話題原材料の調達から製造、在庫管理、流通、販売、消費者。食品メーカーが商品を消費者に届ける過程で不可欠な機能、それが「物流」だ。いわゆる「ものづくり」と物流を一体のサプライチェーンとして捉えて、全体をいかに最適化していくか。その発想が、ビジネスの成長の行方を左右するポイントとなる。メーカー企業に「物流は経営戦略そのものだ」との認識が広がり始めているのは、まさにそのためだ。
食品メーカーの物流業務の要となるのが、商品を出荷して流通経路に乗せるためにトラックなどの車両を手配する配車業務だ。車両とドライバーをコントロールして商品の納入を最適化・効率化する、いわば配送センターの「頭脳」だ。こうした配車業務支援ビジネスを展開して業界の注目を集めているのが、インターネット関連サービスを展開するラクスル(東京都品川区)の物流業者向け配車管理・求荷求車システム「ハコベルコネクト」だ。
ここでは、ハコベルコネクトを採用して物流改革を推進している食品メーカーのMizkan(ミツカン、愛知県半田市)の活動事例を2回に分けて紹介。ラクスルが提供する配車業務支援サービスの強みに迫る。
Mizkan全社の業務効率アップに向けた「配送業務の標準化」
江戸時代中期の1804年に酒造業として創業したMizkanは、酢をはじめとする調味料や納豆を主力商品とするMizkan Holdings(ミツカンホールディングス)の事業子会社だ。「やがて、いのちに変わるもの。」のコーポレートメッセージを展開。圧倒的なブランド力で各商品が高い市場占有率(シェア)を有しており、日本の食卓を支えている。
こうしたMizkanの商品を全国に届ける業務を担うのが、国内5か所に置いている配送センターだ。栃木(栃木県栃木市)▽群馬(群馬県館林市)▽美濃加茂(岐阜県美濃加茂市)▽大阪(大阪府枚方市)▽三木(兵庫県三木市)――の5工場に配送センターを併設。北海道と東北、中国・四国、九州の各地方における商品供給については、他の食品メーカーとの共同配送を実施している。
「Mizkanは、物流業務のさらなる効率化を推進することで、最適な商品配送の実現を目指しています。その手段の一つとして検討を進めているのが、『配送業務の標準化』です」。Mizkan生産物流本部物流部の緒方一厳部長は、配送センターの組織改革による業務効率化とコスト削減を推進することにより、物流業務全体の最適化を加速していく方針を明かす。
「Mizkan物流改革」で配送連絡業務の改善に着手
Mizkanの物流改革は、「物流コスト圧縮」「配送センター組織機能の改善」「輸送方法の最適化」の3本柱で推進している。事業全体の利益にも影響してくる物流費の圧縮は、生産性向上の観点からも不可欠な取り組みだ。北海道などにおける共同配送をはじめ、車両の大型化による拠点内配送の便数の削減、外部営業倉庫の効率的な賃借による使用料の引き下げなど、多様な施策を講じている。さらに、輸送ルートの最適化や商品の特性に応じた配送経路や車両の最適な選択など、運び方についても知恵を絞りながら改善の道を探っている。
これらの施策とともに物流改革の柱を成すのが、配送センターにおける組織変更だ。「各センターには、商品輸送を委託している運送会社にその日の出荷量をメールやファクスで伝える、配車連絡担当者を置いています。その業務の効率化に着目したわけです」(緒方氏)
その具体的なイメージは、こうだ。まずは、配送連絡業務のシステム化を進める。それに合わせて、美濃加茂におけるこの業務を半田市の本社に移管。さらに、大阪と三木の配送センターにおける配送連絡業務を大阪に一本化する。積み周り業務のある栃木と群馬の配送センターについては、当面は現場のままとするが、将来的には配送連絡業務を全て1か所に集約する方針を掲げる。
配送連絡業務の集約化の前提になるのが、運送会社との情報共有のシステム化だ。その構築に携わったのが、ラクスルの「ハコベルコネクト」だった。
「コスト削減」と「生産性向上」を目指したハコベルコネクトの導入
ハコベルコネクトは、一般貨物の荷主と運送会社をつなぐ物流プラットフォームだ。ウェブアプリケーション上で自社の車両と協力会社の車両を管理し、配車や請求管理を行う機能と、ハコベル配車センターへの配車依頼を行う機能を備えているのが特徴だ。
Mizkanとラクスルは、配送連絡業務のシステム化にかかる検討が始まる以前から、求荷求車サービスの導入を契機に関係が生まれていた。Mizkanの配車連絡業務における課題について相談を受けたラクスルがハコベルコネクトを提案したのが、Mizkanの配送センターにかかる業務改革の第一歩となった。
「Mizkan様からは、物流業務における課題として『コストダウン』『生産性向上』を図りながら輸送品質を維持していく考えを提示していただきました。具体的には、配車連絡業務の自動化と効率化を進める施策について打診を受け、その対応をともに進めていくことになりました」。ラクスル執行役員・ハコベル事業本部責任者の狭間健志氏は、Mizkanとの共同作業で進めたハコベルコネクトによる配車連絡業務のデジタル化プロジェクトのキックオフについて、こう振り返る。
ハコベルコネクト導入を決意させた「リモート業務」への対応
そもそも、Mizkanが配車連絡業務のデジタル化に注力する動機は何だったのか。物流改革によるコスト削減と業務効率化が大命題であるのはもちろんだが、緒方氏には特にこだわった点があった。「業務の遠隔作業を可能にできないか。そこに注力したいと考えたのです。新型コロナウイルスの感染拡大でリモートワークの動きが社会全体に求められるようになりました。それでも、配車連絡業務は在宅勤務などのスタイルには適していなかったのです」
その理由は、Mizkanの担当者と運送会社との主要な連絡手段が、紙とファクスだったからだ。しかも、十数社ある委託先の運送会社ごとに仕様が異なるケースもあるなど、とてもリモートワークでこなせる業務スタイルではなかったのだ。
緒方氏がハコベルコネクトの導入で改善したいポイントも、まさにその点だった。「緒方氏は『標準化』というフレーズを使って、業務の見える化を推進したいとの強い意思を我々に訴えていたのが印象的でした。そこで、Mizkan様と運送会社が情報を共有できるプラットフォームの整備を進めることで、自動化や見える化、さらにはリモートワークに対応できるシステム作りを進めることで一致したのです」(狭間氏)
ハコベルコネクトによるMizkanの配車連絡業務のシステム化は、まずは美濃加茂の物流センターで試験的に導入し、運用やそれによる効果を実証することに決まった。2021年3月に試験運用が始まり、3か月後にはMizkan美濃加茂物流センターでのリモート運用もスタートした。
システム導入の成功は「全体最適」を意識した業務改善方針にある
Mizkanの配送連絡業務におけるデジタル化は、美濃加茂の物流センターにおける業務を大きく変えた。配送連絡業務がスムーズに進むようになったのはもちろん、人員のフレキシブルな充当やセンター内の業務全体の円滑化など、いわゆる相乗効果は大きいという。狭間氏はこう指摘する。「営業畑を長く経験された緒方氏の描く配送連絡業務の将来像が、経営や事業全体への貢献を視野に入れた『全体最適』を意識したものであったことが、ハコベルコネクトの導入による業務改善に大きく寄与しているのではないでしょうか」
緒方氏は、配送連絡業務の標準化の道筋ができたことが、ハコベルコネクト導入の最大の成果と考えている。他の配送センターにおける業務改善を進める次のステップに移行できる手応えをしっかりと感じている。
<続編を読む>
※2回目は、美濃加茂の物流センターでのハコベルコネクトの導入をめぐる現場の取り組みを紹介する。