ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

物流業界の災害対策、初動対応の備え課題に

2021年9月1日 (水)

話題LOGISTICS TODAY編集部が8月12日から20日にかけて、物流企業や荷主企業を中心とする読者に対して実施した「防災・BCPに関する実態調査」(有効回答数1023件、回答率32.2%)の結果、7割を超える企業が災害に対するBCP(事業継続計画)またはこれに準ずる独自のマニュアルを整備している一方で、6割を超える企業が対策にかける「時間や人員の不足」と「知識と情報の不足」を課題に挙げていることが分かった。社会活動の継続に不可欠な物流インフラを支える事業者として、計画は整備したものの、いざという時にリソース不足で計画を実行できず、「計画倒れ」に陥る可能性を示唆している。

今回の調査における回答者の内訳は、運送業が38.9%、3PL・倉庫業が31.3%、荷主企業が20.6%、その他が9.1%。(編集部特別取材班)

東日本大震災後に3割が自社拠点の被災を経験

広域で大きな被害が出た東日本大震災(2011年)を”除き”、過去10年間に発生した地震や火災、水害などの災害に遭遇した経験を問うた設問では、「自社拠点(生産・物流・営業など)が被災し、一定期間、サプライチェーンに影響が出た」との回答が28%でトップ。自社拠点が被災したものの、サプライチェーンに影響が出なかった企業は5.3%だった。

■東日本大震災後の被災経験

自社と取引先の拠点、または交通・物流インフラの被災によって、「サプライチェーンに影響が出た」とする回答は合わせて71.2%にのぼり、「自社・取引先を含めて被災しておらず、サプライチェーンへの影響も確認されていない」との回答は16%にとどまった。

ここ10年間で、多くの地震や風水害が日本列島の各地を襲ったが、全体の33.3%が自社拠点の被災を経験しており、そうでない場合も取引先や交通・物流インフラの被災によるサプライチェーンへの何らかの影響を免れなかった実態が明らかになった。災害による事業への影響を前提とした経営戦略の構築がさらに求められそうだ。

7割が何らかの事業継続プランを策定

災害への備えはどうか。「事業継続計画(BCP)を策定している」と答えた企業は43.5%と最多で、BCPが一定程度は浸透していることがうかがえた。「BCPは策定していないが、災害対策マニュアルなど自社独自の取り組みを実施している」(27.5%)を合わせると、全体の7割が何らかの災害対応計画を策定している。

一方で、「BCPも自社独自の取り組みも実施していないが、今後、何らかの対策を予定・検討している」(19.8%)、「BCPも自社独自の取り組みも実施しておらず、何らかの対策を講じたいが、どのように対応していいか分からない」(5.3%)と、必要性の認識はあるものの、具体的な計画策定には至っていない企業もあった。実効的な対応が待たれるところだ。

■BCP策定状況と取り組みへの意識

災害よりも実務的リスクを重視、コストも壁に

BCPやマニュアルについては、一定の対応がなされていることは分かった。ここで、災害を含めたリスク別に対策の重要さに関する認識を聞いたところ、要件ごとに差が出た。「非常に重要」との回答は、「自社の貨物事故」(72.5%)、「地震・津波」(71%)、「輸送インフラの停止」(67.9%)で高かった一方で、台風や洪水を除く「その他異常気象(熱波・雪害など)」(32.8%)、「燃料費の高騰」(35.1%)などで低さが際立った。

東日本大震災とそれに続く一連の余震が現在も続く中で、地震・津波に対して強い危機感を抱くのは当然の結果と言えるだろうが、「火災」(48.1%)や「停電」(40.5%)は相対的に低くなった。自社や取引先での被災経験の有無や程度による「現実感」の違いが影響しているのではないだろうか。むしろ、「自社の貨物事故」や「輸送インフラの停止」が高い回答率を示したのは、トラックなど車両を使った事業者ならではの「実務的」なリスクへの危機感が強いためだろう。そこが、災害への危機管理の落とし穴になっている可能性もあるのだが。

■各リスクにおける対策の重要度

続いて、災害への備えの中で、事前準備に関する具体的な取り組み状況について聞いた。「できている」との回答が多かったのは、「消化器、救急用品、避難・救難機材」(87%)、「データのバックアップ」(80.9%)、「構内・事務所の整理整頓」(77.9%)などが上位を占めた。

それに対して、「事務所・車両・倉庫などの重要代替拠点・設備の確保」(35.1%)、「拠点を構える際に、災害に強い立地・施設を選定」(43.5%)、「設備を導入する際、災害に強いものを採用するよう配慮」(45.8%)など、大規模な設備投資を伴う案件が相対的に低くなった。とはいえ、これらの回答についても、「できていないが今後取り組みたい」との回答はいずれも30%を超える高い比率となっており、コスト面を含めた経営課題としては認識されているようだ。

■災害を想定して事前に準備できている項目

「物流インフラ情報収集の手段を確保」はわずか3割

先人は、災害について「備えあれば憂いなし」と伝承してきた。まさに発災後の初動対応を見据えた準備が、その後の事業運営を大きく左右することになる。初動対応に向けた準備ができている事柄を選ぶ設問で、最多だったのは「従業員に対して会社や家族との連絡を指示」で全体の71%が回答した。次いで「避難経路や避難場所の共有」(64.1%)、「社内の被災情報を集約し、対策を講じる準備」(61.1%)、「災害対策本部などの役割分担や責任者の代行順位の策定」(57.3%)となった。いずれも、基本的な初動対応がある程度、徹底されていることが分かる。しかし、前述の事前準備に関する取り組みと比べ、全体的に「できている」割合が低い。

■発災後の初動対応に向けて準備できている項目

さらに意外だったのが、「物流インフラに関する情報を効率的に収集する手段の確保」が全体の29.8%にとどまったことだ。7割近い企業が「自社の貨物事故」や「輸送インフラの停止」への対策を「非常に重要」としていながら、関連する物流インフラ情報の収集手段を、未だに確保できていないことが浮き彫りになったわけだ。確かに緊急時の情報収集は困難を極めるものではあるのだが、だからこそ事前の「備え」が必要な領域ではないか。例えば、被災地での代替業務の要員を送り込むにも、当地の道路状況を把握していなければ現地入りすらままならないだろうし、輸送事業の可否判断の遅れや不適切な指示につながるおそれも十分にある。

とはいえ、こうした情報収集は限られた人員で迅速にこなすのが難しく、全国に拠点を持つ大手物流企業でも、自社の被災状況を集約して共有するのに手一杯で、輸送インフラなどの外部情報を膨大な時間がかかるのが実情だ。そこで、外部のサービスを利用して情報収集の効率化を図る取り組みが広がり始めている。

次回は、災害対策を講じる上での課題や、災害対策を対象とした各種サービスへの関心度について分析していく。

■特集コンテンツ