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物流倉庫内での事故は「フォークリフト」が最多、従業員教育も課題に

「コミュニケーション」それが事故防止の第一歩だ

2022年1月19日 (水)

話題LOGISTICS TODAY編集部は、1月11日から15日にかけて物流企業や荷主企業を中心とする読者に対して実施した、庫内作業における物流事故防止に関する実態調査(有効回答数805件、回答率27.1%)を実施した。フォークリフトの稼働に起因する事案をはじめ荷崩れや転倒などによる事故が出荷・保管エリアを中心に発生しており、その要因として従業員教育の不足を指摘する回答が際立って高いことが分かった。物流現場における事故の抑止に向けた対応策として、従業員への現状認識や安全意識を徹底するための実行的な教育機会の創出が求められている実情が浮かんだ。

回答者の内訳は、物流業が78.3%、荷主企業が13.7%、その他が8.1%。(編集部特別取材班)

EC(電子商取引)サービスが国民に普及し始めた2010年代、消費スタイルの多様化が強まりつつあった。こうした動きを決定づけたのが、2020年初頭からの新型コロナウイルス感染拡大だった。外出自粛やリモートワークの推奨による「巣ごもり需要」として宅配ニーズが高まり、物流業界はその対応に追われることになった。EC商品を扱う物流現場を中心に、年間を通して事実上の「繁忙期」が続くなど、取扱量の増大と人手不足がクローズアップされた。こうしたギリギリで現場を回さざるを得ない状況下で深刻な課題なのが、物流現場の庫内事故だ。

こうした庫内事故は、これまでも相次いで発生しており、いわゆる「キツい」職場を象徴する事象として解釈されてきた側面も否めない。ひっ迫する現場業務の効率化を推進する観点から注目を集めている物流DX(デジタルトランスフォーメーション)化は、物流事故の抑止効果も期待されているが、なかなか明確な効果が表れていないのも実情だ。

それでは、物流現場を担う事業者は、倉庫における事故の発生状況と要因、さらにはその対応策について、どう考えているのか。ここでは、現場の生の声を反映した実態調査の結果を分析する。

事故発生の危険場所が多い倉庫

まずは、倉庫内における事故発生箇所について聞いた。「出荷エリア」が全体の68.8%で最多となったほか、「保管エリア」(55.0%)▽「フォークリフトが通行するエリア」(51.7%)▽「ピッキングエリア」(51.2%)▽「トラックバース」(41.7%)、が上位を占めた。

庫内事故の要因としては、現場従事者による転倒や転落などだけでなく、フォークリフトや台車、パレットなど車両や資材との接触も重大な因子である。さらには、取り扱う荷物そのものが事故を誘発する”凶器”になるケースさえあるだろう。

多くの荷物や車両、資材、作業者、さらに最近ではロボットも動き回る、まさに目の回るような忙しさの現場で、いかに円滑にこれらのリソースを回転させるか。それが現場運営者の腕の見せ所であり、事故抑止に向けたアプローチの一つの方策であると言えるだろう。

事故起因は「フォークリフト」が最多に

倉庫内では具体的にどんな事故が発生しているのか。発生したことのある事故について尋ねたところ、回答率が最も高かったのが「フォークリフト事故」で、全体の74.4%と突出して高いことが分かった。「荷崩れ」(57.6%)▽「転倒」(45.7%)▽「荷積み時」(45.3%)▽「荷下ろし時」(42.9%)、などの回答を含めても、フォークリフトがいかに庫内事故を誘発しているかが分かる。

フォークリフトが庫内における搬送業務に欠かせない存在であることは、もはや疑う余地もないだろう。しかしながら、時速8キロから15キロくらいの速さで稼働しているのが一般的とされるフォークリフトは、作業者との軽い接触だけで大きな労働災害に直結する事例も少なくない。

ロボットの導入が進んでいるとはいえ、庫内を”高速”で駆け巡るフォークリフトの危険性を操縦者だけでなく全ての従業員に徹底することが第一歩だろう。それには、まずは事故原因を究明し再発防止につなげることだ。さらに、フォークリフトの安全性を少しでも高める技術の開発も欠かせない。ここは物流DX化の一つの方向性と言えるだろう。

根強い「従業員教育」に対する課題認識

物流倉庫内でなかなか減らない事故。担当者は、こうした事故の発生要因についてどう考えているのだろうか。その設問に対して、他を大きく引き離して最多の回答を集めたのが、「従業員教育が不十分だった」(75.4%)だった。続いて、「協力会社への注意喚起が不十分だった」(39.1%)▽「整理・整頓が不十分だった」(37.5%)▽「従業員とのコミュニケーションが不足していた」(33.4%)▽「管理者の管理が不十分だった」(31.8%)、との回答が目立った。

ここで明らかになった傾向は、事故の発生要因について「教育」「コミュニケーション」の2点に集約できるということだ。常駐する従業員だけではなく、短期のアルバイト・パートや派遣社員など多様な人材が業務に携わる物流倉庫では、物流現場での業務経験がないケースも少なくない。一方で、入社・配属時の研修や上長による教育の機会を作ろうとしても、多忙な現場では限界があるのが実情だ。それは現場コミュニケーションの不足という要素も生み出していると言えるだろう。その意味で、これら二つの要因の根源は共通しているのだ。

事故発生を抑止するために優先順位の高い課題について選択を求めた設問でも、「従業員教育」(77.3%)が同様にトップ。「整理・整頓」(36.1%)▽「管理者による管理業務の徹底」(25.2%)▽「協力会社への注意喚起」(25.0%)▽「従業員とのコミュニケーション」(22.2%)、と続き、事故発生要因と全く同じ傾向が浮かんだ。現場が求めている事故抑止策は「教育」なのだ。

事故撲滅への課題である「教育」「コミュニケーション」

庫内事故の撲滅に向けた課題に「教育」「コミュニケーション」があるようだ。それでは、事故防止に向けた取り組みや対策として実施している取り組みについて聞いた。「従業員向けの研修」(73.9%)がトップ。次いで、「整理・整頓や清掃の徹底」(67.3%)▽「フォークリフト運転時の周囲への注意喚起」(59.8%)▽「管理者研修」(44.7%)▽「労働時間管理」(40.9%)、が上位に並んだ。

全体の4分の3の回答者が、何らかの従業員研修を実施しているとの結果になった。しかしながら、従業員教育に対する課題を強く認識していることも、今回の調査で浮き彫りになっている。この二つの事象から垣間見えるのは、「研修は行われているが、内容は決して実効的ではない」という風景だ。

この傾向は、事故防止に向けて不十分だと思う取り組みや対策について聞いた設問でも浮かび上がった。こちらの回答も、トップは「従業員向けの研修」(55.0%)で過半数が回答。「管理者研修」(37.9%)▽「整理・整頓や清掃の徹底」(31.3%)▽「フォークリフト運転時の周囲への注意喚起」(23.7%)−−が上位を占めた。管理者を対象としたものを含めて、自社で実施している研修に対する事故防止効果を疑問視していることがうかがえる。

「情報共有」こそが事故防止の第一歩

調査の最後に、事故防止対策で関心のあるものについて回答を求めた。「フォークリフトの危険運転チェック」(58.6%)▽「路面や床面、壁面などへのサインの設置」(54.4%)▽「フォークリフト接近警報システム」(47.8%)▽「フォークリフト向けドライブレコーダー」(32.5%)−−との結果になった。

フォークリフトにかかる対策に関心が集まったことからも、庫内事故の最大の要因に対して効果の上がる形で対応する必要を強く求める現場の声が聞こえてきそうだ。

先述の通り、物流倉庫は、多様な経験値の従業員がそれぞれの業務に携わる現場だ。近年は単発の仕事を受ける働き方である「ギグワーク」も普及してきており、物流倉庫における繁忙期対応などで重宝するとの声もある。

こうした特性のある現場だからこそ、重要なのは「情報の共有」のあり方だ。フォークリフトをはじめとするさまざまな庫内事故防止に必要な取り組みの第一歩であろう。今回の調査でも、従業員とのコミュニケーションにかかる課題認識が高いことが分かった。従業員教育も、広い概念で捉えれば管理者と従業員との意思疎通を図る機会であるとも言えるのだ。

こうした風土が現場で希薄になればなるほど、事故の防止に向けた機運は削がれる一方であり、サプライチェーン全体に影響するような事故を誘発しかねない事態となる。庫内オペレーションを円滑に進めること、それは密接なコミュニケーションが生み出す結果であり、その帰結として事故防止に結びつく。この方程式を現場で具体的に導き出すことが、事故防止を実現する道標となる。今回の調査が示唆しているのは、まさにそこだ。

■事故防止特集‐物流施設編‐