イベントLOGISTICS TODAYと野村不動産がタッグを組み、さまざまな物流課題を論じる「物流議論」。その第三回目が28日に開催された。今回は「荷主・3PL企業が求めるのは、機能性かパートナーか。~競争と協調、WMS最前線~」と題し、WMS(倉庫管理システム)ベンダーとユーザーの双方が登壇、WMSに求める機能や協調の可能性について語った。

▲野村不動産の宮地伸史郎氏
開会にあたって野村不動産、物流事業部次⻑の宮地伸史郎氏は「野村不動産は倉庫建設を担うデベロッパーとしては古参。庫内のDX(デジタルトランスフォーメーション)化を推進するべく、企業間共創プロジェクトTechrum(テクラム)を主導するなど、物流の変革パートナーを目指している」と発言。自社の立ち位置が、WMSベンダーやそのユーザーをはじめとした物流の現場と近いことを強調した。
またLOGISTICS TODAY編集長の赤澤裕介は「物流を委託するのが物流会社とは限らなかったりと、物流の担い手が従来とは変わりつつある。その変化の起点となるのがDXであり、WMSはその一丁目一番地」としつつ「今日はユーザーとベンダーの双方から忌憚のない意見を伺いたい」として開会を宣言した。
荷主企業を突き動かす、「運べなくなる」ことへの恐怖感
今回のイベントは二部構成になっており、まずはWMSを利用する立場にあるユーザー3社が登壇し、荷主やWMSを取り巻く現状について意見を交わした。
物流業務の構築・改善を得意とする清長(東京都千代田区)を代表するのは取締役兼物流事業本部本部長の朝比奈大輔氏。
受発注からバックオフィスの支援、コールセンターに至るまで、EC(電子商取引)事業の業務全般を請け負うDNPコアライズ(東京都新宿区)からは企画開発本部マーケティング企画開発部第2グループの西村圭吾氏が登壇。
製菓をはじめとする食品の共同配送を担うライフサポート・エガワ(東京都足立区)からは経営戦略本部開発部長の及川矢氏が参加した。

▲清長の朝比奈大輔氏
赤澤は「日本の人口はどんどん減ってきている。人手不足が進んで配送力が落ちるとされるなか、もはや荷主企業が物流会社に仕事を丸投げできる時代は終わった」とした上で、「荷主企業の意識が変わったと感じるか」と各社に水を向けた。
それに対し清長の朝比奈氏は「たしかに荷主企業が物流会社に業務を丸投げすることはできなくなった。いまだに必要なコストを回収するための値上げ交渉であっても簡単にはいかないが、物流を維持するために必要だと理解してもらえることも多い」と話す。
ライフサポート・エガワの及川氏は「荷主企業を突き動かすのは荷物が運べなくなるのではないかという恐怖感」と話す。「最近は荷主企業の方から荷待ち時間、納品の付帯作業の改善を申し入れてくる」(及川氏)。輸配送の結果が業績に影響しやすい発荷主のみならず、今までは受動的に荷物を受け取るだけだった着荷主も危機感をあらわにしているという。

▲DNPコアライズの西村圭吾氏
続いて赤澤からの「DX化は進んでいると思うか」という問いかけに対して、企業の販促用の印刷物も取り扱うDNPコアライズの西村氏は「これからも紙媒体が0になることはないし、DXが進んでも顧客と直接会いたいという人は一定数いる」と回答。さらに「単にDXを押し付けるのではなく、それを武器にしつつ、いかにサービスに付加価値を見出すかが大事」とし、DX化は確実に進んでいるものの、アナログな手段がすべて駆逐されるわけではないことを強調した。
話題は事業の継続性にも及んだ。「このままなにもしなければ30年には輸送力が30%落ちるというデータもある。それを踏まえた上で事業を継続していくにはどうしたらいいか」という赤澤の問いに応えたのは朝比奈氏。「輸送力が落ちる一方で、宅配の需要はどんどん高まっている。3PL企業の立場からすると、いずれ宅配会社が荷主企業を選ぶ事態になるのではないかと危惧している」とし、「宅配会社と協力して宅配の効率化を進めている」とコメント。具体的にはドライバーが荷物のサイズを測る作業を自動化し、その作業にかかる時間とコストを削減しようとしているという。
西村氏は共同配送が事業継続のキーになると考えている。「業界によっては横のつながりが弱く、荷主企業が同じ拠点に荷物を出荷していることに気づいていないことがある。間に入るわれわれが提言することで、物量の最適化を図りたい」(西村氏)

▲ライフサポート・エガワの及川矢氏
「WMS開発は汎用性を高めることで導入コストを抑えてきたという歴史がある。しかし、多様化するニーズに応えるにはそういった汎用性が邪魔になることもあるのではないか」(赤澤氏)。こういった疑問に対し、もともとシステムを開発するSE(システムエンジニア)だったライフサポート・エガワの及川氏は、「かつて汎用的なWMSが喜ばれたのはDX化がしやすかったから。しかしWMSが一般化すると他との差別化を図るためにも機能を尖らせていく必要が出てきた」と指摘。
さらに及川氏は「これからはデータ連携が必須。検品やパレット輸送など、物流の課題は多種多様だが、いずれにせよ荷主と物流会社と納品先が同じデータを見られなければ改善は望めない。食品の場合、納品先の企業は賞味期限の情報などを手入力している。しかし、荷主側とデータを共有すれば一元的な管理ができ、検品・納品にかかる時間は大幅に短縮できる」と、データの共有が効率化を進める可能性を語った。
ベンダーが考える、WMSカスタマイズと連携の必要性
ユーザー同士の議論が終わると、いよいよベンダー企業3社が登場。第二部では「ベンダーに協調領域は存在するのか」という議論がなされた。

▲シーネットの鈴木喬氏
WMSベンターのパイオニア的存在であるシーネットからは営業本部長の鈴木喬氏が登壇。シーネットは食品のBtoB取引を得意とし、同社が開発したWMS「ci.Himalayas/R2(ci.ヒマラヤ/R2)」は業界内でのシェアも高い。
ブライセンからは物流流通本部ゼネラルマネージャーの菅原共生氏が登場。ブライセンはWMSベンダーとしては後発に当たるものの、物流会社のシステム開発を受託してきたノウハウを持つ。ベトナムやミャンマーなどの東南アジアにも拠点を構える、グローバルな企業だ。主要WMSは「COOOLa(クーラ)」
ロジザードから参加したのは取締役営業部長の亀田尚克氏。ロジザードの特徴は連携に積極的な点にある。また365日対応の手厚いサポートを行うなど、ユーザーの不安・不満に寄り添う保守体制が高い評価を受けている。主要なWMSは「ロジザードZERO」。

▲ブライセンの菅原共生氏
赤澤氏は「導入コストを抑えるため、物流業界はWMSの汎用性を大切にしてきた。しかし、変化が激しい現代においては汎用性を高めるだけでは不十分」とした上で「各ユーザーの要望に応えるにはWMSをカスタマイズするか、連携するしかない」とし、ベンダーの発言を促した。
これに対してブライセンの菅原氏は「あまりにもカスタマイズをしすぎるとサポートが難しくなる。なので当社としてはパッケージをしっかり作りつつ、そこにカスタマイズを乗せるといった提案をしたい」と話す。
特にカスタマイズの難しさを感じていたのはロジザード。日本の企業は古い基幹システムやソフトウェアを利用していることが多く、これらは近いうちに時代遅れになり、ビジネスシーンでの競争力を失うとされている。経産省はこれを「2025年の壁」と表現し、25年から毎年12兆円もの経済損失が生じるとしている。

▲ロジザードの亀田尚克氏
「25年の壁を乗り越えるために既存の『ロジザードプラス』を廃止、新しく「ロジザードZERO」を展開した。カスタマイズしていたクライアントからは切り替えに強い反発があった。過剰なカスタマイズをすると、システムの切り替えもしにくくなる」(亀田氏)
ユーザーがDX化と25年の崖の話を混同しているケースも多いという。「従来の方法(システム)は変えたくないけど、クラウド型のシステムに切り替えたいという要望がある。その2つは本来両立しないもの」と亀田氏。
また、亀田氏から「食品の賞味期限の管理は難しい。われわれがやるよりもよいと思ったので、ユーザーには食品が得意なシーネットを紹介したことがある」といったエピソードが紹介されると、鈴木氏からは「アパレルのSKU(商品の最小単位)管理には独自のノウハウが必要。なのでユーザーにはアパレルを扱うことの多いロジザードを案内」した経験が飛び出すなど、それぞれの得意分野を持つ二社は、すでに協業に近い関係性を持っていることが伺えた。
物流のDX化、およびWMSのこれからについて問われると、ブライセンの菅原氏は「DXという言葉の持つ意味が広すぎるため、物流のDX化を取り巻く状況は混沌としている。これからはCLO(最高物流責任者)など、状況を整理できる存在が出てくる」とした。
シーネットの鈴木氏は「これからのWMSにはマテハン機器をコントロールする力も要求される。故障などイレギュラーな事態が生じた際にはWMSが事態を収束させる機能を有していないといけない」と語った。
「組み合わせの豊富さでニーズに応える」とするのはロジザードの亀田氏。「そのために連携しやすいWMSをつくる。もちろん単に連携をすればよいという話ではなく、全体を俯瞰して最適化を目指す」(亀田氏)
物流業界でも「協調」が時代のトレンドに
終盤には野村不動産の宮地氏が、全体を統括する発言をした。「倉庫を提供するデベロッパーとして、ベンダーには標準化を進めつつ、仕組みで差別化を図ってもらいたい。切り替えがしにくいサービスにはユーザーを誘導しにくい部分がある」(宮地氏)
さらに「これからは協調が時代のトレンドになる。それに伴い、デベロッパーである野村不動産に求められる役割も変わっていくはず」とし、WMSの領域においてもさらなる協調が進むのではないかとの見方を示した。