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白ナンバーアルコール検知厳格化、要点と対策は

2023年11月29日 (水)

話題12月1日から、業務における車両運転時のアルコールチェックに関する改正道路交通法が施行され、チェックの厳格化が始まる。これによって、白ナンバーも含めた業務用車両の運転前後の、アルコール検知器を使ったチェックが義務化される。今回の改正法施工にあたり、どういった事項が新たに「義務化」されるか、または「厳格化」されるか、施行直前のこのタイミングで改めて確認していこう。

改正法施行に至った経緯

改正法の中身に触れる前に、アルコールチェックの厳格化に至った経緯について簡単にさらっておく。事の発端は、2021年6月に千葉県八街市で起こった自家用商用車のトラックが下校中の小学生5人をはね、うち2人が死亡したという重大事故だった。当時すでに営業用の「緑ナンバー」の車両運転時のアルコールチェックは義務化されていたが、業務において自家用の「白ナンバー」車を運転する際のアルコールチェックは義務化されていなかった。この事故では、事故を起こしたドライバーの呼気から基準値を超えるアルコールが検出されたことから、規制強化に向けた動きが活発化した。

▲千葉県八街市の交通事故現場で献花する当時の菅義偉首相(手前、出所:首相官邸)

千葉県は政府に対し、自家用か営業用かに関わらず、車両を持つ事業者に対し乗務前のアルコール検査を義務付けるよう要望。警察庁も迅速に対応を図り、22年4月1日からは白ナンバー車であっても、運転前後の目視による酒気帯び確認と、アルコールチェック記録の1年間の保存が義務化された。

また、同年10月1日には安全運転管理者選任義務違反の罰則が強化され、安全運転管理者や副安全運転管理者が適切に選任されていない場合や、安全運転管理者の解任命令に従わない場合に科される罰金が、従来の5万円以下から50万円以下に引き上げれられた。加えて、安全運転管理者が適切な管理業務を行うための機材整備について、公安委員会から事業者に対し是正措置を取ることを命ずることがあり、これに違反した場合も50万円以下の罰金とするなど、アルコールチェック義務化への強制力を強めている。

その後、今回の改正法施行まで間が空いたが、これは当初22年10月1日の施行予定だったものが、世界的な半導体不足によってアルコール検知器の製造が追いつかなくなり、施行時期を遅らせざるを得なかったからだ。アルコール検知器メーカーにとっても、急な需要対応で質の高い製品を供給できない状況に陥り、検知器の普及や、新たに義務化の対象となる事業者の体制整備という側面においても、一定の準備期間が与えられる状況となっていた。ことし8月、改めて12月1日から改正法が施行されることが警察庁から発表された。

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アルコールチェックは目視と検知器の両方が必要に

では、今回の改正法施行で実際にどのようなことが変わるのか。変更ポイントや、さまざまな状況での対応策を確認する。

今回の法改正では業務用の白ナンバー車両も対象となるが、正確にいえば、白ナンバー車を5台以上、または11人以上が乗れる車両を1台でも保有している事業所が対象となる。なお、バイクは0.5台として換算する。この条件に当てはまる事業所は、安全運転管理者を選任し、アルコールチェックを実施しなくてはならない。

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変更ポイントの1つ目は、白ナンバー車両であっても、業務で使う際には運転前後にアルコールチェックが必要となること。社用車、営業車を運転する際もチェックをしなければならない。チェックのタイミングは運転の直前、あるいは直後にその都度行うのではなく、運転を含む業務開始前や終了後に行えばよい。

2つ目は、これまで遠隔地を除いては安全運転管理者が目視で酒気帯びの有無を確認すればよかったのに対し、通常の場合は目視での確認とアルコール検知器を使った確認の両方が必要となる。直行直帰の場合や対面での確認が困難な場合には、運転者に携帯型アルコール検知器を持たせるなどし、安全運転管理者がモニター越しにドライバーの顔色や声の調子、検知器での測定結果を確認。映像がない場合でも、安全運転管理者が携帯電話や無線などでドライバーと直接対話して声の調子などを確認する必要があり、検知器の測定結果を報告させることが求められる。

3つ目は、ドライバーが所属する事業所と別の事業所をまたいで運転業務を行う際の取り決め。所属とは別の事業所で運転を開始、あるいは終了する場合には、別の事業所の安全運転管理者が立ち会った上で、その安全運転管理者が管理するアルコール検知器を使用、測定結果を本来所属する事業所の安全運転管理者へ電話など直接の対話で報告することで、所属事業所でのアルコール検知を行ったものとして取り扱う。

また、安全運転管理者が不在などで確認が困難である場合は、副安全運転管理者か安全運転管理者の補助者などに酒気帯び確認を委託できる。ただし、補助者がドライバーの酒気帯びが確認した場合には、速やかに安全運転管理者に報告し、その後の対応について指示を受けるか、安全運転管理者自身からドライバーに対して運転中止の指示をしてもらうなど、確実な安全運転を促す対応が求められる。

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有効なアルコール検知器の常備も義務化

ここまでは改正の内容と、さまざまな条件下における対応策を説明したが、その他の留意事項も見ていこう。

適切なアルコールチェックを遂行するため、アルコール検知器を常時有効に保持することが、新たに求められる。十分な性能を発揮できるものを常に事業所に置いておかなければならず、遠隔地で業務を開始、終了するドライバーには携行させなければならない。検知器は、正常に作動するかなどを常に確認しておく必要があるが、使用寿命を過ぎていたら、新しいものを補充する必要がある。

例えば、寿命が「1年間または1000回の使用」となっているものについては、使用回数が1000回以下であれば1年間は使用できる状態といえる。逆に、使用開始から1年経っていないものでも、100人で毎日発着時に2回ずつ使用していれば、5日で寿命がくることになるので買い換えが必要という計算になる。ドライバーを多く抱える拠点では、ランニングコストと照らし合わせ、高額であっても長寿命な機種を購入する方が経済的な場合もあるだろう。

また、アルコールチェックの記録義務だが、確認者名、運転者、車両番号など車両を識別できる記号や番号、確認日時、確認方法(対面でない場合は具体的な方法)、酒気帯びの有無、指示事項――などを記録しなければならず、記録は1年間保存しておく必要がある。記録に関する形式は指定されていないため、紙を使ったアナログ形式も、データ保存によるデジタル形式でも対応可能だが、ドライバー個々の情報を1年間保存しなければならないことを考えれば、管理をデジタル化すれば業務の効率化につながるだろう。

どんなアルコール検知器を使えばいいのか?

使用するアルコール検知器については「呼気中のアルコールを検知し、その有無またはその濃度を警告音、警告灯、数値などにより示す機能を有する検知器」と定められている。細かな性能や機種に定めはないので、市販されているアルコール検知器であれば使用が可能である。市販のアルコール検知器はアルコールの検出方式によってそれぞれ特徴がある。

(出所:東海電子)

電気化学方式(燃料電池方式)は、酸化金属の表面にガス(アルコール)を吸着させる検出方法。ほかのガスに邪魔されずに検出が行える。また、結露に強いため呼気で測るアルコールチェックには向いている面もあるが、寿命が短いため定期的なメンテナンスが必要とされる。センサー表面に直接ガスが触れ、化学反応が起こることで検出する方式のため、センサーの劣化が早い。

半導体方式は、センサー表面に吸着されている酵素とガスが反応することで起こる電気的な変化を利用した方式で、半導体と同様のプロセスで量産できるため比較的安価なのが特徴。摂取している食品や飲み薬などによる誤判定が起こることがある。電気化学方式同様センサー表面に直接ガスが触れる検出方式なので、やや短寿命。

NDIR方式(非分散型赤外線吸収法式)は、アルコールガスに吸収される性質のある特定の波長の赤外線を呼気に当て、どのくらい赤外線が吸収されたかを測定することによってアルコール濃度を検出する方式。赤外線を通すための筐体や大きな電力が必要なため、機材がやや大きくなるため、据え置きでの使用に向く。起動が速く、次の測定までも待機時間が必要ないため、大人数で強要するようなケースでも迅速な計測が可能だ。また、センサー自体が化学反応を起こさない方式のため長寿命。アメリカでは安全のためのドライバーアルコール検知システム(DADSS)のプログラムに採用されている。

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アルコール検知器は常に正常に作動するものを常備している必要があるが、どの程度の価格、性能のものを選ぶのがベストなのかは、事業規模などによっても異なってくるだろう。遠隔地までの輸送が必要であれば拠点据え置きだけではなく、ドライバーが携行できる機種も必要になってくる。大規模な拠点であれば大人数を迅速に計測できた方がよいだろう。

この記事では触れなかったが、計測したデータを管理者に送って管理することができるデジタルソリューションなども登場している。ランニングコストを考慮するとやや高額な長寿命機種を選んだ方が安く上がるという場合もあるかもしれない。事業所ごとの事情に合わせたベストな機種を導入すべきだろう。