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働く人が主人公になる社会を応援する「GOOD ACTIONアワード」

受賞した日東物流、物流業界の「働き方」に切り込む

2022年3月2日 (水)

認証・表彰働く人が主人公になるACTION(アクション)を応援する「GOOD(グッド)ACTIONアワード」の表彰式が2日行われた。全国の計9企業が受賞し、物流業界からは日東物流(千葉県四街道市)が入賞を果たした。長時間労働が常態化しやすく「働き方改革」が構造的に難しいとされる業界で異例とも言える受賞に、菅原拓也代表取締役は「アワードを通じて、われわれ物流業界の現状を多くの人に知っていただけたことが本当にうれしい」と、長年にわたる取り組みの成果を振り返った。

▲日東物流・菅原拓也代表取締役

GOOD ACTIONアワードは、生き生きと働ける場を創出する可能性を秘めた企業や団体、自治体などの組織の取り組みを表彰する、リクルート主催のプロジェクトだ。

新型コロナウイルス禍を通して働き方が大きく変わり、多様性を尊重する職場へと変化が求められるなかで、「現場から自然に生まれた取り組み」や「チャレンジ性に富んだ取り組み」、「会社の収益には直結していないが、盛り上がっている取り組み」など、モチベーション向上や職場環境づくりに悩んでいる企業のヒントとなる事例を表彰。2014年に始まり8回目となる今回は、よりよい社内風土の醸成に注力した結果として従業員のエンゲージメント向上につながった取り組みなど、「大賞」1件、「入賞」7件、「Cheer Up(チアアップ)賞」1件の計9件が選出された。

日東物流は、2013年にドライバーが起こした重大事故をきっかけに、慢性的なドライバー不足や長時間労働の常態化、高齢化の加速など、課題が山積する物流業界では縁遠いともされていた「健康経営」と「コンプライアンス」を軸にした抜本的な改革に長年取り組んできた姿勢が評価された。

2代目となる菅原代表取締役は、社内や取引先などの強い反発を受けながらも、課題の解決に向けた取引先との条件交渉を粘り強く時間をかけて続けた。その結果、単価向上や不採算ルートの見直し、無駄な業務の削減を実現。収益構造も大きく改善しただけでなく、労働時間の圧縮や作業効率アップにも成功するなど、ドライバーが無理なく働き健康を維持できる体制を整えた。

審査員の一人で、働き方改革の第一人者としても知られる学習院大経済学部経営学科教授・一橋大学名誉教授の守島基博氏は、「働き方改革を企業レベルのものにした。自分ごととして、自らの企業の問題として真剣にとらえて、課題解決だけでなく、職場の意識改革に導いた。社会になくてはならないエッセンシャルサービスを行う物流業界で、それを行なったことは極めて優れている」と評価ポイントを説明した。

▲表彰式の様子

賞状とトロフィーを授与された菅原代表取締役は、「まだまだネガティブなイメージの多い業界だが、少しでもポジティブなイメージに変えられるように一生懸命がんばっていきたい」とコメント。会場からは大きな拍手がわき起こった。

「雇う」「雇われる」という凝り固まった関係性——。いま見直すことこそが、組織に風穴を開けるヒントだ

GOOD ACTIONアワードの表彰式を取材して実感したのは、日東物流以外の受賞企業からも、課題を抱える企業だけでなく働く人みずからも未来にむけたスモールステップを踏みながら、少しずつ周囲の人の共感を巻き込んでいったり、当たり前を疑ってみたりしながら共創への光へと進んで行こうとする、従来にはない新しくユニークな姿勢だ。

たとえば、京都市の飲食店の仕事とプライベートを充実させる“ホワイト”な取り組みは、長時間労働や、仕事が増えても給与が上がらないといった、似たような構造がある物流業界の働き方を見直すためのヒントにもなっていて、非常に興味深かった。

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混雑すればするほど忙しくなるという、ともすれば終わりの見えない労働は、従業員のやる気を失ってしまうことにもなりかねない。そんななかで、早く売り切ればそれだけ早く帰れるようになる「1日100食で完売制度」を導入。「数」という明確な数値目標で区切ることで、仕込み・調理する量の一定化や残業ゼロ、出勤・退勤時間の自由選択制度の創設にもつなげた。

このほか、過度な奉仕を求められがちな教員の幸福度を上げる、学校教員の新たな形を模索する東京都内の学校の取り組みも紹介。教員全体の44%が副業・兼業を行い、執筆やYouTuber(ユーチューバー)、大学院進学など、教員以外のさまざまな「自分」の存在を尊重しダイバーシティーにあふれる教員組織へと成長していく過程は、「学校」だからといってこれが正解という一つの形にとらわれる必要などないことに気づかせてくれる。

神戸市の製薬会社では、女性の20%が偏頭痛を持っているにもかかわらず、言い出せず我慢して働いているのではないかという問題意識から、有志メンバーで「ヘンヅツウブ」を立ち上げた。執行役員に直談判をし、偏頭痛がある人もない人にも理解を促すことで周囲を巻き込んでいった結果、偏頭痛持ちだけでなく、あらゆる課題を抱える「見えない多様性」に本気で切り込み、誰もが心理的安全性を持って働ける職場の実現への大きな一歩になった。

(イメージ)

受賞企業に共通しているのは、働く個人と企業とのフラットな関係性だ。リクルートによると、業種かかわらず「人材不足」「働き手の多様化」「生活と仕事の垣根の消滅」といったように、いま、働く環境はかつてない変化を遂げている。

企業と働く個人の関係も、従来の「雇う」「雇われる」という上下関係のなかで生まれる働き方では、ともに成長していくことは、もはや難しくなっている。

受賞企業のラインナップは、「企業=働く個人の声に寄り添う」「働く個人=企業に自らの働き方を申し出る」というフラットな関係を生み出すことにより、働く個人も主人公として、企業とシナジーを産むことができる時代の到来を感じさせられる。

私たちは、働くためだけに生きているわけではない。

当たり前だが、働く人々が人間である限り、それぞれの背景や考えを持って働いている。働くことへの比重や価値観も人それぞれだ。私たちはいま一度、「雇う」「雇われる」という従来の上下関係のもとに凝り固まった考え方を見つめ直してもいいのではないか。働き方にまつわるさまざまな課題に風穴を開けるヒントが、そこにあるかもしれない。(編集部・今川友美)