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Mobility Technologiesが提供するAI事故削減サービス、現場での運転改善策の提案も

「現場視点」で事故削減支援、DRIVE CHART

2022年9月28日 (水)

話題関東地方に拠点を置く運送会社の営業所。配送ドライバーから運行管理者に一本の電話が入った。「バックした時に電柱と接触してしまいました」。今月に入って、こうした後退時の事故はすでに3件目。いずれのドライバーも、過去にこうした事故歴が残っていた。運行管理者は頭を抱える。「安全教育と言っても、ドライバーの認識を変えるのは難しい。こうした事故を未然に防ぐ方法はないものか」--。

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物流業界のあらゆる現場で活躍するドライバー。EC(電子商取引)サービスの普及や新型コロナウイルス感染拡大に伴う宅配需要の高まりも契機として、現場で取り扱う荷物の量や種類が急増し、少子高齢化による人手不足も重なって業務の負担はこれまでになく高まっている。一方で配達時間の指定や輸送中の状態管理の徹底など、より高い輸送品質が求められるのも実情だ。

とはいえ、社会に不可欠なインフラである物流を担うドライバーにとって、絶対に忘れてはならないのが安全運転の意識であり、事故につながる危険運転の撲滅だ。ここに、AI(人工知能)が危険シーンを検知することで運転行動を分析して、運転時における危険因子の解消を支援するサービスを展開する企業がある。タクシーアプリ「GO」など、日本のモビリティ産業をアップデートする様々なITサービスを提供するMobility Technologies(モビリティテクノロジーズ、MoT)だ。

「ドラレコの動画データを効率よく確認したい」ニーズが端緒に

MoTが2019年に提供を始めた、AIを活用した事故削減サービス「DRIVE CHART」(ドライブチャート)。モビリティ事業戦略を策定するうえで、「交通安全」の促進につながる取り組みを模索するなかで生まれた。

▲Mobility Technologiesの川上裕幸・執行役員スマートドライビング事業部長(左)とCSグループメンバーの堀磨美氏

安全運転を支援するシステムとして、すでに普及が進んでいたのがドライブレコーダー(ドラレコ)だった。ドライバーを撮影した動画から事故を誘発する事象を抽出するなど、事故の削減に一定の効果はあったものの、輸送などの現場では課題も少なくなかった。

▲デモンストレーションを交えて盛況だった国際物流総合展のブース

「『動画データを確認する作業は非常に大きな負担だ』との声が、現場から多く挙がったのです」。DRIVE CHARTの開発に携わった、MoT執行役員スマートドライビング事業部長の川上裕幸氏は、輸送事業者などの現場に携わるドライバーや管理者の悩みを耳にした経験を振り返る。

ドラレコの動画を見れば、ドライバーの運転の癖や事故につながりかねない動作もある程度、抽出できる。しかし、営業所に所属するドライバー全員の動画を毎日チェックするのは、確かに気の遠くなるような作業だ。「こうした作業をAIが担うことができれば、現場の手間を減らしながら事故の削減にもつなげられるシステムを作れるのではないか。そこで誕生したのがDRIVE CHARTだったのです」(川上氏)

「日本の交通事情に特化した事故発生状況の把握」から始まったサービス開発

着想から丸2年を経て生まれたDRIVE CHART。川上氏を中心とした開発メンバーがこだわったポイントは「日本の交通事情に特化した事故削減サービスの提供」だった。

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「内閣府の報告によると、日本の交通死亡事故では歩行者や自転車が犠牲となるケースが多いということがわかります。現場で活用いただくためには、そのような日本の交通事情に合わせた開発が必要だと考えました」(川上氏)

開発メンバーは現場で集めた事故につながる運転行動事例などの情報も分析しながら、DRIVE CHARTの機能に反映していった。現在では、AIが検知する8つの危険シーンを設定。他の事故削減サービスとは一線を画した、DRIVE CHARTの特徴的な機能となった。

8つの「危険シーン」をAIが検知、事故因子を動画とスコアで抽出

「一時不停止」「脇見」「車間距離不足」「速度超過」「急後退」「急加速」「急減速」「急ハンドル」の8つの危険シーンについて、それぞれ閾値(しきいち、感覚や反応を起こさせるのに必要な最小の強度や量)を設定。例えば、車間距離不足の危険シーンにかかる検知であれば、AIが動画から距離を推定して前を走る車の位置に到達する時間が0.9秒を下回った場合に「危険」と判断する。なお、それぞれの閾値は導入先で一定の範囲内で調整することも可能だという。

なかでも、荷物の輸送現場における要望を反映した機能なのが「急後退」だ。トラックなどの荷物輸送現場では、車両の後退時の事故が多発している。一般的に駐車していたトラックを後退させるには、一度前進して停止してからバック操作を行う。その「停止」時の安全確認を怠ると、急な後退で事故を誘発しかねない事態となるのだ。軽微な物損事故が多くを占めるとされるが、重大な事故につながったケースもあり、輸送事業者にはこうした後退を原則として認めていないところもあるほどだ。

「トラック輸送事業者からは、『一時不停止』にかかる検知のニーズも多いですね。DRIVE CHARTでは、GPS(全地球測位システム)などを活用して『速度ゼロ』をAIが検知するなどの仕組みを採用しています」(川上氏)

MoTはこうした検知結果を、動画とスコアで提供する。「8項目のAIによる検知で事故の危険がある運転行為だと判断した根拠となる動画とともにスコアを表示し、ドライバーの運転特性を可視化します」(川上氏)

プロドライバーと言えども、やはりそこは人間。必ず癖や弱点があるものだ。とはいえ、現場担当者によるドラレコ動画の視聴だけでは、こうした危険因子を見つけ出すのは至難の業だという。膨大なデータから傾向を学習し続けているAIならではのサービスと言えるだろう。

提供開始から3年で契約車両は4万台超、導入先での成果も

こうして提供開始から丸3年が経過したDRIVE CHARTは、契約車両が4万台を突破するなど、着実に市場展開を進めている。

▲DRIVE CHARTのサービス面での強みを語る低温の川村信幸社長

MoTはサービス開始3周年を記念し、効果的な事故削減に取り組む企業を表彰する「Safety Driving Award 2022」を実施。走行距離あたりのリスク運転数が最も少ない企業を表彰する「最小リスク運転部門」に選ばれた低温物流の低温(奈良県大和郡山市)は、DRIVE CHARTの導入により事故件数が3分の1以下に減少した。保有台数40台で年間の保険料が600万円下がるなど、大きなコスト削減にもつながった。

代表取締役社長の川村信幸氏は、DRIVE CHARTの導入を決めた理由について「他社のツールと比較検討した結果、画面のわかりやすさや検知項目の多さ、ドライバー自身で専用ページを閲覧できるなどサービス面の魅力が大きいと感じました」と語る。

AI検知データに基づく現場での運転改善提案、それもDRIVE CHARTの強みだ

こうしてドラレコの概念をも変えようとしているDRIVE CHART。徹底したユーザーや市場の調査に基づく「かゆい所に手が届く」(川上氏)機能を、いかに最適な形で現場の事故削減につなげていくか。MoTはサービスの提供から運用面まで一貫してサポートする体制を構築している。その役割を果たすのが、「カスタマーサクセス(CS)グループ」だ。

▲直感的な操作性が強みであるDRIVE CHART

CSグループの担う業務は幅広い。操作方法など基本的なサービスの説明はもちろんのこと、AIにより検出された動画を活用し、具体的に現場で事故を削減するための方策を提案するところまで踏み込んだサポートを展開しているのだ。

「DRIVE CHARTは、今まで人間の目では見つけられなかった危険な運転を見つけることができますが、それは管理者にとっても、ドライバーにとっても『今まで見たことのないデータ』です。事故の削減を実現するためにはそれをどのように活用すればいいのか、私たちが持っているノウハウをお伝えすることが大切だと考えています」。CSグループが存在する意義をこう語るのは、メンバーの堀磨美氏だ。

例えば、ドライバーの指導を行う際には、一度に検出された全ての動画について指導するのではなく、優先順位をつけて改善に取り組む必要があるという。「『全ての動画を見てください』と管理者に丸投げしても、事故削減にはなかなかつながりません。それぞれの会社に合った効果的な指導方法を管理者とともに練り上げていきたいと考えています」(堀氏)

ハードとソフトの両面で、利用する輸送現場の実情をしっかりと反映したサービス展開。それがMoTのDRIVE CHARTの最大の強みなのだろう。MoTのこうした取り組みの原点にあるのは、テクノロジーの力で輸送現場から事故をなくしたいとの「使命感」と、その実現に向けた「現場ニーズの把握」だ。これは、こうした現場の問題を解決する救世主として注目される物流DX(デジタルトランスフォーメーション)の「あるべき姿」を示唆していると言えるだろう。

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