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冬の道路立ち往生教訓に高速道路会社が導入「Spectee Pro」

AIで即時情報収集、物流会社の災害対策で重要性増す

2021年9月6日 (月)

話題物流は社会に不可欠なインフラだ。我々の日々の生活に必要なあらゆるモノを運んでいる、いわば「血液」だ。それは災害時でも変わらない。むしろ災害時だからこそ、途絶してはいけないのだ――。そんな現場の使命感を守るために、災害や事故などのリスク情報をいち早くつかみ、正しく分析して対応を決断しなければいけない。そして、関係者に一目でわかる形で共有する必要がある。

こうした物流業界のニーズに対して、AI(人工知能)を活用した防災・危機管理ソリューションを展開するのが、Spectee(スペクティ、東京都千代田区)だ。公的機関の発表や報道より早く、事業者の求めるリスク情報をリアルタイムに配信し、「いつ」「どこで」「なに」が起きたのかを地図上で可視化する。「Spectee Pro」(スペクティプロ)と呼ばれるこのサービスは、物流会社をはじめとする多くのインフラ系企業が災害の兆候や発災後の状況把握に活用しているほか、テレビ局や新聞社など報道機関も取材の情報源としている。

では、公的機関の発表や報道よりも早く発信するという、スペクティの情報源はどこなのか。情報の正確性は担保されているのか。物流会社が利用するメリットはどこにあるのか――。その疑問を同社の村上建治郎CEOにぶつけてみた。(LOGISTICS TODAY編集部)

スペクティプロの情報源はどこか

▲スペクティの村上CEO

「もちろん、気象庁や電力会社、高速道路会社などの公的機関が発信する情報や、国や自治体が発信している情報も網羅しているが、スペクティが即時性を守るためにもっとも重要視している情報源は『SNS』(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)だ」(村上CEO)

スペクティは、ツイッターやインスタグラムなどのSNSで「第一報」を入手し、公的機関の発表や報道より早く情報発信している。確かに、一次情報としてSNSの即時性は抜群だ。なぜなら、全国の津々浦々に存在する発信者は、例えば地震やゲリラ豪雨、事故などの突発的な現象が発生したと同時に情報を発信しているからだ。

正確さの番人は「AI」と「人」

すると、次の疑問が浮かんできた。公的機関の情報は傍証にはなるが、即時性では遅くなってしまう。しかし、SNSの情報はまさに玉石混交。本当に信用して大丈夫なのだろうか。村上CEOは、「そこがまさにスペクティの強みだ」と強調する。

「A市のX川の堤防が崩れた」「道路に水が流れてきた」「車が流された」――。SNS投稿は、矢継ぎ早に情報が発信され、拡散していく。しかし、発信者は一般の市民であることが大半であり、これを活用するには投稿されたSNS情報の正確さを迅速に判断する必要がある。

こうした課題に対しスペクティは、「SNSで上がってきた情報をAI(人工知能)が収集・解析、さらにAIによる信ぴょう性の判断だけではなく、24時間体制で人による真偽の確認も行いながら正確な情報を発信する体制を整えている。台風や地震発生時はデマ情報が多く出回るため、公的機関の情報や複数人の投稿を参照するなどして、特に気をつけて真偽判定を行っている」(村上CEO)という。SNSの投稿からわずか数分で真偽を確かめ、配信しているというから驚きだ。

▲人の目を介した真偽判定が情報の信ぴょう性を確保する

情報分析の「命」である高度な位置特定技術

同社のAIとオペレーションチームは、災害や事件事故に関連する投稿を吸い上げ、自然言語解析と画像解析を組み合わせることで、「いつ」「どこで」「何が」起きているのかという情報を把握していく。しかし、SNSの投稿からは「いつ」「何が」が分かっても、「どこで」が正確に分からないケースも多い。

例えば、「国道X号線で事故発生。トラックの積荷が散乱している」という投稿から、正確な場所を割り出すのは非常に難しい。こうした場合には、画像や動画の中に写り込んだ道路標識や交差点の名前をAIが検出し、正確な場所を特定。もし直接的に特定できる情報が含まれていない場合には、写り込んだ店舗の看板や、建物の位置関係から場所を推定する。「例えば、『コンビニエンスストアAとガソリンスタンドB、さらにその背景にある山と道路がこういう位置関係と距離にある場所は全国で3か所』とAIが割り出していく。最終的にオペレーションチームが人間の目で確認して場所を特定する」(村上CEO)のだという。

こうして、「午前7時45分ごろ」に「国道X号線のY交差点付近」で「トラックの横転事故が発生し積荷が散乱」という情報がスペクティから発信される。もちろんこのタイミングでは、当局やメディアの発表はない。むしろ、こうしたスペクティ発の情報をもとに、報道機関は取材を始めることになる。こういった画像からの場所の割り出しや、SNSの正確性の判定などについては、同社の複数の特許技術が活かされている。「SNSの情報解析に関しては、すでに20件近くの特許を所有している。そういった技術力の高さが当社の最大の強みだ」(村上CEO)

スペクティプロの導入で物流会社が得るもの

同社は、なぜそこまで情報発信の即時性にこだわるのか。村上CEOは「被害が発生しているという情報を、数時間後、半日後に把握しても意味がない」と言い切る。ライフラインを支える物流会社の運行管理責任者には、過去に思い当たるものがあるのではないか。

(イメージ、出所:国土交通省)

昨冬、関越道と北陸道は大雪に見舞われ、多くのトラックが立ち往生に巻き込まれた。数日に及ぶ真冬の立ち往生に、ドライバーは「命の危険を感じた」という。あるドライバーは、LOGISTICS TODAYの取材に対し、「道路情報サイト『i-Highway』(アイハイウェイ)に何も表示されていなかったため、行けるところまで行こうと考えたが、つかまってしまった」と証言した。

このとき、スペクティは立ち往生が発生する兆候をいち早く察知し、高速道路会社が通行止めを発表する何時間も前に注意喚起を発していた。もし、この情報を運行管理責任者が迅速にドライバーに展開していたら、ドライバーの判断は変わっていたのではないか。

(イメージ、出所:国土交通省)

また、別の運送会社からは「荷主から一般道で可能な限り近づいてほしいという強い指示があり、やむを得ず走らせたトラックもある」との証言もあった。命の危険を伴う運行を強要する側に問題があるのだが、こうした事態に具体的な情報をもって立ち向かうことができていたら、状況は変わっていたかもしれない。

関越道の大規模立ち往生の事例では、対応の遅れが問題視され、最終的に高速道路会社が謝罪するに至ったが、その後、別の高速道路会社は迅速な対応と予防的措置につながるスペクティのサービスに価値を見出し、すぐに導入を決めたという。

物流会社にとっては、災害や事故などのリスク情報を迅速に把握することが、ドライバーの命を守ることに直結する。また、危機の兆候を把握して事前に対策を講じることは、輸送品質の向上と荷主からの信頼につながるだろう。

<関連記事リンク>

関越道立ち往生のトラック運転手、眠さ空腹限界に(2020年12月18日掲載)
https://www.logi-today.com/412686

大雪の北陸で物流ストップ、輸送強行求める荷主も(2021年1月10日掲載)
https://www.logi-today.com/415062

情報の一元管理で危機管理担当者を支援

▲リスク情報をあらゆるデバイスで可視化するスペクティプロ(クリックで拡大)

では、実際にサービスを導入した物流会社の担当者は、どのようにリスク情報を受け取るのか。スペクティでは、管理画面への表示と音声読み上げをはじめ、指定メールアドレスへの配信、さらにスマートフォンアプリへの通知など、情報送付の方法も多岐にわたる。また、既存システムと情報連携するためのAPIも用意されており、企業の体制や環境に応じて使い分けることが可能だ。

とはいえ、タイムラインの情報は文字と動画・画像で構成されたものだけでは、特に遠隔地で土地勘がない場合は現場をイメージしにくく、結果的に適切な判断を下せなくなってしまうこともありうる。また、新たなリスク情報が次々と発信される中で、業務に影響を及ぼすような、本当に必要な情報を見逃すおそれもある。スペクティの村上CEOは、「世の中で発生する事故情報は、警察の次に当社が多く把握している」と自信をのぞかせたが、こうした課題に対してどう対処しているのか。

「スペクティプロでは、自社と取引先の拠点や輸送ルートを登録し、その周辺やルート上で発生したリスク情報を受信することが可能で、大雨、台風、大雪、地震、火災、事故など、100以上のカテゴリーから取捨選択することができる。また、リスク情報は地図上に反映されており、ユーザーが衛星画像やストリートビューなどを参照することも可能だ。我々は、常に状況把握しやすい方法でリスク情報を提供するよう心がけている」(村上CEO)。

▲遠近多様な視点でリスク情報を捉えられる(クリックで拡大)

大手自動車メーカーと連携し走行可否や最適ルートの提供も

▲路面状態の確認画面(イメージ)

こうした同社の姿勢は、新たなサービスも生み出そうとしている。地震や大雪などの災害発生後に、リアルタイムな車両の通行実績から割り出した、道路の走行可否や通行にかかる時間、道路自体のリスク度合いの提供だ。

大手自動車メーカーが提供するプローブデータ(車両走行データ)と道路情報会社から提供される全国約4000台のカメラ映像を活用するもので、取得したデータとカメラ映像をスペクティが解析、またSNSからのリスク情報と組み合わせて、道路の被害状況や代替ルートを提案する。同サービスは既に内部実装されており、最終確認を経て、間もなく正式にリリースするという。

▲プローブデータを用いたルート提案のイメージ(クリックで拡大)

全国に輸配送ネットワークを構築し、取引先も多岐にわたる物流企業にとって、本社から遠く離れた現地の情報を迅速に把握できる利点は計り知れない。村上CEOは、「昨冬の大雪での高速道路のスタックの例でもわかるとおり、災害時には一般的な道路情報だけでは被害状況を把握するのは難しい。物流業界はものすごい勢いで効率化が進んでいるが、ひとたび何かが起こると全体が停滞するリスクをはらんでいる。事前にリスク情報を把握して対応することが非常に重要になるのではないか」と話す。

スペクティの技術は、物流という社会インフラの継続、さらにはサプライチェーンの適切なマネジメントに不可欠だ。物流を支える危機管理情報は、それ自体がもはや社会に不可欠なインフラになっている。今後の物流ビジネスのあるべき姿を提示する、これもまさに物流DX(デジタルトランスフォーメーション)を実現するサービスといえるだろう。

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