ロジスティクストラック運送業界ではドライバーを中心に労働力不足が深刻化している。燃料費の高止まりなどコスト負担は増すばかりだ。そのような厳しい経営環境が続くなか、今後トラック運送各社が市場で生き残っていくためには、限られた人材で効率良く事業を展開することが欠かせない。
ハコベル(東京都中央区)が提供する3つの物流DX(デジタルトランスフォーメーション)システムは、とりわけ負荷の大きい配車業務の効率化を実現するソリューションだ。同社代表取締役社長CEO(最高経営責任者)の狭間健志氏に、システムの優位性などについて聞いた。
DXのフロントランナー

▲2022年8月にセイノーホールディングスとラクスルの合弁会社として「ハコベル」が設立。中央がハコベルの狭間健志社長
ハコベルは2022年、ラクスルの事業部から分離独立するかたちで設立されたスタートアップだ。設立時には、ラクスルと物流大手のセイノーホールディングスが出資。その後、山九や福山通運、日本ロジテム、日本郵政キャピタルなどが新たに株主に加わっている。
ハコベルが提供するサービスは大きく分けて2つ。「ハコベル運送手配」と、配車計画・配車管理・動態管理の3要素で業務の効率化を図る「物流DXシステム」だ。
ハコベル運送手配は、“運びたい”企業と“運べる”ドライバーをつなぐマッチングサービス。全国2万8000人以上の登録ドライバーが、スポット配送から緊急配送、定期配送に至るまで、さまざまな輸送ニーズに応える。すでにトラック輸送市場には数多くの求荷求車サービスが存在しており、この領域では後発組に属する。
ハコベルが“スタートアップ”にカテゴライズされるのはほかでもない。求荷求車サービスだけでなく、「物流DXシステム」を開発・提供しているからだ。このシステムは配車計画・配車管理・動態管理の機能で構成されており、電話やファクスによるアナログなやり取りや、紙ベースの請求作業など、煩雑になりがちな現場のフローを自動化し、生産効率を高める。
「ハコベル配車計画」は、これまでの人手による配車計画の立案をAI(人工知能)が代行するというもの。複雑なフローを整理し、最適解を導き出すのはAIの得意分野だ。これにより配車業務にかかる時間を大幅に短縮できるとともに、計画の精度向上で配送ルートが効率化されコストも抑えられる。ベテランの経験に頼るところが大きく、属人化しがちだった配車業務を標準化できることも大きなポイントだ。
たとえ配車計画を最適化できても、運送会社への連絡が滞ってしまうのでは意味がない。特に多数の運送会社に依頼する場合、煩雑なやりとりが強いられることになる。「ハコベル配車管理」では、配車依頼から車番の設定、請求に至るまでの業務を一元化できる。電話やファクス、メールなど、複数の連絡手段を駆使して各社に連絡する必要がなくなる。
従来、トラックの現在地を確認するには、納品先から荷主、荷主から運送会社、運送会社からドライバーへ、といった具合にリレー方式で電話をかけるしかなかった。しかし「ハコベル動態管理」では、車両の位置情報をリアルタイムで把握、到着予定時刻も確認できる。納品先、荷主、運送会社がそれぞれ情報を共有するため、電話の頻度は激減するだろう。
規制の強化や、人手不足による労働力の先細りが確実視されるなか、こうしたDXツールの存在感は増すばかりだ。ハコベルは業界のフロントランナーとして、現場のDX化を強力に推し進めている。
現場の知を生かしつつ「大変すぎる」を緩和
同社では「ハコベル運送手配」のサービス提供を通じて、現在も物流現場やドライバーに直接関わる機会が多い。だからこそ、狭間氏は「システムを開発していく上で、これまで物流業界を支えてきた現場の人々へのリスペクトが最も大切だ」と語る。
「日本のトラック運送はオペレーションの品質が高い。通常時はもちろん、コロナ禍でも宅配便が届き、小売店に商品が運ばれていたのは世界でもまれなことだった。トラック運送関係者は世の中に欠かすことができないエッセンシャルワーカーだ。システム化にあたっても、その品質の高いサービスをつくってきた人たちに敬意を払うことを大前提としている」(狭間氏)
デジタル化の浸透が遅いとされる物流業界だが、同社ではそのアナログな、個人の感覚で運営されてきた部分を切り落とすのではなく、システムを利用する流れのなかに落とし込んで生かせるように試行錯誤してきた。
狭間氏はハコベル公式ホームページでも、「日本の物流品質は世界一」と主張している。だが、これまでその品質の高さを現場の信頼関係や工夫によって支えてきたからこそ、暗黙知や属人化が発生しやすく、業務量も増えて、長時間残業や休暇の取りにくさにつながってきたのも確かだ。24年問題、労働人口の減少などに直面し、現場を担う一人一人の負担は従来以上に増している。「日本の物流業界が誇る品質の高さを落とさないようにしながら、多忙な毎日を過ごす現場の人たちをシステムやテクノロジーで楽にすることが、われわれのミッションだ」と同氏は力説する。
ハコベルのサービスが目指すのは、完全な自動化・システム化ではない。荷主やトラック運送事業者との接点には引き続きヒトを置きつつも、データを用いた客観的で効率的な管理を展開し、熟練せずとも同等のオペレーションができるようにする。これまでの「肌感覚」を客観化することで、属人化を緩和すると同時に、対外的にも自社の業務内容を説明できる体制構築が可能になる。

▲モノフルの「トラック簿」
さらに今後は、「運送事業者側への価値提供をもっと増やしていきたい」と狭間氏は意気込む。これまでマッチングサービスとシステムサービスで運送事業者・ドライバーと関わってきたハコベルだからこそ、独自に提供できるデータセットや情報があると考えている。また、11月からはモノフル(東京都中央区)の既存システム「トラック簿」を承継することが決まっており、物流施設のトラック受付・予約を通じて、運送事業者の効率化にも良い影響を与えられる見込みである。
同氏はハコベルの未来について、いずれは物流業界で「『ハコベルがあって良かったな、ない時代は考えられないな』というくらい、当たり前のものになってほしい」と話す。人の力を大切にし、現場目線で開発されるシステムの今後の行く末だけでなく、ごく近い将来の機能追加も楽しみだ。
謙虚、素直に失敗から学んで
狭間氏は経営者として、謙虚さ・素直さを重視しているという。それは幾度も繰り返される現場の人々への「リスペクト」の言葉からも伝わってくるところだ。共に会社をつくるチームとなる仲間も、同じように謙虚・素直であってほしいと考えている。
「会社の戦略自体は、それほど差が出るところではない。差がつく決め手は、現場に行って正しい課題を見つけてくることと、やりきれるかどうかの執行力。その背後にあるのは失敗から学ぶ力や、的外れに見えるアドバイスでも一度咀嚼(そしゃく)してみる心構えだ」と同氏は話す。
狭間氏は「失敗を自分の責任と考えて徹底的に反省できることが、経営者として大事な才能・資質だと思う。そして失敗から学んだり、アドバイスを受け入れたりするには、自分は知らない、分かっていないと認める謙虚さ・素直さが不可欠。スタートアップ企業やこれからスタートアップを始めたい人にはまず、謙虚・素直な心で徹底的に製品を使うことになる人たちの現場を訪れ、生で見ることを大切にするように伝えたい」と語る。同氏はしかし、これらのことはアドバイスというよりは経営者になって学んだことだと、ここでも謙虚さを発揮して、言葉を締めくくった。
一問一答
Q. スタートアップとして、貴社はどのステージにあるとお考えですか?
A. 22年にJV設立をしたハコベルは3年目を迎えました。24年問題をはじめとする物流業界の課題解決をしていくために、お客様への提供価値、運送会社様へのサービスの拡充や品質を高めるべく、連携・協業の門戸を開きつつ、採用にも通年で力を入れています。
Q. 貴社の“出口戦略”、“将来像”についてお聞かせください。
A.自社でのサービス開発、他社との連携・協業を通して、 業界で多く使っていただけるプラットフォームになりたいと考えております。