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ロジスティクス本誌が今週に報じたニュース記事「トップバリュ、即席麺輸送にレンタルパレット導入」が目にとまった物流関係者は少なくなかったのではないだろうか。明星食品がイオングループの即席麺輸送に日本パレットレンタル(JPR、東京都千代田区)のレンタルパレットを採用し、荷役時間を70%短縮したという内容だ。かつては当たり前とされてきた手積み・手おろしによる荷役は、いまや「レガシー」と化しつつある。家庭紙や菓子で先行してきた流れに明星食品が加わったことで、容積勝ち商材のパレット化はさらに加速する可能性が高い。
物流の現場で「容積勝ち」とは、重量が軽い一方で体積が大きいため、トラックの最大積載重量に達する前に荷室が満杯になってしまう状態を指す。ティッシュペーパーやトイレットロール、スナック菓子、即席麺が典型例だ。重量ではなく体積がネックとなるため、輸送効率を下げる要因として長らく課題とされてきた。
従来はばら積み・直積みが主流だったが、荷役には多大な人手と時間を要した。特に輸入コンテナのデバンニングでは、40フィートサイズ1本の荷下ろしに2-3時間を要し、酷暑や寒冷地では労働環境も過酷だった。人力に頼る作業は労働力確保の難しさにも直結し、効率化の足かせとなっていた。

▲大王製紙のパレット輸送の様子
この課題に対して、いち早く動いたのは家庭紙メーカーだ。大王製紙は2018年10月に衛生用紙のパレット輸送を開始し、荷役時間を最大78%削減した。王子ネピア、日本製紙クレシア、カミ商事も同様にパレット輸送を推進し、業界全体で共同利用スキームの整備が進んだ。
食品分野でも取り組みが広がっている。カルビーは「ポテトチップス」や「じゃがりこ」を対象にパレット輸送を導入し、通常4時間以上かかっていた荷役を30-40分に短縮した。栗山米菓「ばかうけ」は23年11月から物流改革を進め、幹線輸送のパレット化率60%を達成。荷待ち・荷役時間を従来の3時間から平均1時間へ短縮した。日清食品も12型パレットを採用し、従来120分かかっていたばら積み・ばら下ろしを15分に圧縮。さらに12型パレットは11型に比べて積載効率が11.7%向上し、幹線輸送や自動運転実証にも活用されている。

▲栗山製菓のパレット輸送の様子
25年5月、明星食品はJPRのレンタルパレットを利用した「一貫パレチゼーション」を導入した。対象はイオングループのプライベートブランド「トップバリュ」即席麺の輸送だ。工場でスターターパレットに積載し、物流センターまでパレット単位で運ぶ。使用済みパレットは回収・循環し、効率的に再利用する仕組みだ。
その効果は絶大だ。トラック1台あたりの荷役時間は従来比で70%短縮。自社パレットに伴う管理・回収コストも不要となり、物流センターでは入庫作業の効率化と車両待機時間の削減が実現した。明星食品の担当者は「効率化と作業負荷軽減の両立に成果が出ている」と語る。
明星食品の参入は、容積勝ち商材のパレット輸送を一段と押し広げる契機となる。即席麺は典型的なばら積み商品だったが、その領域にパレットが入り込んだことで、同業他社にとっても強力なモデルケースが示された。また、明星食品が採用したレンタルパレット方式は、回収・管理の負担を軽減できる点で注目される。共同利用や標準化の潮流と合致し、導入の心理的・実務的ハードルを引き下げる効果もある。

▲明星食品とイオングループによるパレット輸送の様子
24年に公布された改正物流効率化法は、荷主に荷役・荷待ち時間削減を義務づける規定を盛り込んだ。働き方改革関連法による時間外労働規制と合わせ、輸送の効率化は避けられない課題だ。明星食品の事例は、こうした制度要請を先取りするものとして行政からも注目される可能性が高い。
家庭紙や菓子メーカーに続き、即席麺という典型的な容積勝ち商材にまでパレット輸送が広がったことで、物流現場は大きな転換期を迎えている。明星食品の取り組みは、ほかの食品メーカーや量販店プライベートブランド商品にも波及していくとみられる。
パレット輸送は単なる荷役効率化にとどまらず、ドライバー不足への対応、温室効果ガス削減、輸送コストの適正化にも寄与する。手積み・手おろしが当たり前だった時代は過去のものになりつつある。パレット輸送への移行で次に名乗りをあげるのはどこのメーカーになるのだろうか。
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