イベント物流DX未来会議の最終セッションでは、「共創が導く新時代のサプライチェーン」をテーマにパネルディスカッションが行われた。登壇したのは、YKK AP常務執行役員CLO兼ロジスティクス部長の岩崎稔氏、ローランド・ベルガー パートナーの小野塚征志氏、セイノーホールディングス専務執行役員の河合秀治氏の3人。モデレーターは、LOGISTICS TODAY社長兼編集長の赤澤裕介と、X MileCEOの野呂裕之氏が務めた。
赤澤編集長は冒頭、「物流の課題がこの場で解決することはないにしても、課題を明確に共有する場にしたい」と述べ、議論をスタートさせた。小野塚氏は「物流業界は課題だらけだが、それは宝の山でもある」と指摘。課題を一つでも解決できれば新たなビジネス機会につながると強調した。

▲左からLOGISTICS TODAY代表の赤澤裕介、セイノーホールディングス専務執行役員の河合秀治氏、ローランド・ベルガー パートナーの小野塚征志氏、YKK AP常務執行役員CLO兼ロジスティクス部長の岩崎稔氏、X MileCEOの野呂裕之氏
続くセイノーHD河合氏は、需給のミスマッチが根本的な問題だと語った。「需要予測が外れて不良在庫が出れば、その分だけ無駄な輸送が発生する。半分の精度で半分運ばなくていいなら、輸送力不足は半減できる」と現状を指摘。単なる運賃交渉ではなく、荷主のサプライチェーン全体の効率化を支援する姿勢が重要だとした。
これに対しYKK APの岩崎氏は、12年前から在庫の全国分散をやめ、受注後生産体制に切り替えた経験を紹介。「数億円単位のコストダウンが実現した」としつつ、近年は短納期化の影響で再び在庫を持たざるを得ない課題もあると語った。
議論はデジタル化の遅れにも及んだ。野呂氏が「運送業の97%がファクスを使っている」と述べると、会場は驚きに包まれた。岩崎氏は「当社ではファクスを廃止し、クラウドで情報を共有している。昨年から9割以上が電子化できた」と明かした。一方、河合氏は「物流現場では今も紙だらけ」と述べ、荷主の発行フォーマットが統一されていない現実を語った。

▲物流データの重要性を説く野呂氏
小野塚氏は「電子契約が進む背景には“楽になる”という実感がある。制度として電子化を進めるインセンティブ設計も必要」と提案した。
後半では、発荷主だけでなく着荷主の課題にも焦点が移った。河合氏は「納品時間の制約が厳しくなり、待機時間が別の場所に転嫁されている。リードタイムと納品時間を一体で考えなければならない」と述べた。岩崎氏も「発荷主が到着時刻を意識しないまま出荷しているケースが多い」と指摘し、調達から納品までを一貫して俯瞰するCLOの役割の重要性を訴えた。
さらに、流通経済大学の矢野教授が飛び入りで登壇し、「ツールの問題ではなく、情報を出さない文化そのものが問題だ」と総括。需要情報や在庫情報の共有こそが最適化の第一歩だと強調した。
議論の締めくくりで小野塚氏は、「データ連携や自動運転は一朝一夕に進まないが、サプライチェーン戦略を再設計することで今すぐできる改善はある」と述べた。
岩崎氏は「まず自社から動き、取引先の困りごとを解決する姿勢が変革の起点になる」と語り、野呂氏も「物流に関わることが“かっこいい”と言われるような時代にしたい」と結んだ。
カンファレンスを主催した赤澤氏は最後に「来年はCLO選任義務化が始まる。答え合わせの年になる」と述べ、次回開催を宣言した。
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