲21年4月からの新体制図

提供サービス単位で構成してきた従来の組織を改め、リテール、地域法人、グローバル法人、ECの4つの顧客セグメント単位に再編し、それぞれを事業本部として「経営と事業の距離を縮め、顧客の立場で考え、スピーディーに応えるヤマトを取り戻す」(長尾社長)との基本戦略を掲げた。

これらの取り組みによって2024年3月期に売上高2兆円、営業利益1200億円以上、ROE10%以上を目指す。

具体的には、2021年度からの4年間で、ITデジタル分野に1000億円、物流ネットワークの革新に1000億円を投資。同社の収益基盤である「宅急便」事業でデジタル化とロボティクス導入を進め、集配効率を改善、仕分け生産性を4割向上させるほか、新設するEC事業本部では、EC向けの新配送サービスと、EC関連業務の一括管理プラットフォームを4月から提供し、ECサプライチェーンのスリム化と輸配送のオープン化に取り組む。法人向け事業では、サプライチェーン全体を最適化するソリューションの開発に注力し、既に提供を開始しているヘルスケア業界や農産品流通以外にも幅広く展開することを目指す。

 

(以下、主な質疑応答)

――お客様と向き合う本来のヤマトの姿を取り戻したいといったが、値上げで本来の姿ができていなかったためという理解か?

長尾社長:それだけではないと思っている。客の立場に立ってサービスを作るというのが本来のヤマトの強みだが、セールスドライバーを支えるマネジメント層でお客様に向いていないことが起きているのではないかと思っている。お客様と向き合う仕組みに変えていく必要があったが、タイムリーにできていなかったという危機感を持っている。

――EC向けプラットフォームについて、アマゾンが地場運送会社をまとめる動きを見せているが、ヤマトはどう対抗していくのか。価格競争の様相を呈しているが、しっかり利益を上げていくのはどういう戦略か。

長尾社長:当社は宅急便という強いサービスがあるが故に、宅急便に埋没しているのではないかという危機感を持っている。宅急便は優れたサービスだが、ここ数年、EC化が進んでいる。それに合わせたサービスを作っていかなければならない。宅急便はEC化の進展に対し、合わないとは思わないが、過剰な部分もある。こうした時代の流れに最適化したサービスを提供していく。

――全体最適化ということだが、価格戦略はどう考えているか。

長尾社長:適正なプライシングはあって然るべき。それが低価格だけに注目されるのは違うと思うが、サービスの内容にあったプライシングは必要だ。

――4事業本部の中身はどのようなものか。

長尾社長:リテールは個人客、小口法人が対象。昔から利用してくれていてセールスドライバーと向き合っている客が対象。2つの法人事業本部=ヤマト運輸は、年間18億個を扱っているが、半数はリテールからの出荷。残る半数は大手事業者と地方に点在するそれなりの規模の法人クライアント。この2つの層に分かれている。地域法人本部は、比較的大きな規模の客を想定。地域内で、ある程度「閉じたサプライチェーン」を想定している。グローバル法人本部は、対象の社数は限られる。川上から川下までのバリューチェーンをカバーし、200社を想定している。

――価格変更による顧客離れをどのように捉えているか。

長尾社長:より深刻に捉えているのは、大口顧客の離反より小口客へのプライシング変更による離反だ。想定したレベルよりプライシングが上がっているのは間違いない。これによる離反が深刻。セールスドライバーによるプライシング変更が客から芳しくない。適切なプライシングができなかったのは大きな反省。大口客へのプライシング(=値上げ)は、引き続きやるべきだと思っている。(=小口客への運賃を下げるという意思表明か)

――家族・法人向け引越しの再開時期は。

長尾社長:家族引越しを再開するのはかなり難しいと考えている。提供するためには、梱包したり運び出したり、いろんな技能を持つ社員が必要だ。一定の社員は残っているが、全国で提供するのは現状では難しい。引越しを今後どうするのかという質問に答えられないのは申し訳ないが、もう少し時間が必要。どうあるべきかの精査を進めている。現時点ではこういう見解だ。法人向け引越しは家族引越しと同義なので再開の見通しは立っていない。

――かつての姿を取り戻すとはどういう意味か。

長尾社長:申し上げたいのは、セールスドライバーなど、客と対面する社員・営業マンは客の立場に立って考えることに特化させなければならない。安全運転をどう徹底するか、彼らの本分はセールス。そういう意味ではヤマトの中ではセールスドライバーに対し、それ以外の項目のミッションを課してしまっているのではないかと懸念している。仕組みとしてこういうことを取り除くガバナンス、組織にどう作り変えるか。取り戻すというより作り上げる。

――純粋持株会社でなくなることで、社名をヤマト運輸に戻すのか。

長尾社長:純粋持株会社やめるのは、経営スピードをどう上げるか。一丁目一番地は、客起点のヤマトをもう一度作るということ。4事業本部に再編することにしたが、仮に4つの会社だとどうなのかと考えた。そうすると4つサイロができるのは仕方がないかもしれないと考えた。まさに大企業病だが、これを打破するため、一旦1つのヤマトを作り、1つの本社のもとで現場と一体となって一丁目一番地を作る、ということ。経営と現場との階層を縮めたい。組織変更まで1年あるので社名はまだ決めていない。

――組織の縮小や人員の削減はあるのか。

長尾社長:各子会社の拠点が地域に重複しているところもある。適切に集約することが必要。足りないところは新規に出店する。トータルでは大きく拠点が増えるというものではない(=減るということか)。人員については、バックオフィス業務の削減、仕分けの省人化が4年で効いてくる。これに伴い、基本としてトータル人員を増やす計画はない(=減らすということか)。

――海外事業はどうしていくつもりか。

長尾社長:過去に展開してきた海外事業は、成果が出ているものとそうでないものを精査し、年内に整理整頓したい。海外でも自前で宅急便をやることに取り組んできたが、自力・自前にこだわる時代ではない。適切なパートナーと一緒にビジネスを作っていくのがよりスピーディーだ。ここ数年でタイ、マレーシアなどでこれからのビジネスの展開が見えてきたところもある。

――構造改革を行うことにした発端は。

長尾社長:身内の恥部を申し上げるのは憚られるが、数年来、社内で議論してきた。私がまだ現場にいた頃、小倉昌男がヤマトは大企業病だと度々、社内報で書いていた。その時もそうかなと思ったし、今はそれよりも深刻な状況かなと思う。今やっている仕事が客につながっているのか、現場の第一線の社員のことを考えているのか、自分の部門のことだけでないのか、全社の最適化につながっているのか、現場のプラスになっているのか――を考えるのが重要だと思うが、そうではないことが散見される。しかし、彼らのせいにするつもりはない。私をはじめとする経営の問題だ。よって、経営構造を変えていく。経営陣から行動や思想を変えていく。