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激甚災害時でも物流を維持

改善重ね進化、プロロジス流災害対策の舞台裏

2021年9月8日 (水)

話題2011年3月11日14時46分、宮城県牡鹿半島の東南東130キロ付近で震源が深さ24キロ、地震エネルギーの大きさを表すマグニチュードは9.1の、国内では過去最大となる地震が発生、最大震度は7、東京でも震度5弱を観測した。東日本大震災である。震源地から直線距離にして380キロ離れた東京都のプロロジス日本法人では、同社人事・総務室の茨城千佳子氏(現・人事総務室シニアマネージャー)が、携帯電話のメール画面をじっと見つめていた。

▲震災直後の状況を回顧する茨城氏

「ずっと待っていたんです」

社員の安否を確認する作業で、同社の起点となる役割を担っていたのが茨城氏だった。

仙台空港にほど近い宮城県岩沼市では同社の物流施設のひとつが稼働していた。同社は東日本大震災の以前から大手警備会社の安否確認システムを導入し、大きな地震が発生すれば、直ちに同氏に「安否確認メール」を一斉送信するかどうかを確かめる連絡が入る手はずとなっていた。

しかし時間は30分、40分——と無情に過ぎていく。東京にいても、震源地に近いエリアでは明らかに大災害が発生しているはずだとわかるほどの大きな地震だったが、待てど暮らせど、携帯電話は鳴らなかった。現場と連絡を取ろうにも、電話や電子メールはまったくつながらない。現地の施設が、そして現場のスタッフの命が守られているのか、判断のつかない状況が続く。

現地ではその時、日頃から同社との情報交換や意思疎通を欠かさなかった施設管理会社のスタッフが、作業員を安全な上層階に避難させるなど、適切な対応を取ってくれていた。発災から6時間近くが経過し、その日の夜にようやく電話もつながり、全員の無事を確認できた。

▲協力会社との連携の重要性を説く木村氏

同社でプロパティーマネジメントを担当するバイスプレジデントオペレーション部長の木村英二氏は、「日頃から元施工建設会社や施設管理会社などと良好かつ緊密な関係を築いたことで、我々が直接現地に行けない間も、現場を守っていただいた。各協力会社との結びつきの強さで、被災後の復旧スピードも速まったと思われる」と振り返る。

その後も被災地へのアクセスは困難を極め、東京のプロロジス社員が現地入りできるまでに1週間程度を要した。この間、同社は元施工建設会社や施設管理会社、元施工建設会社および施設管理会社の本社と緊密に連携を取り続け、復旧に向けた体制の構築を目指した。入居していた企業は4月末から、被害が少なかった同施設に移転してきた企業も5月からは物流を再開することができたという。このときの経験が、同社の災害対策を大きく変えた。(LOGISTICS TODAY編集部)

「施設」だけで災害は防げない

同社の運営する物流施設の堅固さや安全性はかねてから知られているが、これらのエピソードからはハード面だけでなく、関係会社との強固な協力関係や、社員の一つ一つの対応や努力の積み重ねなど、運用面のパワーが窮地に陥った物流サービスの維持を強固に下支えしていることが透けて見える。その源流にあるものは何か。

茨城氏は、日頃から勉強会を開催するだけでなく、各家庭に蓄電池を貸与するなど、会社を挙げた平時からの取り組みにより「130人を超える社員の防災やBCPに対する意識は、常に底上げされている」と語る。プロロジスの現在の防災対策や社員の防災とBCPに対する「意識」について、詳しく話を聞いた。

20年以上の経験が蓄積した「備え」

プロロジスのグローバル本社は、米国カリフォルニア州サンフランシスコに本拠を構える。日本法人の設立は1999年、現在は東京と大阪にオフィスを構え、開発中の案件を含めると、全国に展開する物流施設は70棟に上る。総延床面積は536万平方メートル、取引先の数は170社に及ぶ。シニアバイスプレジデント執行役員オペレーション本部長の山口哲氏は、防災とBCPの取り組みについて「日本法人の設立当初から『物流を止めない』ということを強く意識し、注力してきた」と語る。

▲発災後の「止めない物流」へのこだわりを主張する山口氏

飲料や食料の備蓄に加えて、免震装置や非常用発電機、衛星電話、浄水システムなどの設置、入居企業との防災訓練や入居企業との定期的な連絡協議会など、業界のパイオニアとして進めたさまざまな「備え」の取り組みは、業界標準となって他社が追随したものも多い。また、大きな自然災害を経験する度に、防災対策はバージョンアップを重ね、東日本大震災後は各物流施設に衛星電話を導入するなど、絶えず進化を続けている。

■プロロジスパークの災害対策設備

では、近年の自然災害で同社の物流施設が被害に見舞われた際には、どのような結果となったのか。19年9月に千葉県を中心に甚大な被害を出し、激甚災害に指定された房総半島台風(台風15号)の際には、同社の千葉県に所在する施設にも被害が及び、強風により倉庫のバースのシャッターが破損、開閉できない事態が起こった。しかし、その翌朝には仮復旧して、通常に近い業務を開始したという。その事前、そして事後の取り組みには、何か秘策があったのだろうか。

シャッターを即復旧に導いたコミュニケーション力

同施設を担当していたオペレーション部シニアマネージャーの矢田貝真奈氏は、事前の備えについて「気象情報は毎日チェックしているので、プロロジスの物流施設が所在する地域に台風が直撃する可能性がある場合は2、3日前からわかる。そのような場合には委託している施設管理会社のスタッフに、夜間や日曜日など無人になる時間帯でも、現場を守っていただけるよう事前にお願いして、体制を整えている」と語る。

▲被害を最小限にとどめるには事前のコミュニケーションが大事と話す矢田貝氏

また、横殴りの暴雨で商品が濡れたりすることがないよう、入居企業にはバースに荷物を置かないこと、窓や換気扇を開放したままにしないことなどを、施設管理会社を通じて事前に伝えている。矢田貝氏によれば「あらかじめ念を押しておくだけでも被害は少なくでき、何か起こった場合のコミュニケーションも取りやすくなる」とのことで、まずは日頃からのケアやコミュニケーションが重要、ということになる。

破損したシャッターについては、板を打ち付けて風雨が入り込まないようにし、倒れないように裏側から支柱で支えるなどして、何とか翌朝には仮復旧したが、その秘訣も、やはり日頃のコミュニケーションによるところが大きかった。矢田貝氏は「広範囲で甚大な被害が出ていたため、当然、協力会社さんも忙しく、確保しにくかった。ただ、プロロジスは日頃から多くの協力会社と取引があり、懇意にしている協力会社も多いので、施設管理会社と一緒にとにかく電話をし続けて、なんとか仮復旧工事をお願いすることができた」と語る。

シャッター破損から、仮復旧完了まではバースが開放状態となってしまいセキュリティ上の問題が発生するため、施設管理会社に協力を依頼し、警備のための人員を配備し急場をしのいだ。ここでも、日頃からの管理会社とのコミュニケーションが生きたことになる。

シャッターは受注生産品であるため、完全に修復するまでには2か月間を要した。しかしその間、入居企業から大きなクレームはなかった。「施設管理会社だけに任せるのではなく、最初からプロロジスのスタッフも現場に駆けつけて、翌日には仮復旧が完了したことで、逆に感謝された。頑張りを見せ続けたことで、お客様との関係も深まった」と矢田貝氏は振り返る。

防災・BCPを加速するFRMの存在

自然災害では発生後に被害を最小限に抑えることも大事だが、同じ被害を繰り返さないことも重要だ。プロロジスは昨年、危機管理マニュアルの刷新に伴い、4月に防災とBCPに関する取り組みを推進するための新たなチームとして、開発・営業・建築技術など各部門の代表で構成する「FRM」(ファシリティー・リスク・マネジメント)を発足させた。

▲強風対策として導入する耐風ポール(黄色の支柱部分)

FRMのメンバーでもある木村氏は、「2019年の台風15号の被害を教訓とし、再び強風で同様の被害が発生することがないよう、継続して検討を重ねている」と語る。具体的には、シャッターの背後に太さ15センチの「耐風ポール」を取り付ける計画を進めており、来年の台風の時期までに、対象となる施設への導入を進める計画だ。このほか、雨どいや屋根の部材の改良、屋根上のソーラーパネルの固定方法の見直しなど、今後に被害が想定される箇所の改良策についても検討を進めているという。

以前の同社では、物流施設ごとや、「オペレーション部」や「コンストラクション・マネジメント部」などの部門ごとに検討を進めて、経営層に報告する形で防災・BCPの取り組みを進めた。そこに今後新たに横串を刺し、横断的で効率的な議論を進めるために立ち上がったのがFRMだ。

プロロジスの防災・BCP対応は、FRMを横断的なチームとしつつ、「オペレーション部」や「コンストラクション・マネジメント部」などが中心となり、全社で進化を続けている。8月、兵庫県猪名川町に完成したばかりの「プロロジスパーク猪名川2」には、初めての取り組みとして、非常時の発電機燃料を備蓄する大型のオイルタンクを地下に備えた。それにより、施設内の防災センターや入居企業の事務所の一部などに最大7日分の電力供給が可能になるほか、備蓄した燃料を入居企業や地域に提供することも可能になる。今後はエリアごとに中核拠点を定め、施設間で非常用電力を融通するプランも進行しているという。

▲プロロジスパーク猪名川2

防災性とBCPを見直し続ける理由

プロロジスが、日本法人を挙げて防災とBCPに取り組む理由は何か。山口氏は「2020年初め、ちょうどコロナ禍が始まる頃から、経営層による会議の中では『日頃から取り組んでいるリスクマネジメントやBCPがプロロジスの強みの一つなのでは』という気づきが生まれ始めていた。そして『社会インフラでもある物流施設を、より安心して使っていただくために何に注力していくべきか』という議論が始まった」と語る。

山口氏は「ハードは真似できるが、施設をどう運用して災害対策に生かすかという社員の”イズム”は簡単に模倣できるものではない。それがプロロジスの防災とBCPの強みだと思っている」と話す。

台風15号により被害を受けたシャッターを早期に仮復旧できたのも、施設管理会社や種々な協力会社などとの関係各社と日頃から構築している「プロロジス・ファミリーのような関係」による部分が大きいとの見方を示した。

▲施設内に保管される防災備蓄品

現在、プロロジスが運用する安否確認システムでは、震度5強以上の地震が発生した場合、全従業員に宛てたメールが自動送信され、「本人の無事」「家族の無事」「家屋の無事」「出社の可否」「フリーコメント」の5つを数時間以内に管理責任者へ返信しなければならない仕組みとなっている。

返信されたメールは、1つのリストの上半分に従業員の安否情報が、下半分に同社施設の損壊状況が並ぶ形でまとめられ、人事総務部、オペレーション部、コンストラクション・マネジメント部の3部門で共有する。

管理責任者は、深夜の就寝中であっても返信メールの確認が求められる。震度5弱の地震のほか、台風など地震以外の災害が発生した場合は、安否確認システムの提供会社から「一斉送信するかどうか」を確認する連絡が入る。時間を問わずに。

茨城氏は「出張中で安否確認メールに気づかない社員もいるが、その場合は連絡が取れるまで、粘り強く電話をかけ続けます。この作業で休日が潰れてしまうこともあるんですが」と笑う。

そこまでやる必要があるのかという問いに、表情が変わった。

「最も重要な仕事は、社員とその家族の安全を確認すること。これが把握できないと仕事ができないじゃないですか」

災害発生時には手厚い対応で入居企業の不安に寄り添う同社の姿勢が、これからさまざまな形で発信され、物流施設「プロロジスパーク」のブランド力として認知される日も、そう遠くないと確信した。

プロロジスが提供する先進的物流施設
「プロロジスパーク猪名川2」内覧会情報
【日時】
第1回:9月15日(水)10時~、13時~、15時~
第2回:9月16日(木)10時~、13時~、15時~
第3回:9月17日(金)10時~、13時~、15時~

【施設概要】
所在地:兵庫県川辺郡猪名川町差組字小谷101-2ほか
敷地面積:8万5381平方メートル
延床面積:15万8644平方メートル
構造:5階建て/柱・梁S造
竣工:2021年8月

申込ページへのリンク ※申込期限:9月13日(月)17時
https://www.prologis.co.jp/press-releases/210826-2

プロロジスのセミナー情報
プロロジスウェビナー第5弾
「東北マーケット 物流拠点戦略セミナー」

【概要】
開催日:9月16日(木)
時間:午前の部(11時~12時)/午後の部(16時~17時)
参加費:無料

【プログラム】
「注目を集める東北物流マーケットの動向」
シービーアールイー インダストリアル & ロジスティクス
(午前)松原裕隆氏/(午後)本多善則氏

「東北物流網改革! 新たなプロロジスパークの誕生」
プロロジス 営業部 中山博貴氏

詳細・申込ページへのリンク ※申込期限:9月15日(水)16時
https://www.prologis.co.jp/press-releases/210830

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