話題LOGISTICS TODAY編集部が8月12日から20日にかけて、物流企業や荷主企業を中心とする読者に対して実施した「防災BCPに関する実態調査」(有効回答数1023件、回答率32.2%)の結果、7割を超える企業が災害に対するBCP(事業継続計画)またはこれに準ずる独自のマニュアルを整備している一方で、6割を超える企業が対策にかける「時間や人員の不足」と「知識と情報の不足」を課題に挙げていることが分かった。社会活動の継続に不可欠な物流インフラを支える事業者として、計画は整備したものの、いざという時にリソース不足で計画を実行できず、「計画倒れ」に陥る可能性を示唆している。
物流サービス提供の優先順位は設定されているが…
前回の記事では、荷主企業や物流企業を中心とする回答者(1023件)のうち、7割が何らかの事業継続プランを策定している一方、発災後の初動対応に向けた準備が比較的手薄になっており、特に、事業継続や早期復旧に大きく関わる「物流インフラに関する情報を効率的に収集する手段」を確保できている企業は3割未満であることが分かった。物流企業にとっては致命的ともいえる、災害時の事業継続意識の低さが露呈したとはいえないか。
そこで、被災後に通常業務体制へ復帰するために必要な措置として準備できている項目を選んでもらった。「重要業務・物流サービス提供の優先順位の設定」がトップで全体の51.1%を占めた。自社業務である物流サービス提供の優先順位付けについては、整備が進んでいることが分かる。続いて、「燃料の予備の確保や早めの給油など、緊急時の燃料不足対応」が27.5%、「施設の復旧体制の整備」が25.2%、「従業員の生活支援、物資の購入などに充てる対策資金の用意」が19.1%となった。
■通常の業務体制へ復旧するための対策として実施できているもの
災害対策構築の課題は「知識・情報・時間・人員」の不足
それでは、災害対策を講じるうえで課題と感じているポイントは何だろうか。課題点に関する設問では、「知識や情報が不足している」(64.1%)、「災害対策に取り組む時間や人員が不足している」(61.8%)が6割以上で上位を占め、他の回答を大きく引き離した。要するに、日々の多忙な業務のなかで、災害対応に割く時間も人員もないというわけだ。「備えあれば憂いなし」とは分かっているものの、現実にはいつ起きるかも分からない災害への対応よりも、足元の業務をこなすことが先決ということだろう。
「経営層の関与や認識が不足している」(29%)、予算が不足している(28.2%)との回答も、いわば同じ発想だ。物流インフラ情報の効率的な収集手段がないことへの懸念については先述のとおりだが、その背景にはここでの設問の回答にあるような、あらゆるリソース不足があるのは間違いなさそうだ。ちなみに、この設問の回答について、運送企業や荷主企業など属性別で分析してみたが、いずれもほぼ同様の傾向が浮かんだ。
■災害対策を講じる際の課題
「異常気象時の輸送目安」の実行は2割が未達成
ここまで災害対策の大枠について聞いてきたが、ドライバーの命を守る運行管理上の対策意識はどうか。国土交通省が2020年2月末に設定した「異常気象時にトラック輸送を行う場合の対応目安」に準ずる運行管理ができているかを聞いた。
自社車両への対応では、「ある程度、実行できている」が最多で50.2%。次点の「かなり実行できている」(6.9%)を含めた過半数以上が実行できていると回答したのに対して、「あまり実行できていない」(19.1%)と「実行できていない」(10.2%)を加えたおよそ3割が消極的とする回答だった。物流インフラを担う事業者として、やや気がかりな数字だ。また、「かなり実行できている」とする回答者の内訳は、「荷主企業」が11.1%、「3PL・倉庫業」が8.1%、「運送業」が2.1%となっており、業種による対策意識の差や、下請け業者へのしわ寄せ構造が数字に表れたとみられる。
■自社車両に対する「異常気象時の輸送目安」の実行状況
協力会社や取引先の車両への対応では、「ある程度、実行できている」(42.1%)と「かなり実行できている」(8.8%)を合わせてほぼ半数が実行できているとした一方で、「あまり実行できていない」(15.8%)と「実行できていない」(12.3%)で全体の4分の1以上が実行できていなかった。また、自社車両への対応と同様に、「かなり実行できている」とする回答者の内訳は、「荷主企業」(14.8%)ほど高く、「3PL・倉庫業」(7.3%)、「運送業」(5.9%)は相対的に低くなった。
■協力会社や取引先の車両に対する「異常気象時の輸送目安」の実行状況
「災害情報の提供サービス」への高い関心
ここまで、物流企業と荷主企業を対象に、自社や取引先における災害対策について調査した結果をまとめてきた。最後に、災害対策を対象とした各種サービスについて、関心のあるものを選択してもらった。
最も多く集まった回答は、「災害情報を素早く配信する情報サービス」で全体の46.6%を占めた。「非常時に電力を確保できる商品・サービス」(38.2%)、「自社物流拠点の被災状況を自動で詳細・迅速に把握できるサービス」(36.6%)、「災害時にシステム障害に対応したり、バックアップしたりできるサービス」(31.3%)と続いた。
■災害対策として関心のあるサービス
ここで注目したいのは、被災に関する情報把握に関するサービスを求める回答が上位を占めたことだ。先述の設問で、災害対策を講じるうえでの課題について、「時間や人員の不足」「知識や情報の不足」を指摘する回答が他を圧倒した。まさにこうしたリソースの未充足を補うサービスが、物流企業や荷主企業からは求められていることが如実に浮かんだ格好だ。
裏を返せば、こうした災害情報や被災の状況について、自社の内部で的確に取得することは相当ハードルが高いという現実がある。災害時の情報管理業務は、本社の総務担当が担う事例が多いが、各拠点との連絡から状況の把握、さらに集約した情報を経営トップを含めた社内に展開する作業がほぼ同時並行で発生する。「天災は忘れたころにやってくる」の格言のとおり、災害時対応は突発的なものだけに、熟達した従業員はなかなか育たないものだ。結果として、的確な指示を迅速に出すことができず、サプライチェーンへのダメージを招くなど、事業遂行への影響が発生してしまうことにもなりかねないのだ。
物流を途絶させないために必要な「情報」
前回の記事で、災害発生後の対応として準備できている事柄を聞いた設問で、「物流インフラに関する情報を効率的に取得・収集する手段が確保できている」との回答が3割にとどまったことについて触れた。こちらも同様に、災害にかかる情報入手の難しさを指摘している。災害時の対応だけでなく、災害準備の段階からも情報収集を扱うサービスへの期待はそれほどまでに大きいことを強く示唆しているのだ。
物流ビジネスにおいて、災害は事業継続を阻む最大の因子であると同時に、あらゆる社会機能を復旧させる原動力としての活躍が求められる局面でもある。そこで必要なのが、被災地を含めた迅速な災害関連情報なのであれば、外部サービスの活用を含めた業務基盤の構築を推進すべきではないだろうか。それは、まさに物流DX(デジタルトランスフォーメーション)に向けた施策なのであり、何より社会に不可欠なインフラの継続につながる取り組みだからだ。
今回の調査は、物流企業や荷主企業が情報獲得スキルの不足を課題と認識しており、災害時にサプライチェーンの途絶を回避するための一つの手段として、それを支援するサービスへの関心を強く抱いている実態を浮き彫りにしたといえるだろう。