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「UV転写印刷」技術で物流課題解決に挑むアイエヌジー

「はがれず一目で分かる」床面サインで安全な現場を

2022年1月19日 (水)

話題「火事だ!」。段ボールやパレットが積まれた一角で黄色と赤色の炎が湧き上がり、黒い煙が瞬く間に広がっていく。荷物の仕分けをしていた作業員が叫ぶ。「消化器はどこ?消火栓は?」。そこに仕分け担当の班長の怒声が畳みかける。「いや、まずは避難だ。非常口へ向かえ!」。ところが、非常口が見つからない。濃い煙で非常口を示す表示を探せないのだ。「非常口はどこだったかな」。多くの荷物が行き交い活気みなぎる物流現場は、まさに阿鼻叫喚の巷と化していた――。


▲大阪・舞洲で起きた倉庫火災の様子。トラックバースには煙が充満し、立ち入れなくなっている

物流倉庫で発生した火災。最近では、大阪市此花区で発生した日立物流西日本の倉庫火災が記憶に新しい。物流倉庫の火災は、従業員の安否はもちろん、顧客から預かった荷物を棄損してしまう可能性もある。さらには、出火した倉庫はもちろん、延焼や煙の吹き込みによる近隣施設への被害が生じることになれば、サプライチェーンへの打撃は計り知れず、社会活動への支障が長期化する可能性もある。

こうした事態を防ぐためにできることは何か。独自技術で物流現場における防災・労災対策に取り組んでいる企業が大阪市の老舗の問屋街・船場にある。印刷関連機器を中心とした技術開発を手がけるアイエヌジー(大阪市中央区)。独自開発の特殊な印刷技術を活用することで、物流現場における安全性を高めようと意気込む現場を訪ねた。

「できそうでできなかった」特殊印刷の研究開発を手掛けるベンチャー企業が訴求する物流向けビジネスとは

船場の問屋街の風情を今に伝える「船場センタービル」。江戸時代の町人文化の趣はすっかり影を潜めてしまったものの、繊維製品をはじめとする店舗や事務所が集まる。その一角にあるアイエヌジーの事務所で迎えてくれたのは、営業担当の西山剛司さんだ。

▲「物流施設内のルールを誰にでも分かるように示す『サイン』を開発しています」と語る、営業担当の西山剛司さん

それにしても、特殊印刷の研究開発を手掛けるベンチャー企業がなぜ、物流現場の安全を守る取り組みに注力しているのか。「物流施設内のルールを誰にでも分かるように示す『サイン』を開発しています」(西山さん)。施設の床に「一旦停止」「徐行」「ドア開閉注意」などの表示を施して作業員の注意を促すものだ。物流倉庫だけでなく、鉄道の駅やテーマパークなどさまざまな場所で目にしたことがあるだろう。

▲物流倉庫では必ず見かける作業員に注意を促すサイン

しかし、こうした床面表示は、既にどこの物流施設にもあるのではないか。アイエヌジーの技術はどこが違うのか。疑問をぶつけると、西山さんからはこんな答えが返ってきた。「物流現場で働くすべての従業員に必要な『決まりごと』『ルール』を確実に誤解なく伝える。アイエヌジーの特殊印刷技術ならば、それを実現できるということです」

ポイントは「追従性」と「視認性」

もう少し具体的に説明しよう。物流施設を訪問した際、床面にシールやペンキで表示された文字が、足跡やフォークリフトのタイヤ痕などが重なって判読できなくなっていたり、素材が傷んで剥がれていたりしているさまを目にしたことはないだろうか。物流現場は、作業員はもちろんフォークリフトや台車、最近ではロボットまでもが頻繁に行き交う。床面にシールで貼られた「危険」の文字が薄汚れて読めない、あるいは消火栓の前にモノを置かないことを示す「X印」のペンキの線が薄れているなどの事例は、ほぼすべての物流施設で発生していると言ってよい。

▲フォークリフトがいくら往復してもサインは剝がれず文字がくっきりと見える

「こうしたシールやテープ、ペンキなどでルールを示しても、人や車両の往来が激しい物流現場では注意を促す役割を十分に果たせません」と西山さんは強調する。そこに課題を見出したアイエヌジーが発案したのが、自社の特許商品であるUV転写印刷技術を活用した床面サインだ。「特徴は『フォークリフトが繰り返し通過しても剥がれない高い追従性』と『誰でも一目で注意事項を理解できる視認性』の2点です」(西山さん)

物流現場ニーズに合致した「UV転写印刷」

アイエヌジーのUV転写印刷技術は、UVインクジェットプリンターの基本性能に転写印刷技術を融合させ、できそうでできなかった床面への印刷を可能にしている。独自開発の転写シート(スマートペーパー)に、デザインや文字を印刷し、床面にそのインクだけを定着させるため、シールのように剥がれる心配がない。一般的な転写シートのように、熱や水などを使わず、押圧のみで転写する特殊転写印刷技術となっている。

「さらにシールと同様に床などに貼って剥がす作業だけで施工できるため、ペンキのように長時間の工事がいらず現場作業を止める必要もありません」(西山さん)。既に大手物流企業での実績もあり、フォークリフトの通過による汚れが発生しても、サインの表面にはコーティングを施しているため、拭き取れば美しい姿に戻る利点も評価されているという。

アイエヌジーがこうしたUV転写印刷によるビジネス展開を開始したのは、2016年のことだ。最初は、雑貨をはじめとする各種アイテムへのロゴマークやキャラクターの印刷を担っていた。その実績を買われて、大手テーマパークや百貨店の床面へのサイン表示ビジネスに参入。しかし、新型コロナウイルス感染拡大でこうした商業施設が軒並み休館や営業縮小に追い込まれた。そこで着目したのが、製造業や物流業の現場施設だったというわけだ。

▲特殊転写印刷技術でブロック塀に描いたアート

「ある大手電機メーカーの工場で、指差し呼称の徹底を促すサインを提案したところ、効果が上がったと好評でした。それを受けて、物流施設の床面サインにも対象を広げていったのです」。21年6月には「関西物流展」にも初参加し、物流企業を対象としたビジネスの本格参入を印象づけた。

サインの実効性を左右する「デザイン性」

こうした物流企業への取り組みでアイエヌジーが訴求したいのは、その施工性だけではない。そのデザイン性がポイントだと西山さんは指摘する。


ここに、フォークリフトの格納位置を示した、2つの床面表示デザイン案がある。左側がシールタイプ、右側はアイエヌジーが素案を作成しある物流企業に提案したサインデザイン案だ。フォークリフト作業員になったつもりで比較してみてほしい。格納する場合どちらが正確に置けるかは明白だ。

「確かに、従来の表示方法でも最終的にはここが格納位置であることを理解できるかもしれません。しかし、現場作業員の立場で考えるならば、一目で分かる表示にしないと、事故抑止・業務の効率化・整理整頓にはつながらないと考えたわけです」(西山さん)。現場にアイエヌジー案をテスト導入したところ、以前は反対方向や斜めに 格納していた荷役者が、サインのイラストにきっちりと合わせて止めるようになったというから驚きだ。まさに人間の心理を突いた「作戦勝ち」といったところだ。

▲火災時に役立つ床面サインが普及することが必要だとアイエヌジーは主張する

しかし、西山さんらアイエヌジーのメンバーが、こうした床面サインを特に普及させる必要があると考えるのが、非常時の対応を示すサインだ。火災時の非常口や避難経路、消火設備の案内は、煙や炎が天井に向かって広がる傾向を考えると、床面に表示するのが最適であるという。火災訓練で、避難時には低い姿勢で動くよう指導されるのは、まさにそれが理由だ。

床面サイン普及は物流途絶を回避するための「使命」だ

アイエヌジーが物流企業向けに注力する、床面サインを普及させる取り組み。西山さんは、社会に不可欠なインフラを担う物流業務を途絶させないための活動として、さらに分かりやすくデザイン性の高い意匠のサインを生み出すことを「使命」と感じている。

「今回の大阪市此花区の倉庫火災は、サプライチェーンの断絶が社会に及ぼす影響の大きさを改めて物流企業や荷主企業に突きつけたのではないでしょうか。火災による被害を最小限にすることも、アイエヌジーの技術で可能かもしれません」。西山さんの言葉は、物流企業が直面する持続可能な社会の実現に向けた活動のヒントを、業界に携わるすべての人に投げかけている。そうは言えないだろうか。

▲様々なリスクを想定してつくられたサインの数々

荷役現場用「見える化サイン」
■注意喚起表示用サイン説明動画
https://www.youtube.com/watch?v=JTuIvxKogkg
■事例紹介
https://ing-global.net/logistics-warehouse/
お問い合わせ
株式会社アイエヌジー
大阪市中央区船場中央3-2-8 船場センタービル8号館305号
メールアドレス:lt0120@ing-global.net
TEL:06-6232-8112/FAX:050-3737-6748

■事故防止特集‐物流施設編‐