イベント物流DX開発を手がけるX Mile(クロスマイル、東京都新宿区)は8日、業界横断型イベント「物流DX未来会議2025」を東京の3会場で開催した。延べ1500人が参加し、トラック新法やCLO(物流統括管理者)設置義務化を見据えた物流再編について、産官学・現場を横断した議論が展開された。
メイン会場の第3セッションでは「迫る2030年問題 輸送力危機のカウントダウン」と題し、セイノーホールディングス専務執行役員の河合秀治氏と、カワキタエクスプレス(三重県亀山市)社長で日本貨物運送協同組合連合会副会長の川北辰実氏が登壇。モデレーターはLOGISTICS TODAY社長兼編集長の赤澤裕介が務めた。大手と中小、両方の立場から「運送業のリアル」が語られた。

▲日本貨物運送協同組合連合会副会長でカワキタエクスプレス代表取締役社長の川北辰実氏
議論の冒頭では、赤澤編集長から「運送委託の多層構造を可視化する『実運送体制管理』を提出しているのは全体の18%にとどまっている。この現実をどう捉えるか」との問いが投げかけられた。
川北氏は「元請けでも100%管理できているとは言えない。誰が実際に走っているかは把握しても、書面化までは至っていない」と語り、現場との温度差を指摘。河合氏も「帳票を作っただけでは意味がない。中間事業者が機能していないこともあり、制度と実態の乖離がある」と応じた。
続いて「2024年問題を経て何が変わったか」と問われると、川北氏は「正直、何も変わっていない」と断言。「値上げ交渉を避ける荷主が再び増えている。真面目に対応した会社が損をしている構図だ」と語った。

▲セイノーホールディングス専務執行役員の河合秀治氏
河合氏も「業界は依然として厳しい。メディアが騒がなくなった今こそ危機感を持つべきだ」と強調し、真の輸送力危機は2030年前後に訪れるとの見方を示した。「600キロを超える地方路線では、車両も人材も限界に近い」と述べた。
人材確保の話題では、カワキタエクスプレスの取り組みが注目を集めた。同社はドライバーの7割が10-20代という若年構成を実現。川北氏は「16年前から新卒採用を継続し、TikTok(ティックトック)などSNS経由の応募が増えている」と説明した。
一方で「育てても2-3年で離職する。残業や休日を守る会社ほど報われにくい」と訴えた。河合氏は「大手では家族との時間を重視する“サラリーマンドライバー”志向が増えている」と対比を示した。
さらに河合氏は「幹線輸送では競合とも共同化を進めている。青森では佐川急便と、他地域ではトナミ運輸などと連携し積載率を上げている」と説明。「同じ高速を別々のトラックで走る時代ではない」と語った。自動運転についても「東京―大阪間を無人車両でつなぐ構想を業界全体で描くべきだ」と述べ、競争から共創への転換を呼びかけた。
最後に河合氏は「荷主とともに輸送設計を見直す時代。物流を経営戦略の初期段階から組み込むべきだ」と訴え、CLOとの協働を通じた“上流からの物流”の重要性を強調した。
続く第4セッションでは、「変革の鍵となる物流プロフェッショナル像」と題し、ローランド・ベルガー パートナーの小野塚征志氏、LOGISTICS TODAY編集委員の刈屋大輔氏、アサヒロジスティクス執行役員人財本部本部長の高橋寛氏が登壇した。モデレーターは赤澤氏が務め、人材不足への対応とCLO育成の方向性を議論した。

▲ローランドベルガー・パートナー、小野塚征志氏
小野塚氏は「2030年に向けた政府の新しい物流施策大綱では自動運転が柱になるが、普及には時間がかかる。現実的には効率化と外国人材の活用が鍵」と説明。
刈屋氏は「特定技能外国人制度の対象にトラックドライバーが加わったが、活用企業はまだ少ない」と指摘した。
高橋氏は、アサヒロジスティクスが国内で初めて特定技能外国人ドライバーを採用した事例を紹介。「採用単価は日本人の数倍だが、将来に備えた投資」と語った。

▲アサヒロジスティクス執行役員人財本部本部長の高橋寛氏
同社では、初心者や女性ドライバーを対象とした独自研修を強化し、埼玉県内に1万1570平方メートル(3500坪)の研修施設を整備しドライバーを育成。女性ドライバー比率は8%に達する。「理念を共有し、憧れの業界をつくる」ことを目標に掲げ、定着支援にも注力している。
後半では、来年4月末までに荷主企業へ設置が義務化されるCLO制度が議題となった。小野塚氏は「CLOは単独ではなくチームで機能を果たすべき存在」とし、「全体を把握する力、創造力、実行力の3要素が求められる」と指摘。

▲LOGISTICS TODAY編集委員、刈屋大輔氏
刈屋氏は「多くの荷主が“何をすればいいかわからない”と戸惑っている。CLOを支援する仕組みづくりが急務」と述べた。高橋氏も「荷主の意識は“委託先”から“パートナー”へ変わっている。人材育成でも異分野の研修を通じ、意味を考える人を育てたい」と語った。
セッションの締めくくりで赤澤氏は「人材こそ物流の持続可能性を支える軸。業界全体で知恵と仕組みを共有する時期に来ている」と総括した。
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