話題物流倉庫における荷物の構内搬送に欠かせないフォークリフト。1920年代に米国企業が開発し、戦後は国内でも大手機械メーカーを中心に多くの企業が独自の強みを生かした新鋭機を送り出し、高度経済成長を支えた。その後も技術革新は続き、まさに物流という仕事を象徴する荷役運搬車両として、広く知られる存在だ。
しかしながら、物流現場における深刻な課題の一つとして、そのフォークリフトによる労働災害があることをご存知だろうか。厚生労働省の2020年労働災害統計などによると、特に死亡につながる労働災害に発展する起因物として、フォークリフトが上位に挙がっており、挟まれたり巻き込まれたりしたことによる圧死のほか、衝突や転落、転倒などの事例も目立つ。物流現場で活躍する働き者のフォークリフトだが、使い方を誤れば凶器になるうる危険をあわせ持つことも忘れてはならない。
▲(左から)2020年の労働災害死傷者数、労働災害死亡者数の内訳※データは厚生労働省2020年労働災害統計から「仮設物、建築物、構築物等」「物質、材料」「環境等」「その他」などを除く起因物別発生数上位の比較(出所:ツールマート、クリックで拡大)
「フォークリフトによる悲惨な労働災害をなくすために、できることはないだろうか」。フォークリフトを安全に活用することで災害を減らし、同時にさらなる業務の効率化につなげることはできないか。そこに使命感を抱いてフォークリフトの安全啓発に取り組む企業を訪ねた。
フォークリフト安全への関心
ツールマートは、2014年からフォークリフトの安全啓発に注力している。労働災害数が多いことから、現場のニーズは高いと想定していた。同年に開催された物流関連機器の見本市に各種安全機器を出展し、当時はフォークリフトの安全機器はまだ珍しいこともあって多くの関心を集めたが、同時に違和感も覚えた。関心とは裏腹に具体的な導入検討となるとやや腰が引ける雰囲気が見られたからだ。
そしてその理由を探っていくと背景にはそもそもフォークリフト自体への関心の低さが垣間見えた。「もしかするとフォークリフト自体について関心が低いのではないか。これが労働災害のなくならない理由ではないかと思い始めました」。ツールマート安全商品グループの秋元克仁さんは振り返る。
作業に不安98%、でも対策は進まず
「どこの物流現場にも欠かせないフォークリフト。それなのになぜ、こんなに関心が低いのだろう」。ツールマートのメンバーは、フォークリフトユーザーを対象にしたアンケートを実施。その結果、「フォークリフトでの作業に不安がある…98%」という現状が明らかになった。
また同時にこれだけの不安があっても「安全第一ではあるが、現場では効率重視になってしまう」「小回りがきいて便利に使えるだけに、あまり対策をしたくない」「結局、フォークリフトの対策は後回しになりがち」という切実な悩みも掴むことができた。
また利益を生み出す生産設備に対しては安全投資を優先して振り向ける一方で、あくまで現場作業の「横持ち手段」であるフォークリフトに過剰な費用や手間ひまをかけない傾向までもが浮かび上がってきた。想定がある程度正しかったと感じた。安全活動の第一歩は、フォークリフト自体に関心を持ってもらい、その現状を知ることが大切だという想いは確信に変わった。
安全レベルの向上は教育から
現状を知ってもらうには、実際の現場で起きている危険な状態を見ることが一番良いのではないか。しかしそれだけでは不十分だ。安全レベル改善の教育まで行う必要がある。忙しい現場の方々にそれができるだろうか。
悩んだ末にたどり着いた結論。それは「教育支援ツール」の商品化だった。「今まで安全対策機器の開発・販売に力を入れてきましたが、教育面、とくに現場の手間ひまをかけないツールをご提供するべきだと考えました」(秋元さん)。
安全対策機器は対処療法的に使用されることもある。それも重要な対策のひとつではあるが、安全活動の中心である人を変えていくのは「教育」である。「社会のニーズは、どうしてもその場の対策ツールに偏りがちです。機器における対策と作業者の方への教育、この両輪をまわしていかないと、実効的な安全対策が進まないと考えています」(秋元さん)
AIで危険因子を抽出、教育をして初めて災害防止に効果
「現状の危険を把握すること」
「現状をもとにした教育をすること」
「それらが手間ひまをかけずにできること」――。
これらが実現できる教育支援ツールでなくてはならない。
最初に行ったのはドライブレコーダーで録画された現場の映像を、人間の目で分析することだった。しかし、実際に手をつけてみると半月ほどの記録映像を分析するだけで1週間以上の工数がかかることが分かった。コストを考えてもそこまで時間をかけるわけにはいかない。そこで着目したのが、AI(人工知能)による危険因子の抽出だった。幸い現場映像のデータは300件以上ある。これを徹底的に使い倒しながらプログラム化に成功した。
こうした発想から生まれた新商品が、「フォークリフトAIレポーター」だ。
特徴は、▽マシン・AI・人間の3段階のチェックによる危険運転の発見▽危険運転のレポートと動画による報告▽朝礼やKY(危険予知)トレーニングで使える安全資料の提供――の3点。
解析にはツールマート製のドライブレコーダー「RDR3」を活用する。まずドライブレコーダーのGセンサーが検知した衝撃を加速度数値に換算。前後・左右・上下の3種類の加速度数値の組み合わせから、急発進・急停止・急旋回の1時間平均の発生回数を検出し、集計平均値と比較しながら安全レベルの評価を行う。
また、AI解析プログラムが録画映像から実際に危険が発生した事象や危険につながりそうな状況を自動で抽出。最後にこれらの急動作回数や危険運転映像のデータを、社内の安全解析のスペシャリストの目で危険度を判定し、想定されるリスクや最適な対策方法までレポートする仕組みだ。
https://www.toolmart.jp/product/report/images/sample01.pdf
・危険運転レポート「動画で見る危険な運転操作」サンプル
https://www.toolmart.jp/product/report/images/sample02.pdf
「『フォークリフトを使う現場に隠れている危険が可視化された』との反応が、お客様からも相次いで寄せられました。今まで知らなかった危険が明確になったことへの驚きは強かったようです」(秋元さん)。レポートや動画を利用した安全教育も効果的だと評価されている。時間や手間ひまをかけない教育の実現が可能となった。
高評価を追い風に無料モニターを募集するなど、フォークリフトAIレポーターの顧客層の裾野を広げる取り組みにも余念がない。
三方向から安全を支援するツールマートの取り組み
さらに、ツールマートが注力しているのが、安全資料の無料配信だ。フォークリフトに特化した安全資料というのは世の中になかなか無いもの。現場の安全チェックリストや関連法令一覧、KY(危険予知)トレーニング用のイラスト資料はすぐに使えると好評だ。メールマガジンやホームページで簡単に入手できるような仕組みも整えた。
またフォークリフト事故にまつわるニュースの配信も行っている。「こうした事故が全国で起きているという厳然たる事実を、あえてツールマートのウェブサイトに掲載することにより、『自分の現場ではこうした事故を決して発生させてはいけない』との強い意思を持ってもらう狙いです」(秋元さん)。
安全対策を機器、教育、資料の三方向から充実させ、あらゆる現場の安全向上を支援する体制は整いつつある。
物流インフラの持続性をも支えるツールマートの役割
EC(電子商取引)の普及に伴う消費スタイルの多様化は、新型コロナウイルス感染拡大による「巣ごもり需要」に伴い、一気に定着した。「新しい生活様式」の時代を見据えて、物流倉庫は全国で進出が相次ぐ。同時にまだ経験の浅い慣れない作業者が増えることも想定しておかなければならない。
ツールマートは、フォークリフトにかかる安全対策を教育という視点で実現しようとする取り組みを通して、持続的な物流の構築に貢献している。「安全こそが持続的な物流の秘けつ」。まさにそれを「ツールビジネス」として具現化した、画期的な活動と言えるだろう。