ロジスティクス政府は、「置き配」こそが再配達率削減の決め手として、その普及に取り組んできた。
2023年の「物流革新に向けた政策パッケージ」では、政府一体となって、マンションにおける置き配普及に向けた取り組みを推進することが示された。
さらに、ことし4月1日から施行された物資の流通の促進に関する法律において定められた「貨物自動車運送役務の持続可能な提供の確保に資する運転者の運送及び荷役等の効率化の推進に関する基本的な方針」においても、国は、マンションなどにおける置き配の取り組みを推進し、多様な受け取り方法の普及を図る必要があるとしている。
これらを踏まえ、政府はマンション管理業に向けて、マンションにおける置き配の普及促進に向けて「取り組みのポイント」を明らかにしている。置き配に関する使用細則を定めるのにあたって、利用可能時間帯や利用可能スペース、(衛生上や危険性など)禁止品の具体化や、消防法の規定に沿う運用など、マンションにおいての円滑な運用ルールの設定を促している状況だ。
前章では、再配達率削減においては、ポイントなどの誘導策よりも、置き配ができる環境を整えることが最重要との指摘を紹介した。より置き配がしやすい環境整備に向けて、受け取り側からも能動的に対応することが呼びかけられている状況だ。
約款に「置き配」明記へ、加速する環境整備
さらに国は、貨物自動車運送事業法に基づく「標準宅配便運送約款」に、荷物の引き渡し手段として新たに「置き配」を明記する方向で検討に入ったことを、本誌でも7月1日付けで報道している。現行の宅配便の基本ルールを見直し、置き配を標準サービスとして、現状の対面手渡しを前提とする配送サービスからの転換が本格的に検証される。手渡しによる配送には、別途追加料金が発生する仕組みなども含め、「ラストマイル配送の効率化等に向けた検討会」で議論を重ねていき、今秋をめどに「置き配」の位置付けについて具体的な方向性を示す方針だ。
国土交通省の調査によると2018年に置き配を利用した人は8%に過ぎなかったが、23年には50%の人が置き配を利用している。18年の再配達率が15%程度だったことから見ると、置き配利用の拡大が再配達率削減に連動しているのは明らかだ。とくに単身世帯や共働き世帯、在宅時間が限られる家庭にとっては、「好きな時間に取り出せる」メリットは大きい。
また、非対面での受け取りが可能となることで、配達員と生活者双方の感染症対策にも貢献し、受取人のプライバシー保護につながってきた背景がある。配達員の滞在時間が短縮され、配達効率が向上すれば、企業側のコスト削減にも効果がある。
加えて、ライフスタイルの変化、たとえば夜勤中心の勤務、シェアハウス暮らし、オンライン会議中など、従来の対面受け取りが難しいケースが増えるなか、柔軟な選択肢としての需要も高まっているだけに、置き配の標準サービス化は合理的な対策と期待される。
「置き配」標準サービス化の裏にある懸念
ただ、置き配をオプションのサービスとしてではなく、標準サービスとして運用するためには、いくつかの課題も指摘されている。
最も懸念されるのが、荷物の盗難・紛失リスクだ。特に集合住宅で、玄関前や共有スペースに荷物を置くといった運用では、セキュリティー対策に不安を抱えるのは致し方あるまい。また、置き配する場所によっては、天候などによる汚損も懸念される。個人情報の流出などを心配する声も多い。注文商品の中身が第三者に知られることで、犯罪に利用されるケースだって出てくるだろう。宅配ボックスの普及は有効な置き配対応策となるが、その利用が標準化となれば絶対数の不足という問題も発生することだろう。また、オートロックマンションへの配送者の出入りに対してはセキュリティーだけではなく、設備面の受け入れ体制も整える必要がある。
置き配対応の可否が、建物構造、地域特性によって異なるという“受け取り格差”となれば、標準サービスとしては不完全と言わざるを得ない。誰もが、同じように置き配サービスを利用するためには、配送事業者、マンションなどの管理サイド、さらに多様なサービス提供者なども交えた、環境作りが必要だ。
求められるのは「選べる自由」と「使いこなす力」
置き配の制度化は、「再配達を減らすためにすべての家で導入せよ」という話ではない。むしろ重要なのは、ユーザーが自らの生活にあわせて「受け取り方を選べる」こと、そしてその手段を適切に「使いこなせる」ことだ。
置き配保険のようなリスク軽減策、スマートロックや宅配ボックスといったインフラ整備、さらには「置き配を利用したいときだけ設定できる」柔軟な運用設計など、利用者の安心と合理性を両立させる仕組みが求められている。
制度改定はあくまで“入り口”でしかない。真に社会に根づかせるには、事業者・行政・生活者の三者が協調しながら、リスクを見極め、対策を講じていく継続的な取り組みが不可欠だ。
次回・後編では、再配達削減に貢献する技術・サービスの進化と、私たち一人ひとりに求められる意識変容について掘り下げていく。
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