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主体的に「安全」を考えられる知恵を生み出せ

漫画で学ぶ「フォークリフトの安全」、ぜひ活用を 

2022年3月1日 (火)

(クリックでダウンロード、出所:厚生労働省)

環境・CSR倉庫や工場などといった物流現場で活躍しているフォークリフトによる事故が後を絶たない。厚生労働省のデータによると、休業4日間以上の死傷災害が2021年(22年1月速報値)で1884件と高止まりが続いている。同省は、フォークリフトを使用する事業所で働く外国人も含めた労働者に安全や衛生の基本を学んでもらう漫画教材「まんがでわかる フォークリフトの安全衛生」を作成。活用を呼びかけている。

漫画教材は、物流現場でも増えている外国人労働者にも適切な安全衛生教育が実施されるように、日本語のほか、英語、中国語、ベトナム語、タガログ語(フィリピン)、クメール語(カンボジア)、インドネシア語、タイ語などといった計14言語に対応している。

同省によると、フォークリフトの講習を受けた人が扱っていても、労災が起きている。2019年の「労働者死傷病報告」による災害発生状況によると、フォークリフトの労災による死傷者数の原因は「激突され(激突を含む)」が816人と最も多く、「はさまれ・巻き込まれ」が726人、「墜落・転落」が424人、「飛来・落下」が107人、「転倒」が102人と続いている。

漫画は、こうした実際に起きた災害事例に、物流現場でフォークリフトを操作する登場人物が出くわしてしまうことで、ルールの順守や安全衛生の大切さを身をもって理解していくという、リアリティーのあるストーリーとなっている。

たとえば、死傷者数でもっとも多い労災の原因である、周囲の作業者が運転中のフォークリフトに激突される「激突され(激突を含む)」のストーリーでは、フォークリフトの運転手から見えづらい場所が多く存在する倉庫を現場に発生する事故を紹介。

後ろを向きながらバックすることが苦手で、「まぁ、バックミラーを見て運転すればいいか」「よし!誰もいないな」と油断しながら運転する登場人物の男性と、「どうしよう、準備に時間をとられて搬入に間に合わないよ」と目の前の仕事に気を取られる女性が、「今はフォークリフトが動いていないし、大丈夫でしょ」とフォークリフト以外は立ち入り禁止エリアを走っているときだった。

ぎりぎりのところで最悪の事態はまぬかれたことで、男性側は「バックするときは、バックミラーだけに頼らない」「周囲の状況を目視する」「確認するときは、指差し呼称をする」といった基本ルールを、女性側は「フォークリフトは小回りがきくうえに、今回のように突然動き出すこともある」といった、運転手はもちろん、周りの作業者もフォークリフトがどう動くかを意識することが大切であることを、身をもって学んでいく。

漫画教材は、このような実際に起きた典型的な労災のケーススタディーを、登場人物たちが当事者意識を持って展開していくことで、一人ひとりの意識とルールを守ることの大切さを、主体的に感じてもらえるように作られている。

労災を学ぶということ――受け身ではない、真の安全衛生教育を願って

みずほリサーチ&テクノロジーズ
貴志孝洋さん

漫画教材を企画したみずほリサーチ&テクノロジーズ(東京都千代田区)の貴志孝洋さんに、教材作成の経緯やポイント、教材に込められた安全衛生への思いを聞いた。(編集部・今川友美)

外国人も含めた労働者すべてに、気軽に手にしてほしかった

教材は、2019年度の厚生労働省委託事業「安全管理支援事業(安全衛生教育教材の作成)」から作成を開始した。当初は、改正入管法の施行に基づき、特定14業種をはじめ外国人労働者の増加が見込まれるなか、外国人労働者の労災が増加傾向にあることから一層の安全衛生教育に資する教材作成を目的に開始した。

現在は、外国人労働者に限らず、日本人労働者も含め、多くの労働者への教育に資するよう進めている。

外国人労働者にとって、日本で作成された教材を理解することは困難であることに加え、日本人労働者にも言えることだが、安全衛生教育は受け身なる傾向にあることから、手に取りやすく、飽きにくい教材とすることを狙い、漫画を活用した教材作成を進めることとした。

ルールのみを教える「know-how(ノウハウ)教育」からのシフト

教材は、物流業界だけでなく、さまざまな業種向けに作成しているが、業種ごとに典型的な労災を漫画化して労災を通じて安全や衛生について学ぶことを意識している。

労災の発生要因として、安全衛生教育の不徹底やルール不順守、理解不十分などが挙げられているが、ルールのみ教えるといった教育「know-how教育」が散見されている。

労災は通常ルールを逸脱した場合に発生することがほどんどだが、言いかえれば、労災を学ぶということは、ルールだけではなく、なぜルールを守らないといけない/破ってはいけないのか(why)、ルールを守らないと/破ってしまうと何が起こるのか(what)を同時に学ぶコンテンツだと考え、労災を漫画にした。

つまり、「know-how教育」から「know-why教育」「know-what教育」へのシフトを企図したものだ。

自分自身が痛いだけではない、自分の将来や周りも巻き込む労災の恐ろしさを伝えたい

教材を用いて、雇い入れ時の教育のイントロダクションなどに用いて安全や衛生に意識を向けてもらう、あるいはベテランの再教育(再確認)などに活用し安全や衛生の重要性を再認識していただきたい。

また、漫画にも表現しているが、事故に遭うと自分自身が痛い思いをするだけではなく、ともに働く仲間や家族にも心配をかけてしまううえに、場合によっては命を落とす、障害が残って将来設計が大きくかわるおそれもあるため、「身体」、「家族(仲間)」、「生活(収入など)」に大きく影響を与えてしまうこともあることを認識していただきたいと考えている。