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手探りで前進する「リアル店」、Yahoo!マートの挑戦

2022年8月29日 (月)

記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は即配の「Yahoo!マート」にリアル店、都内に登場(8月19日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)

ECEコマース(電子商取引)やQコマース(クイックコマース、即時配達)によるリアル店舗は定着し、拡大するのだろうか――。そうした思いを胸に、LOGISTICS TODAYはこのほど、Qコマースの「Yahoo!マート」が6月に開店したリアル店舗を現地取材した。地域の要望を受けた担当社員たちが自分たちの頭で考え、地理的特性にも助けられながら、手探りで一歩一歩前進している状況が分かった。

▲Yahoo!マートの来店型店舗、代々木上原店(東京都渋谷区)

新宿副都心に近い東京都渋谷区上原。幹線道路から住宅街に少し入り、戸建て住宅が立ち並ぶ一角に、Yahoo!マートの来店型店舗1号店「代々木上原店」はあった。もとはコンビニエンスストアだった平屋の建物で、壁の少ないガラス張りの構造や乗用車数台が止まれる駐車場などコンビニの外観を残し、横長の看板もロゴ以外はやはりコンビニ風だ。「日用品・食品を最短15分でお届け!」と説明する赤いポスターが、即配拠点であることをようやく物語っている。

国内Qコマース初の来店型

Yahoo!マートは、Zホールディングスグループのヤフー(東京都千代田区)、アスクル(同江東区)、出前館(同渋谷区)の3社の共同事業。商品の在庫管理はアスクルが、配達は出前館が担う。現在、都内14区と千葉県市川市で配送拠点(ダークストア)を計20店置き、周辺地域での即配を展開する。

▲スタッフ(右)から商品を受け取るバイク配達員

代々木上原店は2021年10月にダークストアとしてスタート。複数の庫内作業員が商品のピッキングや梱包を行い、出前館の配達員が商品を受け取り、バイクや自転車で配達に向かう。来店型店舗(リアル店舗)を兼ねる形でリニューアルしたのは、ことし6月。国内のQコマース事業者として初めて来店型店舗の運営を始めた。

「買い物の空白地帯」に商機

店舗を案内してくれたアスクルの村田恵亮・クイックコマース事業部長によると、同店は周囲を住宅街に囲まれ、即配の注文は順調に伸びているという。と同時に「ここで商品を買えないのですか」「ここで売ってくれませんか」と、訪ねて来る消費者が相次いでいた。大都市の真ん中にありながら、スーパーがやや遠い「買い物の空白地帯」だったのだ。

▲弁当などの棚を紹介するアスクルの村田部長

そうした消費者の「オフラインニーズ」を受け、「我々は地域密着型。挑戦してみる価値はある」「消費者に新たな体験をしていただけるのでは」という素直な声が、3月ごろから社員の間で出るようになったという。Yahoo!マートの対面販売は、1月に大久保店(同新宿区)で実験的に行っていた。元コンビニの代々木上原店なら施設改造の必要もほとんどなく、リアル店舗化のハードルは低い。とんとん拍子に話が進み、6月に実現した。

店内に入ると、加工食品や飲料、日配品、弁当類、衛生用品などの日用品が並び、コンビニにとても似た風景だ。ダークストアっぽさを感じるのは、シンプルでやや大ぶりな棚ぐらいか。来店客は2、3人おり、数人のスタッフ(庫内作業員兼店員)が邪魔にならないようにしながら商品の陳列やピッキング、梱包を行っていた。開店は9時、閉店は21時。スタッフは常時4、5人が稼働しているという。

カギはセルフレジ

一般的にEC(電子商取引)など通信販売は実店舗を持たないことでコストを抑えている。リアル店舗戦略のコスト負担はいかほどかと尋ねたところ、村田部長は「当店の場合、大きな追加コストはかかっていない」と明快に語った。

▲低コスト運営を実現したセルフレジ

一つの理由は「セルフレジ」(無人レジ)だ。レジ係を置かず、現金決済もせず、電子マネーとコード決済に限ることで、人員増をしていないという。庫内作業員が店員を兼務するが、「接客はほとんどなく、負担増にならない」(村田部長)。セルフレジは通常のコンビニと同じ場所にあり、来店客は慣れた手つきで電子マネーを機械にかざして決済し、帰って行った。

「Yahoo!マート事業ではドライバーの物流費が大きなウエイトを占める。店舗の固定費を抑えるため大きな改装工事はしなかった」という。そもそもダークストアもリアル店舗と同じような商品陳列をしており、来店客にわかりやすくする陳列変更やポスター掲示はわずかで済んだ。カゴとカートも無地のピッキング用品を、そのまま顧客との兼用にした(混雑時は来店客が優先使用)。

相乗効果を高める

EC事業者のリアル店舗戦略は、近年、米アマゾンなども展開しているが、撤退するケースもあり、必ずしも順風満帆とはいかないようだ。Yahoo!マートの場合、他の事例を真似したわけではなく、地域住民の要望を受けて担当者が自分たちの頭で考え、手探りで開業し、運営している。代々木上原店に続き、ことし8月に大久保店も正式に来店型店舗となった。

ヤフーの本社ビル内(東京都千代田区)にある社員向けリアル店を含めて現在3店舗。売り上げの比率はQコマースが圧倒的に大きいが、このところ、来店客も増えてきているという。主婦、学生、ビジネスマンなど層も幅広い。「4店目はいつ」と質問すると、村田部長は「今はまだ、検証の段階」と答えた。オンラインとオフラインの相乗効果を高めるにはどうするべきか。「来店客の反応や購買実績を丁寧に分析したい。今は先を急がず、足元を固める時期なのです」。村田部長は落ち着いた様子でこう語った。(編集部・東直人)