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「現在地」と将来のあり方を検証

運転者就労改善へ期待、トラック予約受付システム

2022年4月19日 (火)

話題トラックドライバーの荷待ち時間削減や輸配送業務の負担軽減を支援するシステムとして注目を集めている「トラック予約受付システム」。ドライバーの就労環境の改善に加えて、物流施設の業務効率化にも貢献する、まさに物流DX(デジタルトランスフォーメーション)化の「代表格」として、物流業界への浸透を強めている。ここでは、トラック予約受付システムの現在地と、今後のあるべき方向性について、実情を踏まえて提言する。

2タイプで進化を続けるトラック予約受付システム

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物流施設の入り口に連なる大型トラックの長い列。年末や年度末の「風物詩」だったこの光景も、近年の消費スタイルの多様化や新型コロナウイルス感染拡大に伴う宅配ニーズの高まりを受けた物量増により、もはや「年中行事」の様相が強まっている。運転席には、疲れた表情を浮かべながらスマートフォンで連絡を取るトラックドライバーの姿が――。

トラック予約受付システムは、物流施設への到着時刻の予約や自動受付などの機能を活用することで、こうしたドライバーの負担軽減につなげるサービスだ。IT関連システム開発企業をはじめとする、スタートアップを含めた幅広い領域の企業が参入。物流DX化を象徴する先進施策として、物流事業者だけでなく荷主企業に導入が進んでいる。

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まさに物流DX化の旗手ともいうべきトラック予約受付システム。2010年代後半の初期導入期から5年になろうとしている今、大きく二つのタイプのシステムが市場を主導する傾向が見えてきた。

一つが、汎用システムをベースとした「プラットフォーム型」のサービス提供スタイルだ。Hacobu(東京都港区)がその代表格と言える。もう一つが、べースとするシステムと顧客の持つ機能を連携させることで課題解決につなげる「個別開発型」で、主にITシステム開発企業が得意とする手法である。

各社が独自の強みを発揮し、一定の顧客層を抱えるまでに成長してきたトラック予約受付システム市場。ここでは、両タイプの強みと差別化ポイントを分析してみることとする。

汎用的なシステムをベースに「認識のぶれ」回避

まずはプラットフォーム型。さまざまな属性の顧客が求めるトラック予約受付機能の分析を経て開発した汎用的なシステムを前提として、その設定を変更することにより個別のニーズに対応していく手法だ。最大のメリットは、複数の企業で連携して活用する際に生じる「認識のぶれ」の回避にある。

例えば予約時に車種を入力する際、ドライバーごとに「2トン」「中型」「トラック」などと不ぞろいなルールのままで記録されると、データの最適化や分析に支障が出てしまう。結果としてシステムの機能が十分に発揮されず、現場業務の効率化を実現できない事態を引き起こす可能性さえあるのだ。

▲Hacobu取締役COO SaaS事業本部長の坂田優氏

ネットワークが本来の機能を発揮するための基本は、あくまでシステムが統一されていることだ。その重要性に着目しているHacobuはトラック予約受付システムの開発においても、この原則を決して崩すことはなかった。「汎用システムを『幹』と位置付けて、それぞれの拠点で繰り広げられるオペレーションに最適な形に『枝』の部分で設定できる仕様を提案する。それがHacobuのトラック予約受付システムの強みと考えています」(Hacobuの坂田優・取締役COO SaaS事業本部長)

こうした仕様のシステムを提供する企業は、自動車や食品など多様な業種のサプライチェーンに対応できる機能を強みにしているのが特徴だ。そのためには、汎用的な構成のシステムにしておかねばならない。業務の共用化は物流DX化の基本的な発想でもある。将来的なシステムの拡張についても、こうした汎用システムであれば対応しやすい。いわば顧客ニーズの「最大公約数」を抽出してベースとなる幹を作り、枝分かれの部分で個別の事情に対応する開発思想だ。

既存システムとの「スムーズな連携」で使いやすく

こうした汎用的なトラック予約受付システムの普及が進む一方で、顧客の課題認識やその解決ニーズに即して、顧客の導入しているシステムと連携するシステムを提供する方法でシェアを伸ばしている企業も存在する。

ここで個別開発型と定義しているこの方式は、ベースとなるSaaS(必要な機能を必要な分だけサービスとして利用できるようにした、インターネット経由で利用できるソフトウェア)などで構成したシステムと、顧客のWMS(倉庫管理システム)やTMS(輸配送管理システム)などを円滑に連携させることで、顧客に使いやすいサービスを提供できるのが強みだ。

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顧客が導入しているシステムを生かしながらトラック予約受付システムの機能を連動して活用できることで、新規システム投入時に起きがちなストレスを減らせる。複数のシステムを導入することで起きがちな重複作業の発生を、インターフェースの適切な運用で解消することができるのもメリットだ。

例えば、WMSとトラック予約受付システムの両方に同じ情報を入力する必要がある場合、ステータスの連携ができていれば、相互に情報を反映しあうことで作業を一本化できる。顧客のシステムと連動したサービス提供のポイントは、まさにその連携にあるのだ。

BIPROGY(ビプロジー、旧・日本ユニシス)は、この方式でトラック予約受付システムを提供する企業の一つだ。WMSなどのシステムとトラック予約受付システムの連携による利点について「現場作業者やシステム操作者の負担軽減とともに、連携によるデータ活用の広がりを期待できる」(BIPROGYインダストリーサービス第二事業部の佐藤亮介氏)という。

現場の効率化と負担軽減につながるシステム開発が不可欠

さらに、他の管理システムを水平展開する形でトラック予約受付システム市場に参入する新興IT企業も出現。シンプルさを強みに新システムの提供を加速するなど、トラック予約受付システムを取り巻く環境は、新たな局面を迎えている。

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こうした動きが広がるなかで浮上している課題が、基盤となるシステムの共通化だ。各社でSaaSなどのベースを共通の仕様とすることができれば、その先の顧客対応をより効率的に進めることができるのではないだろうか。顧客が既に活用するシステムとの連携や、サービス提供者による新たな機能の追加などで、顧客の事情に合わせたトラック予約受付サービスを提供するイメージだ。

その参考になるのが、運輸デジタルビジネス協議会(TDBC)の取り組みだ。さまざまなデバイスに対応できる車両動態管理プラットフォームを提供するための事業会社を設立。既存の車載器や動態管理サービスを活⽤するとともに、特定の車載器やシステムに依存せず動態情報を横断的に可視化することを目的としている。

トラック予約受付システムについても、こうした共通のプラットフォームがあれば、サービス提供企業は顧客の「課題解決に向けた「付加価値」の部分で差別化を図る取り組みにより注力できる。結果として、さらに顧客満足度の高いサービスの開発・提供につなげることができるだろう。

働き方改革関連法によってドライバーの労働時間に上限が設定されることで生じる「物流の2024年問題」への対応などを見据えて、物流業界ではドライバーの就労環境を見直す動きが広がっている。トラック予約受付システムは、こうした取り組みを支援する手段として期待されている。それゆえに、より使いやすく導入現場の業務効率化と負担軽減に最も適したサービスの提供に向けた工夫が欠かせない。

■トラック予約受付システム特集