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多彩な視点で切る24年問題、対策会議ハイライト

2024年1月1日 (月)

話題社会的議論を呼んでいる「2024年問題」が差し迫る昨年12月14、15の両日、LOGISTICS TODAYは大型企画「物流2024年問題対策会議」を、オンライン配信とリアル会場を併用して開催した。業界に関連する官民などバリエーション豊かな顔ぶれが一堂に介したセミナーは、両日で合計6時間超に及ぶ開催時間となった。議論は、業界が問題に立ち向かうための多くの示唆をもたらした。一部のゲストの議論をハイライトとして、振り返る。

両日で計15人ほどが演壇に立ったセミナーを、コーディネーター役として取りまとめたのが、赤澤裕介・本誌編集長。

イベントの冒頭、赤澤編集長は、24年問題について「さまざまな切り口から、さまざまな変化をこの物流というものに対して、及ぼしていく。だが、実際にはどう対応すべきかわからないという声を、我々の取材活動を通じてよく聞く」と現状認識を提示。その上で、「できるだけ幅広い視点から24年問題に対して、現時点で取るべき対策について議論を深めていきたい」と、セミナーの狙いと意義を紹介した。

持続可能性をデータから問う

セミナーの皮切り役となったのが、日本ロジスティクスシステム協会(JILS)の北條英・総合研究所長だ。議論を先導するための示唆深いデータを提供した。

▲日本ロジスティクスシステム協会(JILS)の北條英・総合研究所長

JILSは、ロジスティクスや物流サプライチェーンマネジメント(SCM)に関心がある企業などを中心に組織された団体。荷主や物流企業、コンサルタントに自治体なども加わる。

「道路貨物運送業は持続可能か──トラックドライバーの悲鳴に対応し始めた荷主企業、改善進まぬ道路貨物運送業の経営環境」がテーマ。議論を沸き起こすような演題で講演した。

北條氏は、JILSが毎年、会員企業に行っているアンケート調査の22年度の結果を紹介した。ロジスティクスやSCMを推進するための課題について尋ねた(3つまで回答)ところ、「物流コストの適正化(改善)」が最も多く(54.9%)、「ドライバー不足/24年問題への対応」(30.7%)、「物流・ロジスティクス分野におけるDXへの対応」(27.7%)と続いた。

前回は6番目に多かった「ドライバー不足/24年問題への対応」が2番目に浮上したものの、問題が目前に控えていても、トップとは25ポイント近く差がつく結果だった。

また、会社の売上高に占める物流コストの割合を示す売上高物流コスト比率にも言及。96年に6.58%の最高値を記録して以降、下落を続けて、5%を切る状態が続いた。だが、データの直近3年(20〜22年)は5%を上回る結果となっている。

うち20年、21年は、物流事業者からの値上げ要請などを理由として、前年から上昇してきたが、22年は5.31%で、21年の5.7%から下落した。比率の分母である売上高の回復が効果を示したとみられるというが、全体的な上昇傾向は続いたままだという。

さらに、このデータのトレンドを数学的手法で調べたところ、この傾向が続けば、30年度の売上高物流コスト比率は7.06%に達すると推定される結果が出たという。北條氏は「これを産業界が許容できるかどうか。それが課題になってくる」と話した。

上がる理由として、荷主が取引先の物流企業から値上げ要請を受けているためだ。アンケート調査の回答企業のうち、76%にあたる125社が、値上げ要請について「あった」と回答した。北條氏は「4社に3社が要請を受けて、そのうちほぼほぼ95%は要請に応じた」と説明した。

さらに、北條氏は、荷主側だけでない別のデータを示す。

厚労省がまとめた産業別月間労働時間の推移では、道路貨物運送業は10〜20年の間で、常に最長だった。20年時点では、全産業に比べて、1.3倍に相当する月間175.8時間だった。

そのため、道路貨物運送業の時間あたり収入は直近の20年度では、1742円/時で全産業の74%で、道路旅客運送業などを下回る低水準だった。

企業の収益性を図る経常損益率を車両規模別で見たデータにも言及。15年度には大きな差は見られなかったが、以降、差が広がり、最近では車両規模と経常損益率の間に明確な相関が見られるようになったという。20年度には、101台以上の事業者の経常損益率が1.9%だったのに対し、10台以下の事業者はマイナス0.6%で、差は2.5ポイントにまで広がったという。

北條氏は「荷主が払ったと言っている輸送費は、1次受けや2次受けといった上の方の企業には回っているが、さらに下にいけばいくほど細っている結果だと見える」と解説した。

貨物運送業の半分は車両規模が10両以下の小規模事業者。北條氏は、トラック業界の多重下請け構造に言及し、1次下請けの運賃が元の90%だとすると、4次下請けでは66%になるという数字を示した。

価格転嫁に関する中小企業庁の調査も提示した。22年9月の時点で、卸売業など27業種のうち、価格交渉に応じた業種としては最下位になった。つまり、最も価格交渉に応じてもらえない業種だったという。コスト増に対する転嫁率も、23年3月で平均47.6%だったのに対し、トラック運送業は19.4%で4割ほどだった。

中小企業庁が23年6月に発表した賃上げ率と価格転嫁率の関係を示すグラフなどを提示し、「価格転嫁率が高ければ高いほど、賃上げ率が高くなる。正の相関がある」と北條氏。

こうしたデータから、北條氏は「道路貨物運送業は運賃や料金の価格交渉も価格転嫁も進んでいない。真の荷主にも、元請けに対してもそうだ」と指摘。さらに、「道路貨物運送業は経済的に持続可能かどうか。物流の24年問題として問題提起したい」と締め括った。

主役たちの目に映る24年問題

24年問題の主役はトラックドライバーたちだ。初日の最後には、企画の多面性を象徴するようなゲストたちが登壇して、花を飾った。

ユーチューブ発信している人気トラックドライバーや、そうしたドライバーを会社として支援するユニークな運送会社、フジホールディングス(奈良市)だ。

まずは、フジホールディングスの川上泰生・執行役員マーケティング部長が、赤澤編集長と対談した。

同社グループは、大型トラック2600台超を保有する。大型トラックを中心に幹線輸送をメインに展開している。

▲(左から)赤澤裕介・本誌編集長、トラックユーチューバーのちゃんけ氏、かなちゃん氏、フジHD執行役員マーケティング部長の川上泰生氏

24年問題に絡んで、ユーチューバー支援をしている理由について、「少子化が進んだり、いろんな職業が選べるようになってきている。将来を考えると、若いドライバーを採用していくためには、視覚で訴えていくものを活用していくことが大事だ。その中でも特にユーチューブは、大きな素材だと思っている」と話した。

「副業として認める社の方針があり、その副業の一つとしてユーチューブがある。本業に支障のないなかでユーチューブを発信していくことは、会社としては宣伝効果となり、ありがたい。本人たちとしてもやりがいのある仕事ができる」と話した。

所属するユーチューバーは11人。ユーチューブのフォロワー数は延べ75万人に及び、総再生回数は5億回を超える。トップユーチューバークラスの水準だ。採用活動へのプラス効果は、入社する従業員の9割以上は何らかの形で、同社ユーチューバーの視聴者だったという。

川上氏は「今は就職や、会社選びのポイントは、自然な形で職場、仕事の風景が見られることだ。そういう動画が求められている。その点で、弊社のユーチューバーが発信する動画はフィットしている」と話す。

労務管理などの難しさはないか問われると、川上氏は「入社時にSNS発信の教育も行い、従業員への周知とルール化ができれば、そのなかで運用できれば難しくない」と話した。収益についても、全額本人が受け取ることができるという。

同社のほかのドライバーらへの影響について、川上氏は「誰でもやれるような状態になっており、やるかやらないかは本人次第だ」として、大きな影響はないとした。

続いて、同社のユーチューバー2人がオンラインで登壇した。

トラックの運転席から出演したかなちゃん氏は、ユーチューブ登録者数が17万4000人に達する。

ユーチューブ活動を始めたきっかけや目的について「トラック自体が大好き。その業界のイメージが思ったのと少し違った。それをもっと良くしていきたかった。実際は楽しいよ、と伝えたら、若い人も盛り上がっていける」と話した。

大きな反応も出てきている。「動画を見て入社したとか、きっかけで業界に入ったという声をたくさんいただき、励みになっている」と語った。ドライバーという職業については「自分の時間がたくさんあり、自由に仕事ができる」と魅力を述べた。

一方、24年問題は、現場の当事者にはどう映っているのか──。

かなちゃん氏は「今は1人のドライバーとして働いている身で、会社を信頼しているので、大丈夫だと思っている。不安はあまりない」と打ち明けた。また、「働く時間が短くなり寂しい気持ちもあるが、それより労働環境がさらに改善できるのならば、いい案だと思う」と語った。

働いて感じることは、「高速道路によく乗るが、パーキングで駐車場に枠が空いておらず、駐車できないことも実情としてある。決まりが次々と厳しくなるなかで、休息が取れる環境が間に合っているかといえばそうではなく、難しい面もある」と率直に指摘した。

出演したもう一人のユーチューバーが、ちゃんけ氏だ。

ちゃんけ氏は5年ほど前から「物流業界にもっと興味を持ってほしい」と思い、ユーチューブ発信を続けてきた。トラックの魅力は「乗用車より目線が高いため、乗用車では見れない景色が見れる」ことだという。

社会からの評価について「ユーチューブで、トラックドライバーは底辺職業だとコメントされることもある」と指摘しながらも、「だが、9割以上は応援してくれている。日本の血液であり、トラックドライバーが止まったら、日本が止まるといったコメントをいただくこともある」と話した。

また、「トラックドライバーは、無理やり走って、寝る暇もないというイメージが、まだわずかにある。少しずつだが、もっともっとイメージを変えていくのが、夢だ」と意気込みを語った。

鍵を握るDXによる文化醸成

2日目の大きなテーマは、物流におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)だ。DXの活用は、24年問題を乗り切る糸口になるのか──。

運送業は、DXが立ち遅れている業界の一つとされる。直面する問題を、DXを推進することでうまくコントロールしようする企業や、それを後押しするIT企業などが壇上で席を並べた。

▲(左から)赤澤編集長、フジトランスポートの松岡弘晃社長、NBSロジソルの河野逸郎社長、チャットワークの山口勝幸副社長

青森県から鹿児島県までトラックの長距離輸送をメインに展開するフジトランスポート(奈良市)では、14〜15年前から、自社人材をうまく活用してシステム構築に乗り出した。外注すると費用がどんどん膨らんでいく経験をしたためだという。

開発システムでは、請求管理や日々の売り上げ管理、従業員の給料計算のほか、各支店ごとの日々の収支がすべて出るなどの機能がある。

松岡弘晃社長は、「システムの人材がいれば、何とかできる。時間はかかるが、できないことはない」と話す。徐々にバージョンアップしていきながら、さまざまな業務のシステムを統合していったという。

フェリー輸送から建築現場へのラストワンマイル輸送まで一貫輸送を手がけるNBSロジソル(大分県日田市)は、40拠点で展開。従業員は1200人に及ぶ。河野逸郎社長は、「運送業界は、コミュニケーションが下手なところがある業界だ」と指摘する。

理由について、多くいるドライバーたちと経営層との間が、情報が分断されていて、ドライバーへの伝達や日々のやり取りが口頭や電話などに限られているためだという。そのため、現場では「会社が何を考えているかわからない」状態にさえ陥っているケースがあるという。

同社では、ドライバーにスマートフォンを渡し、ツールとなるアプリを導入させるなどして、「コミュニケーションのDX化を積極的に取り組んでいる」(河野社長)のが現状だ。

そうした視点から導入されたのが、仕事で使えるビジネスチャット「チャットワーク」。運営するChatwork(チャットワーク、東京都港区)には、中小企業を中心に42万社620万人に及ぶユーザーがいる。

同社の山口勝幸副社長もセミナーに参加した。山口副社長は「情報の流通を変えていって、会社の文化を変えていかなくてはいけない。その一つの施策として投入してもらった」と意義を語った。

また、金融業界から運送業界に入ってきた河野社長も、「運送業界には、DX化にものすごい抵抗がある」とみて、「まずは、一番入りやすい、スマホのシンプルなコミュニケーションから導入させ、文化醸成を考えて始めた」と取り組みのきっかけを話した。

さらに、河野社長は「踏み込むべきなのは、運送会社同士の業務のやり取りだ」と述べ、荷主企業や協力会社などとシステムでつながり、データ連携などを広げていく展望を語った。