ロジスティクス「物流の2024年問題」が始まってまもなく丸一年。新たな法制度も4月1日からスタートする節目を迎えようとしている。新聞輸配送を事業の軸としている安立運輸(東京都荒川区)の出島康佑社長に、新聞輸送業界の現状と今後の展望について話を聞いた。

▲安立運輸本社
安立運輸は、新聞関係の輸送・配送を主力事業とし、東日本エリアに拠点を展開。朝刊・夕刊配送に加え、「増ページ」と呼ばれる特別版や子供新聞の配送も行う。
一般的に新聞は第1版を作った後も、新しい記事が出ればそれを追加した2版、3版が作られる。つまり、後に出た方が情報の鮮度が高く商品価値も高いため、販売店へはなるべく遅く配送する必要がある。そのため、先に集荷したものは版が古く、後に集荷したものの方が新情報が掲載されている価値の高いものになるという事態が起こるため、ほかの業界で行われているような、同業他社による共同配送がやりにくいという側面がある。一方で、地方紙の印刷を全国紙の印刷工場で行って共同配送したり、全国紙を各地方の地方誌の印刷工場で行い、できるだけ新しい版の紙面を地方に配送したりするということも行われており、新聞という荷物の特性に応じた試みが続けられている。
新聞だけでなく一般貨物にも進出
新聞の発行部数が減少するなか、同社の売上も影響を受けているが、距離制の運賃体系により一定の収益は確保できているという。「1万部あった配達エリアが5000部に減っても、我々が走る距離は変わらないので運賃は安定している」と出島社長は説明する。部数の減少に伴い配送ルートが統廃合され、便数は減少しているが、人手不足によるドライバー減少が並行して発生しており、結果的に「全体としては人員、車両とのバランスが取れている」(出島氏)という。

▲安立運輸・出島康佑社長
とはいえ、新聞の部数減少は確実に起こっており、同社は一般貨物輸送への参入を進めている。現在の売上比率は新聞輸送が9割、一般貨物が1割程度だが、徐々に一般貨物の比率を高めていく方針だ。「20年後には新聞輸送がなくなってしまう可能性を考え、新しい着地点をしっかり作っていく必要がある」と出島氏は危機感を示す。
同社が扱っている新聞は夕刊、朝刊の出る時間が決まっており、全体のスケジュールは日によって大きく変わることはない。そのため、確実に車両が空く時間帯は容易に把握できる。「車両が空く時間はわかっているので、その時間帯を一般貨物の配送に充て、車両の稼働率を高めるのが当面の課題」(出島氏)だという。この課題解決の一つとして、読売新聞が物流企業と新聞輸配送網を活用して配送を行っている「読売お届け便」にも参画している。
運送業共通の課題「ドライバー採用」
出島氏は「今一番の根幹がドライバーの採用だ」と語る一方、同社では採用媒体の選定やSNSの活用、コンサルタントの起用などさまざまな施策を講じたものの、効果は限定的で、「新聞輸送のドライバーは、新聞以外はやりたくないという傾向が強い」という。新聞配送は配送の時間や積み下ろしの場所、ルートが決まっており、働きやすい側面がある。しかしそのために、同社が始めている一般貨物など、新しい業務に消極的なのだという。そのため、「社内にドライバーがいても、一般貨物については別のドライバーを探す必要がある」(出島氏)という状況になっている。
同社の新聞配送は働きやすいこともあり、10年以上働き続けているベテランドライバーも多く、長期勤続の傾向もあると同時に、ドライバーの高齢化も進んでいる。また、アルバイトドライバーの離職率は高く、採用しても辞めていく状況が続いているという。
こうした国内ドライバー人材の課題があることから、外国人ドライバーの採用も検討している。しかし、特定技能ドライバーであれば日本人と同等の給与を支払うことになるうえ、海外から呼んだ以上住居手当も払う必要があり、全体としては日本人よりも多くの報酬を支払う形になる。こうした背景はコストがかかるのはもちろんだが、「日本人ドライバーとの待遇の差が不満につながる可能性がある」と同氏は懸念を示した。
新規事業拡充に向け組織変革を目指す
新規事業展開には社内の意識改革も必要だ。新聞配送に慣れたドライバーが一般貨物の配送に消極的なだけでなく、「60年近く新聞輸送だけをやってきた会社は、新しいことに挑戦することが難しい体質になっている」と出島氏は指摘する。一般貨物部門は既存の人材を配置するのではなく、社内ベンチャーのように立ち上げ、新たな人材を採用して少しずつ変革を進めているという。
また同社は東日本に12の拠点を展開しており、中継輸送の強化や食品輸送への参入など、新たな事業の柱作りを模索している。「急激な成長は難しいが、着実に新しい分野を広げていきたい」と同氏は意気込む。
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