話題首都圏に次ぐ国内経済の中心である大阪エリアでは、賃貸型物流不動産市場もまた東京周辺の施設開発を追いかける形で2004年から供給が本格化した。大阪港のインフラを基軸とするベイエリアでの開発が先行し、さらに内陸部への開発へと拡大して17年に供給のピークを迎えている。EC(電子商取引)の需要拡大や、「24年問題」によるトラックドライバーの新しい働き方に合わせた拠点編成など産業構造の変化にともない、特に大阪内陸エリアの物流重要地としてのステータスも高まり、施設開発も進んでいる。
名神高速道路や第二京阪道路、全面開通に向けて開発が続く新名神高速道路などが集まる交通インフラ網は、関西エリア全域から、さらに高域への輸送でも機動力を発揮でき、茨木市などの北摂地域は、特に物流施設開発も盛んなエリアとなっている。
茨木市と周辺の吹田市、高槻市、摂津市など「三島地域」に分類されるエリアは、人口114万4000人以上(20年国勢調査)、大阪府域の人口の13%近い人口を抱えるなど、労働力確保でも優位性を誇る。近畿の巨大商圏、京都府に近接し、兵庫県へのアクセスにも優れるエリア特性は、関西圏の拠点設定見直しにおける主要な選択肢の1つとなることも納得できる。全線開通すると、神戸と名古屋を結ぶ全長174キロとなる新名神高速道路の開発に合わせて17年に設置された茨木千提寺インターチェンジ(IC)周辺には新たな開発用地も整備されたことで、さらに大型の施設開発が集中する状況である。
ユニクロが裏付けた、京阪の中間地の物流構築力
茨木市は人口29万人(大阪府で6番目)、大阪市と京都市の間に位置する大阪市のベッドタウンとして発展してきた。南北に細長い形で、北部は山林が多く、南部は平野部で市街地が集中する。
茨木市北部に広がる山林部では都市開発が進められ、「彩都」(国際文化公園都市)開発が続く。04年に開発が先行する西側地区のまちびらきが行われ、07年に大阪モノレールの延伸で彩都線「彩都西駅」が開通するなど、彩都西部地区のニュータウン形成、住宅の供給が進められ、中部地区が16年に造成を完了し、現在は東部地区の開発・事業化が進められている。
彩都中部地区では、当初西部地区との連携性が高い研究施設の集積が計画されたが、業種を問わない産業誘致へと方針を修正し、新名神との接続の良さや丘陵地での災害リスク対応力が評価され、プロロジスパーク茨木(プロロジス)が16年、MFLP茨木(三井不動産)が17年に相次いで竣工し、物流基地がエリアを代表する施設となっている。
また、彩都エリア開発の最終工程となる東部地区では、景気減速や人口減少の煽りを受けて宅地開発が進まず、当初の区画整理事業の主体であった都市再生機構(UR)が事業から撤退するなど、計画の変更を余儀なくされた。彩都の中でも、東部地区は特に新名神・茨木千提寺ICに至近であることを活かし、工場や倉庫も誘致できるように「準工業地帯」に用途を変更したことから、このエリア開発においても物流施設開発が加速し、EC関連の新規拠点が集中したことが、物流地としての彩都の地位確立を後押しした。
ユニクロを展開するファーストリテイリングは、大阪、堺市内からの拠点再編のタイミングでMFLP茨木への拠点集約を実施。さらに東部地区に大和ハウス工業とファーストリテイリングのJV(ジョイントベンチャー)で設立したオンハンド(東京都江東区)が開発した「D&F茨木北物流センター」(20年竣工)に入居、「DPL茨木北」(大和ハウス工業、22年)にEC物流拠点を設け、自動化への対応力を高めた「西の拠点」に位置付けている。彩都にユニクロブランドの物流機能を集約したことで、地域の物流重要地としての評価を高めた形だ。現在も、三井物産と長谷工コーポレーションの共同開発物件「LOGIBASE茨木彩都」が、25年1月の完成を目指して開発を進めており、新名神の全線開通による将来性ある物流用地開発は最終段階に移行している。
物流要衝・北摂が確立、施設とともに物流事業の拠点集積
茨木市内の賃貸用倉庫施設開発はまだ歴史が浅く16年ごろから本格供給がスタートしており、ことし供給のピークを迎える。特に茨木市南部は、元々名神高速道路の茨木IC付近に自社用倉庫が集積するなど、物流地としての利点が評価され、デベロッパーによる施設開発が促されてきた形だ。日用雑貨、食料品、建材など地場の産業が盛んなことも、彩都地区とは大きな違いであり、地元産業の受け皿としての機能に加え、機動性の高い配送機能をセールスポイントとする施設開発も進む。「Dプロジェクト茨木A棟」(大和ハウス工業、17年)にヤマト運輸、「Dプロジェクト茨木B棟」(18年)にアマゾンジャパン、「DPL茨木」(大和ハウス工業、20年)に楽天が入居し、EC物流の集積地が形成されている。
このエリアには「LOGI’Q南茨木」(東急不動産)もことし完成し、現在入居者募集中である。LOGI’Qブランド最大、延床面積16万1500平方メートル以上の旗艦施設がこの地に開設されたことからも、物流重要地としての位置付けが再確認できる。また、冷凍冷蔵倉庫の供給を積極展開する霞ヶ関キャピタルは、大阪エリアでの第1号施設となる「LOGI FLAG COLD大阪茨木I」を25年2月竣工に向けて開発中で、ドライ倉庫のみならず地域のコールドチェーンを支える施設開発など、供給される施設のバリエーションも広がっている。
府道14号沿いには、3棟で延床面積32万平方メートルに及ぶGLP ALFALINK茨木(日本GLP)の開発が進んでおり、すでに茨木1と2がことし満床での竣工を迎えており、25年7月の茨木3の完成を待つ状況である。茨木1には佐川急便、福山通運など路線事業者が入居して施設自体が1つの物流のまちを形成する。25年の完成が待たれる茨木3も、すでに6割近い成約状況となっており、エリアの需要の高さが表れている。
さて、茨木ICを中心とした10キロ圏での物件101棟の調査では、この1年ほどの募集賃料は坪あたり5040円が相場となっており、平均成約賃料としては4900円台半ばと想定されるが、新規供給物件では募集賃料5600円の設定も確認できる。
また、茨木市北部と南部とで物流施設で働くパート・アルバイトの労働力指数、募集時給相場を各地区の代表的2物件で比較してみると、労働力指数が、南部は坪あたり1.1人に対して、北部は0.6人と南部と比較して45%ほど低く、平均時給相場では、南部が1299円に対して、北部では1330円と2.4%ほど高くなっているなど、南北それぞれのエリア特性に応じた施設運用が求められる。
物流の重要性とともに、物流現場への理解も、茨木から拡大を
GLP ALKALINK茨木開発地域は、交通利便性の優れた幹線道路沿線における産業立地のポテンシャルを見据え、市が中心となって商業施設と物流施設の一体開発による市南部の賑わい創出を目指す「南目垣・東野々宮地区都地区各区整理事業」によるまちづくりを目指すものである。交通ネットワークの優位性による立地ポテンシャルを最大の強みとしたまちづくりは、その強みを物流に生かすとともに、商業施設への流入を図るものである。「イコクルいばらき」の名称での本格稼働に向けて、今後は先行するニトリに続いて、ビバホーム、ヤマダデンキの開業が控えており、賑わい創出の注目事業となっている。
また、茨木市は、日本GLP、摂津市との3者による「水害時における緊急一時避難場所としての使用に関する協定」を締結し、物流施設による産業活性化や雇用創出はもちろん、先進型多機能物流施設の防災機能へも期待を寄せる。福岡洋一茨木市長は、施設の完成式典、防災協定の締結式や、施設を会場とした街びらきイベントにも参加するなど、積極的に物流施設の意義を発信しており、産業・商業の活性化、雇用創出や安全対策も視野に入れた再開発において、市も積極的に物流施設をその中核に組み込んだ形である。
一方、彩都、特にその東地区の開発では、当初の土地用途を住宅系から準工業地域や工業地域へと転換して、ものづくり産業や流通施設、製造工場、生活支援型サービス施設や研究開発施設等が立地する新たなまちづくりを目指した。結果としては、新名神の利便性、さらに生活スタイルの変化やECの活況を経て高まる物流需要に対応して、大阪内陸部に求められていた大型物流拠点の進出が先行する形で、物流施設中心のまちづくりとなっているが、この現状は、決して開発計画の青写真通りではなかったようにも思える。地域住民や働く人の足として期待された大阪モノレール彩都線も、彩都西駅から中地区、東地区への延伸が白紙となったことで、エリアへの通勤、働き方にも影響を及ぼしている。
市の関係者は、「社会インフラとしての物流維持に向けて、基盤施設があることは、彩都にとっても重要なこと。その一方で、物流施設が集まることで交通環境などの悪化などを懸念する声があるのも事実。新しいまちづくりの過程で、こうした心配への地域の理解も深めるような取り組みが、行政と事業者双方に求められるのでは」と話す。
彩都の最初の都市計画決定から40年近くを経て社会情勢も大きく変化、それにともなって彩都開発の形も様変わりした。物流施設が先行して進出することに対しては、当初目論んでいた製造・研究系産業の進出と比較して、雇用者もパートやタイムワーカーなど非正規雇用が中心となる状況への辛辣な意見も聞かれるが、各施設が新たなまちづくりの基盤作りに貢献することで、地域の評価も大きく変わっていくだろう。社会の変化に応じて、物流の重要性の認識、インフラとしての位置付けは高まりながらも、倉庫現場など個々の物流現場への理解には、まだまだ関係者の努力も必要だと言えるだろう。
彩都に立地する物流施設にはモノレールの彩都西駅が、また、茨木南部に立地する施設は、南茨木駅や茨木駅からの路線バスやシャトルバスなどの起点となっており、南茨木駅前の飲食店で話を聞くと「常連の顔ぶれが少し変化したのは、新しい物流倉庫で働く人たちが来てくれてているのでは」と、新たな人の流入への期待もうかがえる。JR茨木駅、阪急茨木市駅西口駅前周辺整備基本計画素案もまとめられ、来年度には都市計画決定に向けた手続きも開始される予定である。物流を支える人の賑わいがさらに活性化されることが、茨木の物流事業の活力ともなり、物流全般への理解も広がるのではないだろうか。茨木市が、輸配送の出発点となるだけではなく、物流業界への理解を広げる基点となることにも期待したい。