話題テレビのニュースが大型台風の接近を告げる。物流倉庫のトラックバースや搬出入口から吹き込む風は、時間を追うごとに勢いを増す。庫内に積み上げた荷物の山が揺れ始め、並べたかご車は音を立てぶつかり合いながら動き出した。大切な荷物を守る”戦い”が始まった――。
荷物の保管だけにとどまらず出荷や納品、流通加工といったサプライチェーンの中核をなす機能を一手に引き受ける物流倉庫。「リードタイムの短縮」「品質の向上」「最適な荷物管理」「トータルコストの削減」など、果たす役割は多岐にわたる。そんな物流倉庫にとって、台風や突風などがもたらす猛烈な風は最大の「難敵」。とりわけ年々威力を増している感もある台風の襲来は、物流倉庫が果たすべき業務にも甚大なダメージを与える可能性があり、BCP(事業継続計画)の観点からも早急に対応すべき課題だ。
こうした課題の解決に、建材ビジネスで挑む企業がある。1956年の設立以来、一貫してシャッターの製造を手がける三和シヤッター工業だ。シャッター業界のトップメーカーとして知られ、ドアや建材などの事業も展開。いわば建物の「内」と「外」を仕切る技術の開発に心血を注いできた65年の歴史だ。(LOGISTICS TODAY編集部)
シャッターの風対策は「風圧」への強度
東京都板橋区。埼玉県との境をなす荒川にほど近い三和シヤッター工業の本社を訪ねた。「シャッターの役割は、開口部を仕切る商品として内部の快適性を担保するため、犯罪を防ぐことをはじめとして、雨や風だけでなく炎や煙、音、光といったものを遮断(シャット)することです」。三和シヤッター工業商品開発部の横井直樹氏 (シャッターグループシャッター課課長)は、用途に応じたシャッター製品の開発力が同社の強みであると話す。そのなかで、近年特に注力しているのが、「風」を遮断する高強度シャッターだ。
大型台風や竜巻などの猛烈な風から建物の内部を守るシャッターには、高い「耐風圧強度」が求められる。近年の強風に対するシャッターの開発におけるテーマは、風がもたらす「圧力」(風圧)に耐え得る強度の確保だという。
風圧に耐えるための2つのポイント
シャッターは簡単に言うと、閉鎖時に降りてくるカーテン部分である「スラット」▽両脇のレールで、降りてくるスラットを案内する「ガイドレール」▽スラットを巻き取る「巻取りシャフト」▽巻取りシャフトを上部両端で支える「軸受」――で構成されている。スラットは、細長い一枚一枚を横から差し込む形でつなげており、端部をかしめや金具で固定することで横方向のずれを防いでいる。
高い風圧に耐えられる商品を作るうえで、ポイントは2つあるという。横井氏によると、「スラットとガイドレールの結節部分である耐風フックの強度」と「ガイドレール自体の強度」がそれだ。スラットを両端のガイドレールで支えて風圧に耐える構造を持つシャッターの場合、風による力は耐風フックにかかることになる。シャッターが風圧に耐えられなかった場合に起きる、スラットがガイドレールから抜け出す事象として、耐風フックの変形、ガイドレールの変形、もしくはその2つの変形が複合して発生する場合がある。
「従来の構造、納まり寸法などを維持しつつ、耐風圧強度を高める方法はないか」。開発メンバーは、耐風フック、およびガイドレールの2つの部材にポイントを絞り、スラットがガイドレールから抜けにくくするための大幅な強度アップを検討した。
耐風フック、ガイドレールの強度アップを実現
スラットがガイドレールから抜けにくくするには何が必要か。風が吹けば、シャッターのスラットは建物の内外に大きくたわみ、耐風フックがガイドレールに引っ掛かる。耐風フックやガイドレールに掛かる力は風圧に応じて高まり、ガイドレール1メートル当たりに掛かる力は数トンにも達することもある。最終的には、スラットがガイドレールから抜けてシャッターが破損することになる。「従来の耐風フックに対し、スラットの巻き形状に影響が出ない範囲で厚みを増した形状や高強度材を使用することによる改良で、大幅な強度アップを図ることができた」(横井氏)
もう一つの課題だった、ガイドレールの強度アップについても、さまざまな案について検討を進めていた。従来のガイドレールは、3種類の市販品鋼材を溶接して組み立てていた。開発メンバーはそこに着目した。「溶接して組み立てるやり方では、強度アップのために溶接個所を大幅に増やす必要があるが、溶接での熱による歪みが部材全体に大きく出てしまい、組立が難しくなるとともにシャッター開閉時の大きな音鳴りなどにもつながってしまう。それならば、ガイドレール専用の鋼材として一体で成形することはできないか」。最終的にその方針がメンバーの総意となり、一体成形によるガイドレールの具体的な開発が始まった。
大型台風にも耐えるシャッター性能を実現
こうして耐風圧強度を高めるシャッター商品の実用化に向けた2つのポイントを克服した開発メンバーは、社内関連部署のメンバーと連携し、商品化に向けた取り組みを開始。建材試験センターにて実施した耐風圧性能試験で、風速80メートルに相当する風圧3900パスカルに耐える結果(開口幅9.5メートルを想定)が出たことで、2020年4月、商品化にこぎ着けた。
その名は「耐風(たいふう)ガード」。物流施設のトラックバースを含む外部回りだけでなく、倉庫内部の倉庫業法で定められた防火区画への導入も想定している。
風速80メートルに耐えるシャッターとはいかなるものか。
過去5年間に国内で発生した台風のうち、瞬間最大風速の最高値は2018年9月4日に関空島(大阪府)で観測された台風21号と、19年9月8日に神津島(東京都)を襲った台風15号で、ともに秒速58.1メートルを記録した。
日本風工学会がまとめた「瞬間風速と人や街の様子との関係」によると、毎秒50メートルの風速(時速換算で180キロ)は「電話ボックスや自動販売機が倒れたり移動したりする」「電柱や街灯が倒れる」「木造小屋の屋根が骨組みごと飛散し始める」「金属屋根の葺き材が広い範囲で剥がれる」「固定していない雨戸や窓シャッターが外れ始める」などと説明されている。これが風速毎秒60メートル(時速換算216キロ)になると、鉄骨倉庫が変形するレベルとなってしまう。
このことから、耐風ガードは今後も発生が予想される大型台風などの強風に対して、建物開口部をガードし、建物内部の人や物品、設備を保護できる「防災」「減災」に最適な商品であることは明白である。
後付けタイプの「耐風ガードプラス」
さらに同社は、耐風ガードの新たなラインアップとして、既設のシャッターの補強材となる「耐風ガードプラス」も商品化した。いわば「後付け」で風圧に耐えられる強度を確保するもので、こちらは風圧1200パスカル(風速44メートル相当)以上に耐える機能を持つ、既存のシャッターの外側に左右方向に引き出すタイプの補強材。手動で簡単に操作できるほか、通常時はシャッターの側面に収納できる仕様としたことで、余分なスペースを確保する必要もない。
耐風ガードプラスの商品化の狙いについて、横井氏は「『既存のシャッターを使用したままで耐風圧強度を高めたい』との要望に対応した商品。近年の相次ぐ大型台風を受けて、耐風圧強度の高いシャッターの新規導入と、既存シャッターの補強の両方のニーズに対応できる商品ラインアップを進めている」と話す。顧客の台風対策に応じた商品構成で、まずは耐風ガードの認知拡大に注力する方針だ。
「物流」を守るシャッター開発
「物流は経営戦略そのものだ」との認識が広がり始めた産業界。倉庫の荷物を守ることは サプライチェーンの断絶を避けるための第一歩だ。三和シヤッター工業のこうした取り組みは、まさに国民の日常生活を守る物流インフラを支えるといえるだろう。