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国交省、長距離「中継輸送」事例募集で普及促進へ

2021年9月2日 (木)

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ロジスティクス国土交通省は、長距離運行を複数のドライバーで分担し日帰り勤務が可能となる「中継輸送」の取り組み事例を募集する。ドライバーの就労環境の改善や、より効率的な輸送態勢の構築につなげる中継輸送の普及促進を図る狙いだ。ドライバーによる健康に起因する事故がなかなか減らない現状の打開に取り組む当局の「決意」を反映した形だ。

2018年7月に公布された「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」において、長時間労働の是正を図る観点から、時間外労働について罰則付きの上限規制が導入され、自動車の運転業務についても、2024年4月1日から、年960時間の上限規制が適用される。いわゆる「2024年問題」と呼ばれるこの規制適用の開始を見据えて、運輸業界は対応に迫られている。

富士運輸が実施した中継輸送の一例(出所:国土交通省「中継輸送の取組事例集」より)

こうした状況で、注目を集めているのが中継輸送だ。例えば関東と関西を相互に結ぶ輸送路線便では、ドライバーが単独で乗務した場合は1泊2日の勤務スケジュールを組むことになる。中継運輸は、関東と関西の中間地点で荷物を降ろし交代したドライバーが残りの乗務を担う。ドライバーは中間地点で折り返す形となり日帰り勤務が可能となることから、労務管理上の利点があり、適切な休息を取得することも可能となる。結果として、業務の効率化にも貢献することになる。

中継輸送の継続的な実施には、上限規制を順守しながら現在と同水準の物流を確保することが必要となり、生産性向上や長時間労働の改善など働き方改革に向けた取り組みの速やかな実施が求められる。国交省は、働き方改革につながる中継輸送の取組事例を広く募集し、事例集として周知することにより、中継輸送のさらなる普及促進を図る。

募集対象者は、中継輸送を実施している事業者(荷主や運送事業者など)。募集期間はことし9月から2022年2月末まで。

募集要領・応募URL:https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk4_000110.html

中継輸送の「仕組みづくり」に事業者ももっと関与を

「2024年問題」の自動車運転業務への適用を2年半後に控えて、いよいよ官民ともにその対応に動き出した。特に国交省は、社会インフラである物流の現場を支えるドライバーの確保や就労環境改善に注力した政策を講じており、今回もこうした取り組みの一環として評価できると考える。

しかしながら、今ひとつ腹落ちがしないのが本音だ。当局の施策に対して、事業者の対応が鈍くないだろうか。物流関連企業が「2024年問題」をテーマとしたセミナーを開催するなど、機運は徐々に高まってきているのかも知れないが、当事者である運送事業者からこうした危機感が見えてこないのが正直な印象だ。

中継輸送の利点は、荷物に輸送に支障をきたすことなくドライバーが自宅で休息できることだろう。拘束時間が半減するからだ。いわば、従来は両立が不可能とされてきた「荷物の定時輸送」と「ドライバーの休息確保」という2つの概念を、ほぼ確実に実現できるからだ。

新東名高速道路の浜松サービスエリア(浜松市浜北区・北区)では、中継輸送の拠点整備が進んでいる。こうしたインフラ整備は当局の仕事だろうが、それを運用するのは事業者だ。中継輸送は、本来は輸送のプロ集団である運送事業者の知恵のなせる技であるはずだ。中継輸送は運送業界の「常識」となるか。2024年まで時間は長くない。(編集部・清水直樹)