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荷役作業前の運転手にアルコールチェックなし、委託先に実施せず

RORO船内死亡事故、事故調が飲酒防止など提言

2020年12月20日 (日)

事件・事故運輸安全委員会はこのほど、2019年1月20日にRORO船「ちゅらしま」の積み込み作業中に誘導員(20)がトレーラーとシャーシの間に挟まれて死亡した事故の調査報告書で、トレーラー運転手の荷役作業前の飲酒が「運転技能に影響を及ぼしていた可能性がある」と指摘した。

事故が起きた荷役作業は、RORO船「ちゅらしま」の船舶所有者である琉球海運から博多港運が請け負っていたもので、事故を起こしたトレーラーが所属する吉田産業運輸は港湾運送事業法の許可を受けていないにもかかわらず、港湾運送事業者の博多港運と自動車運送契約を結び、同社から港湾荷役作業の一部を請け負っていた。

警察の調べと、事故を起こしたドライバーおよび同僚ドライバー2人の口述によると、事故を起こしたドライバー(44)は、荒天による遅れで20日0時ごろから荷役作業が始まることを分かっていながら、19日18時から20時まで岸壁周辺の飲食店で夕食とともにビールをジョッキ3杯、水割り2杯を摂取。夕食をともにした同僚ドライバーの1人から飲酒をやめるよう強い口調で忠告されたが、忠告を聞かなかった。

同僚ドライバーのうちの1人は、ビールをジョッキ2杯摂取したが、同僚の忠告を受けてそれ以上摂取しなかった。事故を起こしたドライバーは、夕食後22時まで仮眠した後、再び缶ビール2本を摂取した。

▲コンテナシャーシが後進する状況(※現場調査時の様子、出所:運輸安全委員会)

事故はこの後20日1時55分ごろ発生する。事故を起こしたドライバーがトレーラーヘッドで2本のコンテナシャーシを積み込んだ後、3本目のコンテナシャーシを積み込み中、死亡した誘導員の笛の合図でトレーラーを後進させ、積み付け位置に停止させたが、誘導員がトレーラーと先に積まれたシャーシの間に挟まれた。

運輸安全委員会は、トレーラーが後進している間の誘導員を目撃した人がいないことから、「誘導員が誘導を行っていた状況を明らかにすることはできなかった」としたものの、脚巻き作業員が、停止の笛の合図を聞いてからトレーラーが少し下がったと感じ、同時に「ピッピッピッピッ」というやり直しを指示する音を聞いていることから、トレーラーが「笛の合図と同時に完全に停止していなかった」と推定。

現場の状況から、誘導員は停止合図後にトレーラーの後方をまわって反対側の車止めを設置しようとしていたことが予想され、その最中に挟まれたとみられている。

▲事故当時の位置関係図(出所:運輸安全委員会)

荷役作業前の飲酒について運輸安全委員会は、「運転手の具体的な運転技能に対して、どのように影響を与えたかについては、明らかにすることができなかった」としたものの、事故の2時間後に警察が行った呼気検査結果や科学警察研究所の研究調査結果をもとに、「(飲酒が)状況判断、反応時間などの運転技能に影響を及ぼしていた可能性がある」と指摘した。

港湾運送事業者の博多港運は、自社の社員に対して荷役始業前のアルコールチェックを行っていたが、下請け会社の吉田産業運輸のドライバーに対して荷役作業前のアルコールチェックを行っていなかった。また、吉田産業運輸はドライバーに対し、乗務開始前の点呼時にアルコールチェックを行っていたが、荷役作業前には実施していなかった。

▲現場調査の様子(出所:運輸安全委員会)

運輸安全委員会は、再発防止策として荷役作業に関する指導の徹底を提言するとともに、「荷役作業を行う車両の運転手は、飲酒が状況判断などに影響を及ぼし、正常な運転ができなくなる可能性があることから、飲酒を厳に慎むべき」「港湾運送事業者は、車両の運転手に対し、飲酒運転を防止する教育訓練を実施するとともに、荷役開始前のアルコールチェックを徹底する体制を確立すること」と強い口調で指摘。

また、港湾運送事業者に対し、「港湾運送事業法の許可を得ていない事業者に荷役作業を請け負わせないこと」と意見を述べ、国交省と厚労省に対しても「港湾荷役作業において、車両などの運転手が飲酒しないよう指導を行うこと」と釘を刺した。

この事故では、事故を起こしたドライバーの呼気から基準値を超えるアルコール分が検出されているが、船内の事故ということで道交法違反(酒気帯び運転)の適用が見送られ、自動車運転処罰法違反(過失致死)容疑でドライバーが送検されている。