調査・データ日本郵便は23日、全国の郵便局での点呼業務の執行状況に関する調査結果を公表し、調査対象となった3188局のうち、実に75.0%にあたる2391局で点呼が適切に実施されていなかったことを明らかにした。個別の点呼執行数で見ても、調査期間中の57万8000回のうち、26.1%にあたる15万1000回で不備があった。同社は「重大な法令違反と認識している」として謝罪し、結果と再発防止策を総務省、国土交通省に報告した。総務省からは同日、再発防止策やユニバーサルサービスの確保などに関する報告徴求命令を受けた。
今回の調査は、2025年1月下旬に近畿支社管内の小野郵便局(兵庫県)で点呼未実施事案が発覚したことが発端。これを受け、近畿支社管内の同規模局を調査したところ、140局で不備が見つかり、是正指導した。事態を重く見た日本郵便は、全国の集配郵便局などを対象に調査範囲を拡大。郵便局ごとの車両稼働台数に応じて、1週間から最大1ヶ月間の乗務前・乗務後の全点呼について、防犯カメラ映像やヒアリングで執行状況を確認した。
その結果、局別判定では「不適切」(期間中に1回でも不適切な点呼あり)が2391局(75.0%)に上り、「適切」(全ての点呼が適切)はわずか726局(22.8%)だった。個別の点呼執行数別でも、「不適切」(点呼未実施または必要項目の一部未実施)が15万1000件(26.1%)、「適切」は40万9000件(70.8%)という深刻な実態が明らかになった。
なぜこれほど広範囲で点呼不備が蔓延したのか。日本郵便は原因分析で、まず現場社員と管理者の「意識の欠如」を挙げた。運送事業者として「点呼と運送はセット」というプロ意識が希薄化し、「周囲もやっていないから自分もやらなくていい」「面倒だから管理者がいるときだけ」「繁忙時は行わない」といった声が多数確認されたという。「自分は飲酒しないのでアルコールチェックは不要」という誤った認識も根強く、会社全体での飲酒運転防止という目的が理解されていなかった。
特に乗務後点呼は、「勤務時間中に飲酒するはずがない」という思い込みから、乗務前より実施率が低かった。過去にグループ内で勤務時間中の飲酒運転事案が発生し、注意喚起していたにもかかわらず、意識改革には至らなかった。さらに、「書類さえ整っていれば発覚しない」と考え、点呼未実施にもかかわらず点呼記録簿を作成する行為もあった。本社・支社においても、「現場は当然やっているだろう」という安易な考えから、実態確認を怠っていた意識の欠如があったと認めている。
第2の原因として「ガバナンスの不足」を指摘。多数の郵便局で不備があったにもかかわらず、書類上は適切に見えたため、本社・支社は問題を検知できなかった。モニタリング意識の希薄さ、現場管理者に正確な実態把握の必要性を浸透させられなかったこと、チェック手法が実査や書面確認などにとどまっていたことが背景にある。点呼記録がアナログな紙媒体中心だったことも、客観的な実態把握を困難にし、問題を長期にわたり潜在化させる一因となった。加えて「職場のマネジメントにおける課題」として、ルールは認識していても実行が徹底されず、管理者の管理意識の希薄さから現状把握や是正指導、報告が行われなかった点を挙げた。「マニュアルの一部誤規定」も確認されたとしている。
日本郵便は、調査結果を厳粛に受け止め、再発防止策の実施・計画を報告した。まず、実施済みの取り組みとして、4月以降、点呼は必ず局内の防犯カメラに映る位置で対面実施することとし、管理者が定期的に映像を確認する体制を構築。4月17日までに支社社員などが全対象局を訪問し、カメラ映像などで実施状況を確認、不備があった局は是正済みで、「現時点で点呼の不備は発生していないと認識している」という。
今後は、意識改革を徹底するため、点呼の重要性や飲酒運転防止に関する研修の反復実施と理解度テスト、点呼執行者と運転者のミーティングを行う。また、書面だけ整える組織風土を改革するための研修も実施する。ガバナンス強化策としては、本社・支社によるモニタリングを徹底。検査部門による検査手法にも、5月から防犯カメラ映像の確認を追加し、25年度上半期を目途に全集配局で検査を実施する。
そして、再発防止の柱として「点呼のデジタル化」を推進する。現在制度化されている遠隔点呼や自動点呼などのシステム導入により、省力化、確実な記録、記録の一元管理を目指す。すでに4月から一部支社で試行を開始しており、6月から小規模局に導入、25年度上半期中に全集配局への導入完了を目標とする。さらに、法改正に伴い新設された「貨物軽自動車安全管理者」について、必要な講習の早期受講と管理者の選任・届出を進め、点呼執行体制を整備する方針だ。
日本郵便は「お客さまをはじめ関係者の皆さまにご不安とご心配をおかけしましたこと、深くお詫び申し上げます」と改めて謝罪。「本事案の発生を厳粛に受け止め、再発防止に向け全力で取り組んでまいります」と表明した。
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