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日本郵便軽貨物処分、制度の限界と企業責任を問う

2025年9月3日 (水)
LOGISTICS TODAYがニュース記事の深層に迫りながら解説・提言する「Editor’s Eye」(エディターズ・アイ)。今回は、「日本郵便100局に軽バン車両停止方針、2000局も順次」(9月3日掲載)を取り上げました。気になるニュースや話題などについて、編集部独自の「視点」をお届けします。

ロジスティクス国土交通省は、日本郵便が軽貨物自動車を用いた配送業務において法定点呼を不適切に実施していたとして、車両使用停止の行政処分を科す方針を固めた。国交省によれば、全国2391局のうち100局分の監査が終了し、これらに対し、3日にも「弁明通知」を発出するという。通知を受けた郵便局は処分案に対して弁明の機会を与えられ、反論がなければ処分が確定する。正式決定の時期は未定であり、監査の進展に応じて処分対象は順次拡大していく見通しである。

事態の発端は、ことし4月に日本郵便の内部調査で全国的に点呼の未実施や不実記載が多数発覚したことにある。その件数は2391局に及び、国交省は特別監査を実施した。その結果、6月には一般貨物自動車運送事業の許可を取り消し、2500台のトラックやワンボックス車が5年間使用不可となった。大手事業者に対する事業許可取り消しは過去に例を見ない厳しい処分であった。

さらに、配達用バイクでも全国3188局のうち1834局で不備が判明した。郵便という公共性の高いサービスを提供する企業が、点呼という安全輸送の基本を軽視してきた事実は深刻であり、国交省が相次いで重い措置をとったのは当然である。今回の軽貨物車への処分もその延長線上に位置付けられる。

軽貨物運送は届出制で、事業許可取り消しは存在せず、事業停止も行政処分に従わないなど悪質なケースに限られる。そのため処分は実質的に「車両停止」に限定される。車両停止は違反行為に応じて付される「日車数」で表され、停止日数と対象台数の積によって算出される仕組み。仮に150日車の処分の場合は、10台を15日間、あるいは5台を30日間使用停止とするが、営業所が所有する車両の5割を超えない範囲で停止車両数を定めるため、少なくとも半数の車両は稼働を続けられる。

日本郵便のような大規模事業者は多数の車両を保有しているため、日車数を台数で割り返すと実質的影響は軽微にとどまる可能性がある。一方、数台しか持たない零細事業者や個人事業主にとっては、1台の停止でも直ちに収入減につながり、影響は甚大である。同じ「日車」処分であっても影響度に大きな差が生じる点は制度上の不公平との批判があり、日本郵便にとっては再委託費用や調整負担は避けられないものの、事業全体の運営を揺るがすほどではないとの見方も出ている。

同業者からは「監査が遅すぎる」との不満も聞かれる。しかし、対象となる局が膨大である以上、監査の長期化は不可避である。監査官は「トラック物流Gメン」として荷主や物流事業者に対して是正指導を担うほか、通常業務や事故調査も抱えており、人員不足が進ちょくを制約しているのが現実だ。

こうした過去に例を見ない膨大な監査は、日本郵便の法令違反に起因し、2024年問題の解決に向けた取り組みを物流業界とともに進める国交省や運輸局の現場に過大な負荷をかけている。日本郵便は国内最大手の物流事業者としての社会的責任を自覚し、猛省すべき立場にある。

点呼問題の発覚以降、日本郵便はデジタル点呼の導入や外部委託体制の拡充を進め、軽貨物処分による影響は限定的と説明している。しかし現実には、軽貨物ドライバーの確保は市場全体で激しい競争状態にある。EC市場の急拡大によりラストワンマイル物流の需要が急増し、宅配便大手やフードデリバリー業者までもが軽貨物ドライバーを奪い合っているのが実態だ。このため、間もなく迎える年末年始の繁忙期を、日本郵便が遅配などの混乱なく乗り切れるかどうかは依然として不透明である。

さらに、ことし4月から義務付けられた「貨物軽自動車安全管理者の選任」についても、日本郵便は対応が遅れている。確かに制度として2年間の猶予はあるものの、国内最大の貨物軽自動車運送事業者で、本来業界に対して範を示す立場にある同社が、安全管理の要職の選任を急がないことは看過できない。

今回の処分問題は、既存の行政処分ルールの甘さと、事業者側の責任意識の欠如を同時に浮き彫りにしており、制度と企業体質の両面からの改革を迫っている。(編集委員・刈屋大輔)

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