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厚労省が医薬品安定供給呼びかけ、倉庫火災受け

2021年12月9日 (木)

▲倉庫火災の様子

メディカル厚生労働省は、日立物流西日本の物流センター(大阪市此花区)で起きた火災を受け、医薬品の供給不安が生じないための対応を、医療機関や医薬品卸売り販売業社などに求める事務連絡を、都道府県や保健所を設置する市などに通知した。

火災の影響を受け、物流業務を委託している製薬各社は、医薬品の供給に遅れが生じたり出荷停止を余儀なくされたりといった状況が続いている。

厚労省医政局経済課は事務連絡にて、火災により安定供給に支障をきたす可能性がある医薬品17成分28品目を公表。

「可能な限り安定的な供給ができるようにするため、返品が生じないよう、過剰な購入は厳に控えて頂き、当面の必要量に見合う量のみの購入をお願いしたい」としている。

あゆみ製薬(東京都中央区)は、安定供給に支障をきたす可能性がある医薬品のひとつアセトアミノフェン坐薬を取り扱う。

同社は8日よりカロナール坐薬100(包装50個、200個)とカロナール坐薬200(包装50個、200個)を一時出荷停止としたと医療機関向けに通知している。

ただ「他規格およびその他の製剤につきましては、これまでと同様の供給体制を継続できることを確認しています」とし、出荷停止による混乱はないとみている。

大原薬品工業(滋賀県甲賀市)は、火災発生直後から東日本の物流センター(埼玉県久喜市)の拠点に切り替えて対応していた。だが、月間出荷数量の3~4割を占める月初と重なったこともあり、3日から配送できない状態が続いている。

加えて、現時点で67品目が欠品する見通しとなり、同社は年明けには通常通りに戻せるように、急ピッチで出荷に向けた準備を整えていた。

(イメージ)

そんななか今回、厚労省からの医療機関などへの過剰な購入を控える旨の連絡を受けた。安定供給に支障をきたす可能性がある医薬品リストの中には、同社が開発した難病であるパーキンソン病の新薬「レボドパ・カルビトパ水和物100mg、200mg」なども含まれている。

同社によると、パーキンソン病の薬は複数あるが、新薬のため、成分が類似する薬や後発医薬品は存在せず、この薬を長年飲み続けている患者も多く、代替がきかないという。

このため同社は急きょ、工場で製造する薬の順番を入れ替えて、この薬を最優先で増産して生産にあたることにした。同社の担当者は「医療機関や患者さんに迷惑がかかるわけにはいかない。安定供給が途切れないように対応したい」と話した。

■安定供給に支障をきたす可能性のある医薬品は以下の通り(厚労省ホームページより抜粋)

日立物流西日本の物流センター火災により安定供給に支障をきたす懸念のある医療用医薬品の成分規格について 

○ アセトアミノフェン座剤100mg
○ アデニン錠10mg、注射液20mg
○ アリピプラゾール口腔内崩壊錠3mg、6mg
○ イミダプリル塩酸塩錠5mg
○ オランザピン口腔内崩壊錠2.5mg
○ ジクロフェナクナトリウム37.5mg
○ シロスダゾール錠50mg、100mg
○ ゾルミトリプタン口腔内崩壊錠2.5mg
○ トレピブトン錠40mg、細粒10%
○ ニコチン貼付剤
○ ブスルファン散1%
○ プラミペキソール錠0.125mg
○ プロパフェノン塩酸塩100mg、150mg
○ ミグリトール錠25mg、50mg、75mg
○ メルカプトプリン水和物散10%
○ レボドパ・カルビトバ水和物100mg、250mg
○ レボドパ250mgカプセル、散98.5%、静注25mg、50mg

物流担当者の「守りたい」思い、今回の倉庫火災が浮き彫りにしたこと

今回の火災を受けた、各製薬会社の物流への影響を通していちばん印象的だったのは、「守る」というある製薬会社の物流担当の方の言葉だった。

代替がきかない薬や、長年処方されている薬は、類似の成分の薬が存在するとしても、現実にはなかなか急に別の薬に変えるのは難しいケースも少なくない。

患者にとっても突然の薬の変更に、混乱することも多いだろう。自身の立場に置きかえてみても、主治医から、詳しいことは分からないけれど、物流の遅れにより、医師の指示のもとに飲み続けていた薬が急に変わりますと言われたら、気が動転して理解することが難しいかもしれない。

製薬会社は物流の復旧に向けて急ピッチで生産体制をととのえてはいるものの、当事者にとってはそのような物流の目に見えない部分はなかなかうかがい知ることができず、いわばブラックボックスだ。ただ薬を必要とする当事者が思うことは、自分の薬がこれからもなくなってしまったらどうなってしまうだろう、という不安な気持ちだけだと思う。

(イメージ)

医師や看護師や薬剤師といった医療関係者も、不安な患者にたいして、どう説明していいのか、どう寄り添ったらいいのか分からないのではないか、などなどいろいろ想像してしまった。

私は今月から、物流ニュースを取材することになり、医療機関で当たり前のように投与される薬が、こんなふうにしてわれわれのもとに行き渡っていることを初めて知った。裏を返せばそれは、普段生活しているなかでは、なかなか知る機会もない。普段見えている部分は氷山の一角で、その下には物流の海が深く広がっているということなのではないかとイメージした。

今回の火災による薬の供給ストップは、製薬会社にとっては「想定していなかった初めての出来事で、現場は混乱している」とある物流担当者は言う。これまで西日本だけにあった物流拠点を、東日本の2つにしたのは、ここ10年ほどの新しい話だ。

今回の火災を受けて、製薬会社が物流拠点を東日本に移して物流が滞らないよう対応し、途絶えず医療現場に供給されていることを報じた。一方、これまでに想定していない出来事に対して、こんなに早く物流がリカバリーし、現場に混乱が生じてないことは、当たり前とはいえ使命感に支えられた取り組みだと実感した。

そこには、物流担当者の「守りたい」という思い、もっと言えば使命感のような、言葉以上に尊いものが伝わってくる。

顧客の要望に応えるのは当たり前。その当たり前のために、たくさんの人の労力や知恵や手間ひまが、わたしたちの体の毛細血管のようにはりめぐらされ、わたしたちは当たり前のように、今日も息を吸って吐いて、心臓を鼓動させて、まばたきをして生きている。

そんな目には見えずに、だけど動いているものを、丁寧に伝えていきたい。(編集部・今川友美)