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「運行管理高度化検討会」

運行管理DXが深化、現場目線で制度改善へ

2025年8月14日 (木)

ロジスティクス物流が大きな変革期を迎えているなか、未来を見据えた政府主導の検討会が活発に議論を重ねている。夏休みはこれらの重要な政策動向を振り返り、理解を深める絶好の機会。今回は「運行管理高度化検討会」を取り上げる。

国土交通省が進める運行管理の高度化が、新たなフェーズに突入した。2021年から始まった「運行管理高度化検討会」は、遠隔点呼や自動点呼を次々と制度化し、物流現場の働き方に変革をもたらしてきた。そして今、議論の焦点は制度の「導入」から、より現場の実態に即した「深化・改善」へと移りつつある。さらに、高価な専用機器に頼らない「次世代運行管理システム」の標準化も視野に入れるなど、運行管理DX(デジタルトランスフォーメーション)の裾野を広げる動きが本格化している。25年度の最新の議論から、物流の未来を占う。

点呼革命が本格始動、21年から続く制度化の軌跡

輸送の安全確保と、運行管理者の負担軽減や人手不足という構造的課題の解決。この両立を目指して21年3月に発足した「運行管理高度化検討会」は、ICT(情報通信技術)活用を軸に着実に成果を上げてきた 。当初は同一事業者内の営業所・車庫に限定されていた遠隔点呼や業務後自動点呼は、実証実験を経て段階的に対象範囲を拡大。24年4月には、宿泊施設や車内での実施も可能になった 。

▲ICTの活用による運行管理業務の高度化のシナリオ(出所:国土交通省)

25年4月、ついに資本関係のない「事業者間での遠隔点呼」と、安全管理の要である「業務前自動点呼」を可能にする告示改正を実施。これにより、中小事業者が共同で点呼を行ったり、点呼業務の完全自動化を目指したりと、運行管理の選択肢は飛躍的に広がった。また、複数営業所の運行管理業務を集約する「一元化」も24年4月に制度化した。まさに「点呼革命」と呼べる環境が整った。これまでの検討やルール改正は、着実に物流現場のDXを後押ししている。

▲遠隔点呼が可能な範囲(出所:国土交通省)

「使いやすさ」を追求 制度の課題解決へ議論が深化

制度が普及期に入るなか、国交省のワーキンググループ(WG)は現場から見えてきた新たな課題の解決に乗り出している。6月開催の25年度第1回WGでは、主に3つのテーマを議論した。1つ目は、運行管理業務を「一元化」した際の運行管理者選任数の問題だ。

現行制度では、業務を集約する側の「集約営業所」と、集約される側の「被集約営業所」の双方で、管理する車両台数に応じた運行管理者が必要になる。これにより、一元化で効率化を図ったにもかかわらず、事業者全体で必要な管理者の総数が増えてしまうという矛盾が生じていた。これに対しWGでは、両営業所の運行管理者が互いに兼任できる仕組みを導入する実証実験を進める方針を示した。実運用が認められれば、管理者数を増やすことなく、柔軟な人員配置が可能になる見込みだ。

▲運行管理業務の一元化の実施要領の概要(出所:国土交通省)

2つ目は「他営業所運行管理者による対面点呼」の解禁だ。遠隔点呼を導入している事業者間で、ドライバーが相手方の営業所にいる場合、現状では対面できる状況でも遠隔点呼しか選択できない。この非効率を解消するため、遠隔点呼の仕組みを活用して情報共有を行うことを前提に、対面での点呼も可能とする制度化を25年度中に進める。これらの検討は、制度をより「使いやすく」し、現場の利便性を高めるための重要なステップと言えるだろう。

タブレットがデジタコに? 次世代システムの標準化へ道筋

未来を見据えた最大のテーマが、「次世代運行管理システム」の標準化だ。運行状況をリアルタイムに把握できる通信型デジタコは、安全管理上きわめて有用だが、平均19万円という導入コストが普及の障壁となっている。そこで国交省は、安価なタブレット端末などを活用し、専用機と同等の機能を実現する新たなシステムの標準化を検討する。

▲デジタコの性能要件を次世代管理システムに対応させていく(出所:国土交通省)

このシステムの核となるのがクラウド技術だ。運行記録をクラウドサーバーへ確実に保存することを前提に、機器本体に求められる耐熱性や耐衝撃性といった耐久性基準の一部を緩和する。これにより、高価な専用部品を使わない汎用的な機器でのシステム構築が可能となり、大幅なコスト低減が期待できる。

WGでは、GNSS(全球測位衛星システム)で走行距離を算定するタクシーの「ソフトメーター」との親和性が高いことから、まずタクシー業界で実証実験を開始する。その結果を踏まえて2026年度後期以降の本格運用を目指す計画を示している。この動きは中小事業者を含めたあらゆる事業者が、高度な運行管理システムを導入できる環境を整備する。物流業界全体の生産性向上と安全性向上に大きく寄与するだろう。

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