話題仙台市は東北6県の中核を成す、同地域最大の政令指定都市だ。東北全域はもちろん、北海道や青森への配送拠点、首都圏までの中継輸送拠点を構えるにも良いロケーションといえる。また2024年には同地域で過去最大となる9棟、95万8400平方メートルもの供給が見込まれている。
24年問題を皮切りに、中継拠点としての地方物流施設のニーズは急速に高まりつつある。今回は東北地方の要衝、仙台市における物流事情を特集する。
東北の中心地、仙台の持つポテンシャル
ことし(24年)からドライバーの時間外労働に規制がかかり、トラックが1度に荷物を運べる距離が大幅に短縮した。いわゆる24年問題だ。従来のように「一つの拠点から全国に配送する」といった配送モデルは見直しを迫られ、拠点の分化・地方進出が進んでいる。
そんななか、今密かに物流事業者の注目を集めている地域がある。仙台市だ。11年の東日本大震災以降3年ほどは新規供給がなかったものの、仙台を含む東北への物流施設の供給は24年に過去最高を記録する。同年には9棟、95万8400平方メートルもの土地が物流施設のために供された。さらに25年には5棟13万2598平方メートル、26年には3棟13万3957平方メートルと、物流施設の進出が相次ぐ。
なぜ今、仙台なのか。その理由としては同市が名実ともに東北の中心地であること、24年問題を受けて東北で物流施設の需要が急速に高まりつつあることが挙げられる。
まずは東北地方における仙台という都市の存在感を再確認してみよう。仙台は東北唯一の政令指定都市であり、自治体が持つ主体性は非常に強い。
東北地方における人口分布も、仙台という都市の存在感を裏付けている。宮城県の人口224万人は東北全体の26.8%を占め、仙台市の人口110万人は宮城県の49.1%を占める。つまり仙台市には東北全体の13.1%、1/8程度の人口が集約しているのだ。一般消費者がエンドユーザーである以上、物流の機能は人が集まるところを中心に展開される。物流事業者が東北に拠点を構えようとしたとき、真っ先に仙台の名前が挙がったとしても不思議はない。
次に東北エリアにおける需要増の背景について考えてみる。物流の目的が”誰かにものを届ける”ことである以上、人が多いところには物流施設が集まる。そのため、日本全体で見たときのその都市の人口構成比率と、物流施設供給の構成比率は同程度になることが多い。しかし、東北地方の人口構成比率が6.7%なのに対して、物流施設供給の構成比率は3.8%となっている。これは人の数に対して物流施設が少ないことを意味する。東北エリアは今まで、北関東や首都圏などの施設を使って物流を維持していたのだ。
24年問題のただなかにあって、長距離輸送に依存した物流は機能しなくなりつつある。そういった実情を踏まえて、東北では物流施設の建設が加速度的に進むと考えられる。実際、東北では既存の物流施設に対する、開発中の新規物流施設の割合が21.5%を占めている。東北の物流施設のうち、5つに1つはこれからできあがる新しい施設ということだ。新規開発率の高さは、関西の21.9%に次いで全国2位。このことからも、東北地方の物流施設開発がいかに急ピッチで進んでいるかが分かるだろう。
仙台には市内配送だけでも一定の需要があり、しかも東北6県へのアクセスが抜群に良い。仙台は幹線道路によって、東北で10万人以上の人口を擁するすべての都市とつながっている。東北エリアで高まる需要に応えるには十分なポテンシャルだ。仙台市の平均成約賃料は坪あたり3500円となっている。
市の担当者は近年物流施設が集積しつつある要因を「人員が確保しやすいこと、(仙台自体が)一大消費地であること」と分析。今後進出する物流施設に求めることについては「”杜の都”とも呼ばれる仙台は、積極的に環境問題に取り組んでいる。事業者には環境に配慮した開発をお願いしたい」とコメントした。これは仙台に限ったことではないが、これからの物流施設の評価には”環境点”が確実に加算されるようになるだろう。
荷主から見た東北という土地の実態
運送事業者は仙台を含む東北エリアをどう見ているのか。全国ネットの幹線輸送事業者の役員に話を聞いた。同役員によると、東北を出発して関東まで荷物を運んだ場合、運送事業者に支払われる運賃は相場よりも安いという。逆に関東から東北への運賃は相場と変わらないため、運送事業者としては行き帰りでそれぞれ荷物を運ぶことができれば採算がとれる。
帰路に荷物を運ぶには関東にも拠点が必要だ。そのため幹線輸送事業者は往復前提で都心に物流施設を確保することが大前提になる。一方、東京に拠点を置くのが難しい地場の運送事業者は、いかに東北に地域配送の拠点を確保するかが肝心になる。
また同役員によると、仙台は農作物の取り扱いが非常に多く、オンピークとオフピークとの差が激しいという。食品輸送や、食品の保存を前提とした倉庫の賃貸を考えている場合は、あらかじめ季節ごとの荷量の違いを頭に入れておく必要があるだろう。
中継拠点としての仙台の価値はどうだろうか。同役員は「青森-東京間の距離は700キロ以上あり、一回では荷物を運べない。その点、仙台は2つの都市のちょうど中間に位置しており、中継拠点としては便利」と話す。仙台には、本州の北端である青森と大消費地東京とをつなぐ役割が期待される。さらに同氏は「仙台は人口が多く、トラックも集めやすい」とし、東北における仙台の優位性を強調した。
同氏は「仙台港は港湾エリアであるにもかかわらず、物流施設の運用がしやすい」ともコメント。これだけでも荷主が仙台に拠点を構える十分な理由になり得る。同役員からは、物流を知り抜いているからこその貴重な話を聞くことができた。
仙台市の多様な物流マーケット
仙台の物流施設は「北部」「中央部」「南部」の3つに大別できる。
北部は東北自動車道「泉IC(インターチェンジ)」周辺に物流施設が集積しており、キユーソー流通システム(東京都調布市)や国分(東京都中央区)など、食品を扱う業者の倉庫が多い。
同エリアで特徴的な物流施設といえば、霞ヶ関キャピタル(東京都千代田区)の「LOGI FLAG DRY & COLD (ロジフラッグドライ&コールド)仙台泉I」だろう。同施設は泉ICから1キロメートルの場所に位置する3温度帯倉庫だ。常温を除く冷凍・冷蔵の倉庫で保存する商品のほとんどは食料品ということもあり、仙台北部の特色にうまくマッチした物流施設といえる。
霞ヶ関キャピタルは冷凍・冷蔵倉庫のLOGI FLAGシリーズを全国に展開してきた。以前、開発の基準について問われた同社副社長の杉本亮氏は「食品を保存する倉庫の需要は消費地だけではなく、生産地にもある」とコメント。24年問題への対応や、食品ロス防止などの観点から、生産地付近の開発を進める意向を示していた。地方に目を向ける霞ヶ関キャピタルが仙台を一つの拠点として選んだことは、実に興味深い。今後、仙台が東北の食の物流を支える拠点となることも十分あり得るだろう。
仙台中央は仙台港にも近く、震災時には津波の被害も受けた。そういった事情もあって震災以降は内陸部での開発が進んでいたが、近年再び新規開発に取り組む不動産デベロッパーが出てきた。実際、26年1月には東京建物の「T-LOGI(Tロジ)仙台I」が、同年6月には「T-LOGI(Tロジ)仙台II」が相次いで完成する予定だ。24時間の稼働が想定される非常用発電機を備えるなど、BCP対策にも抜かりはない。仙台の海岸付近にも、徐々に物流施設が戻りつつある。
南部でも物流施設の新規開発が進む。三井不動産は名取市に24年4月には「MFLP仙台名取I」を、25年12月には「MFLP仙台名取II」を相次いで建設。名取市はこれまで物流施設が集積してこなかった。しかし、三井不動産のロジスティクス営業部主任古賀鉄盛氏は「立地はもちろん、労働力確保、BCPの観点からも強みがある」とコメント。同社が2つの施設を東北進出の足がかりにすることを強調した。
特筆すべきなのは三菱地所が仙台市にて「次世代基幹物流施設計画」と称するプロジェクトを進めていることだ。三菱地所は30年代前半までに、国道4号線・東北自動車道・仙台東部道路に接続する長町IC直結の物流施設を建設する予定。そのねらいは全国に広がる物流網を構築することにあるという。
同施設はICに直結することで配送効率のアップを図る。また自動運転トラックが建物内を自動走行できるように設計される予定。まさに”次世代”の名にふさわしい、未来的な設計が話題になっている。三菱地所は将来的にこの施設を東北における基幹物流施設とし、計画中の他の施設とともに、日本全国を結ぶ一大ネットワークを構築したい考えだ。
今後ますます、中継拠点としての仙台の重要度は増していくだろう。行政が40年までにフィジカルインターネットの実現を目指していることもあり、物流の地方創生には拍車がかかりそうだ。物流施設の進出で、仙台市の景色はどう変わっていくのか。その変化を追うことはすなわち、物流施設のあり方の移り変わりを追うことと同義だ。