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陸運に変動料金制、ascendの実験を内閣府が採択

2022年8月4日 (木)

サービス・商品物流分野のシステム開発やコンサルタントを手がけるスタートアップ企業、ascend(アセンド、東京都新宿区)は4日、価格を需要動向に応じて変動させる仕組み「ダイナミックプライシング」をトラック運送料金に導入するための実証実験を計画し、それが内閣府の事業に採択されたと発表した。今の固定的な標準料金に代えて、個別の運送案件ごとに適切な料金の範囲を自動的に示すシステムを構築する。運送事業者の荷主に対する交渉力を高めることにつながるという。

ダイナミックプライシング(変動料金制)とは、需要と供給のバランスに応じてサービスの価格を変動させるもの。例えば、ホテルの宿泊料金や格安航空会社の料金で導入が進んでおり、近年は小売業界や美容院などでも実用化されている。

(クリックで拡大、出所:ascend)

同社の発表によると、運送業界では一般的に、2020年に国土交通省が告示した「標準運賃(目安としての適正運賃)」の表に基づいて荷主との運賃交渉が行われている。地域ブロックごとに、走行距離と車種を基に運賃が規定されているシンプルな対応表となっている。

これに対し、同社が開発を目指すダイナミックプライシングエンジンは、荷物の内容や季節性なども加味し、より実態に即した運賃を打ち出すことができる。

内閣府の事業は、国家プロジェクトである戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の一環で、「第2期スマート物流サービス・物流のビッグデータ利活用の研究開発」と呼ばれる事業だ。その事業の一つの構成要素として、2022年度に「運送業界におけるダイナミックプライシングエンジンの構築」が認められ、同社が実証実験の担い手に採択された。年度末を期限に仕組みの開発を行う。その実効性が確認されれば、23年度以降、実用化への検討作業が進められる見通しだ。

(イメージ)

実証実験では、実在する数種類の求荷求車システムのデータを元に、荷物の発送・到着の地域、荷物の種類など、運送サービスの内容に応じて、AI(人工知能)が価格幅を算出するエンジンを開発する。その際、下限値が運送コストを下回らないようにし、上限値は適切な利益水準となるよう設定する。運送業の実態に即した価格提示を幅を持った形で提示し、価格交渉の材料を得る仕掛けを作る。

働き方改革法によりトラックドライバーの時間外労働規制が強化されることによる『物流の2024年問題』で、運送事業者の売り上げが低下する恐れがあり、赤字経営に苦しむ運送会社をいかに構造転換させるかが、国の政策の焦点になっているという。

▲ascendの日下瑞貴社長

同社の日下瑞貴社長は、運送業界では中小零細企業が多く、IT投資が十分に行われていないことを挙げ、「事業者が持つ情報の品質や量が不足し、荷主への価格交渉力が低くなっている」と問題点を指摘する。将来、運送料金のダイナミックプライシングが普及すれば、コストを割るような安値受注はなくなり、「運送事業者と荷主が適切な関係の下、データに基づいたしっかりした運賃交渉ができるようになる」と強調している。

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