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新聞と商品の配達“二刀流”

「読売新聞×SBS」、共同宅配が1都3県で存在感

2023年3月16日 (木)

ロジスティクスSBSホールディングス(HD)グループのSBS即配サポート(東京都江東区)と、読売新聞社が共同運営する宅配サービス「YCお届け便」が好調だ。サービス開始から2年余りで、東京都内から周辺の3県にまで配送圏を拡大。SBSHDが荷主への営業を担って案件を獲得し、物流センターでの仕分けを行い、読売新聞の販売店(読売センター、略称YC)が強みを生かして正確かつ効率的な宅配を実現している。EC(電子商取引)サービスの浸透により多頻度・小口配送への需要が高まるなか、販売店が「新聞と商品の配達」の“二刀流”で社会インフラの担い手として存在感を高めている。

▲YCお届け便向けに導入した3輪バイク

SBSと読売新聞社が取り組むYCお届け便は、2019年6月に東京都杉並区で試験的にスタートした。20年に東京都23区全域、21年8月には島しょ部を除く都内全域をカバー。22年に入ると、神奈川、千葉、埼玉と1都3県にエリアを広げ、都市部での事業領域を着実に広げている。配達手段は、普段使用している新聞配達用のバイクや自転車をメインにしているが、宅配専用に3輪バイクや軽貨物自動車を追加導入し輸送力をアップさせている販売店もある。小回りが効くという機動力に加えて、地域を知り尽くした配達員がほぼ1年中働いているという特徴を発揮し、小型サイズ(3辺サイズ合計が140センチ以下、20キロ以下)で配達頻度が多いEC商品を中心に宅配を行っている。

EC小型荷物の配達ミス撲滅へ随所に工夫

23区内で1日当たり2000〜3000件、1か月で9万個の配送実績を記録し、その後も配送エリアの拡大とともに右肩上がりで成長を続けているYCお届け便。荷主、顧客の双方から支持されている大きな理由が、新聞配達業で培った配達スキルを宅配業に昇華させた「高いサービス品質」だ。YC三鷹(東京都武蔵野市)では、販売店営業所内の一角を改装し、先付け荷物の仕分け倉庫と保管スペースを確保。新聞配達員32人のうち7人が宅配の仕事に従事しているが、荷物に付箋を貼ることで正しい指定日時に「誰がいつ配達するのか」を一目で分かるように運用フローを構築し、早配や遅配が発生しないよう改善を積み重ねている。

安定した宅配業務を遂行するためには現場の基盤整備も欠かせない。読売新聞社ではYCお届け便の事業開始に当たり、拠点間輸送における破損事故を防ぐため「二段カゴ車」を取り入れたほか、複数の小型荷物を同梱できる「折り畳みコンテナ」を独自に開発。店舗や地域の事情に即して最適な宅配業務を行えるよう配達員の労働環境整備を支援するなど各店と二人三脚となり、輸送品質アップに向けた取り組みに余念がない。


▲(左から)新聞販売店の一角を改装した宅配荷物専用の保管スペース、独自開発した折り畳みコンテナ

新聞配達との違いは「動線」、正確・迅速さ求め改善

ほぼ毎日、新聞を欠かさず配り続けてきた実績がある新聞販売店だが、YCお届け便という新たなチャレンジは決して順風満帆だったわけではなかった。商品配送は新聞配達と異なり「配達の動線」がないためだ。YC三鷹の山田健太所長は「新聞は毎朝夕と配る時間やルートがほぼ固定されているが、宅配は時間も届け先も違う。それ故に、誤配が起こる原因になり得るというリスクを感じていた」とYCお届け便をスタートした当初を振り返る。

こうしたリスクを回避する手立てとして、YC三鷹では配達員がスマートフォンへの地図アプリ導入を考案。「いかに最短経路で荷物を確実に届けるか」という観点から宅配業務の仕組み化を図った。スマホ上に配達先までの最適なルートがリアルタイムに示されるので、誤配がほとんど発生せず効率よく荷物を届けられるように。アプリの不具合や突然スマホの電源が切れるといった万が一の事態にも備え、紙の地図も持参してもらいリスク管理にも万全の体制を敷いている。

当初は日や時期によって変動する荷量や再配達などへの対応に四苦八苦したが、いまでは1日当たり3輪バイクの後部などに小型商品(80×100サイズ)を最大20個まで積載し、手際よく各家庭などに届けている。こうした改善活動の成果もあり、現在はミスがほぼなくなり、さらに業務効率が向上したことで「届け先から『安心だ』『また注文したい』といった嬉しい声が店舗に届き始めた。お客さんと顔を合わせる機会が少ない新聞配達員にとって一味違う働きがいや喜びで、従業員のモチベーションにも好影響を与えている」(山田所長)と手応えを感じている。


▲(左から)3輪バイクの後部に取り付けれた荷台、小物類を収納できるようカスタマイズされている

輸送品質向上へ人材育成、現場の知恵も横展開

輸送の質を向上させるため、YCお届け便では人材育成にも抜かりはない。読売新聞社は、新聞配達業向け研修機関「読売販売経営学院」のノウハウや人材を活用し、配達スタッフへのマナーや心構え、身だしなみ、宅配スキルに関する教育に注力している。販売店の現場レベルでも、配達前に伝票を先に半分剥がしておき、顧客にすぐ渡せるようにしたり、荷物の受け渡し時に本人確認を徹底したりするといった改善策を実施。スタッフ同士で随時スキルやノウハウを共有するほか、良い事例は読売新聞社グループ全体でも横展開し、全社を挙げて宅配品質の向上を追求している。

経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」によると、日本国内の21年の消費者向け電子商取引の市場規模は20.7兆円で、前年比7.35%増加と拡大。なかでも物販系の伸長率は8.61%増となるなど、巣ごもり消費をきっかけに浸透したECサービスは増加の一途をたどる。

(イメージ)

「新聞離れ」が叫ばれて久しいが、読売新聞社は全国で6600店舗、スタッフ6万人が働いている。その一人一人が「雨の日も風の日も必ず新聞を丁寧に届けてきた」という自負心がある。自らの地域や地元に愛着を持って仕事と向き合う彼らにとって、「正確・地域・安心」の三拍子そろったYCお届け便の進化はまだまだ続きそうだ。

◆SBS社長、次は関西進出も視野に

読売新聞社とタッグを組むSBSホールディングスは、YCお届け便の将来的な進出エリア拡大について、大阪府を中心とした関西圏を視野に入れている。

「BtoCの宅配は読売新聞社と組んで順調に推移し、いろいろなところから引き合いをもらっている。新聞販売店は地域密着なので何度も配達に行ける。従業員教育も行き届いているのが支持されている理由だ」。2月10日に開催されたSBSホールディングスの決算説明会で、鎌田正彦社長はYCお届け便の好調ぶりについて自信をのぞかせた。

その上で「まずは首都圏を固めていくが、大都市圏であれば大阪は可能性があると思う」と次の一手について言及。読売新聞社の販売網が強い地域を軸に、SBS自前での軽自動車による配送網と連動したBtoC領域の拡充に意欲を示した。

YCお届け便、宅配スタッフの基本給アップ

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